アパート管理人はダンジョンマスターを兼務する

深香月玲

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第15話 ダンジョンマスター不在

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それにしても周りは静かだな。
ダンジョン化したことに気付いていないのか、それとも防衛に徹しているのか。
まあ、積極的に人に対して力を振るおうとする人は、日本人ではそこまで比率が高くないと思う。いや、そう思いたい。
米国とは違って自衛のために銃などの武器を所持しているわけでもないしね。
素手で暴力を振るうにはかなり勇気がいるものだ。
反撃されることを想定すればなおさらだ。

そう言えば、尾茂さん達は「天の声」を一度も聞いていないようだった。
ということはダンジョン化したことはダンジョンマスターしか知ることができず、眷属は何も知らないのが普通なのかもしれない。
尾茂さんのように外に出ようとして出られないことを知るまで、いや、知ったとしても何が起きているか想像もできないことだろう。
そして、ダンジョンマスターが眷属にうまく説明できるとも限らない。
タワマンとか規模の大きいマンションだと眷属を掌握することも難しいかもしれない。
北野のババアのようにダンジョンマスターって何?それ美味しいの?状態の人も何割かいることだろう。
だとすると、明朝には集合住宅から学校や仕事に出かけようとした人たちが大パニックを起こすことになる。
明日は東京より西で社会機能の大半が麻痺しそうだな。

あ、ダンジョンマスターだけが行動制限に縛られずに自由に出入りができるなら、集合住宅の出入り口で待ち伏せすれば労せず拠点を制圧できるんじゃないだろうか。
ん?そもそもダンジョンマスターってどうやって決まるんだ?
私がコーポ大家の地主で管理人だったので、北野のババアも同じ立場だから普通にババアがあっちのダンジョンマスターだと思い込み、実際にその通りだったのは偶々だったのかもしれない。
樋渡さんの勤める病院の寮では寮長さんがダンジョンマスターだったわけだけど、当然その人は地主でも管理人ってわけでもないだろう。
ただの住んでいる人の代表だ。

分譲マンションならどうだろう。
普通は所有者による管理組合があり理事長や他の役員が選出されている。
実際の日々の管理は管理組合が管理会社を選定して契約することで管理会社から派遣された管理人が管理業務を行っていることが多い。
うーん、管理人は24時間常駐してるところはほとんどないだろうし、そのマンションの代表ということならやはり管理組合の理事長がダンジョンマスターに選ばれるのが妥当だろうか。

賃貸マンションはどうなる?
私のように土地建物の権利者がその建物の一室に住んでいる場合もあるだろうけど、全室を賃貸に出しているものの方が多いんじゃないだろうか。
分譲と同じように管理人は雇ったり、派遣してもらったりで常駐はしていないだろう。
寮みたいに責任者を決めているところなんて聞いたことはない。
あれ?これってもしかしてまずくないですか。

東伊豆の廃病院に棲みついていた恐らく犬が異形の怪物に変化していた。
ダンジョンマスターがいないためだろうと推測した。
同様の理由で、近所の浮浪者が入り込んでいる取り壊しの進んでいないアパートも危険だろうと予測した。
ダンジョンマスターがいないとそこの住人は怪物になってしまうのなら、全室賃貸物件はそれに該当しちゃうんじゃないだろうか。
そんな物件はこの近所に結構ある。
一番近いのはババアのところを通りを挟んだ向かいの六階建て賃貸だ。
ちょっと外からだけでも様子を見に行った方がいいかもしれない。

ということで来てみました。
どうやら予想が当たってしまったようだ。
既に怪物となってしまい理性を失った様子の住人の何人かがエントランスで踠いている。
明かりの点いてるいくつかの部屋のカーテンに浮かび上がる影も異形に見える。
これってもう人に戻ることはできないのだろうか。
だとしたら終わらせてあげるのも救いかもしれない。
当の本人は死にたくないと思っているかもだけど。

そして検証も必要だな。
リスポーンのルールが適用されるのか、のだ。
数体の怪物が蠢く中に単身乗り込むのは気が引けるし、一度入ったら制圧するまで出られなくなりそうだ。
あれ?ダンジョンマスターが不在のダンジョンって制圧できるのか?

『取り込まれた眷属が、代償なしの半永久リスポーンを繰り返すダンジョンとなっているため現状で制圧は不可能です。そして侵入者の出入りは制限されることはありません。』

ほう、通り抜け男のようにダンジョンに囚われることはないのか。
検証もせずに突っ込むのはちょっと怖いが、とりあえず「天の声」を信じるとしよう。
そして、「永久」、「現状で」って言い方がちょっと引っかかるが、リスポーンしまくりってことはポイント稼ぎやレベル上げができる絶好の狩場ってことになるんじゃないだろうか。
ということで、エントランスにいる怪物だけでも倒してみることにして脚を踏み入れた。

が、念のため一度外に出られることを確認して改めて中に入った。
ほら、やっぱり検証は大事だからね。
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