ほの明るいグレーに融ける

さほり

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金曜日

2.

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固まって自分を凝視する和臣に、男は満足そうに目を細めた。

「オレ、ナギサ。ナギサちゃん。お兄さんは初対面だと思ってるだろおけどぉ、お隣に住んでたからオレ、知ってるよ。お兄さん、ゲイでしょ?タチでしょ?バリタチでしょぉ?」

オレのお嬢にぜんっぜん、興味示さなかったもんねぇ?と、ナギサと名乗った男は歌うように言った。

言葉もなく、実際ナギサに会ってから和臣は一言も発していなかったのだが、冷たい春の外廊下に立ち尽くす和臣に、ナギサは少しテンションを落とした。

「ね、そんなに怖い顔しないで?オレ別にヘンケンとかないし、キョーハクとかするつもりもないし、ただ…… 」

上目遣いでしなを作っている。可愛いとでも思っているのだろうか。

「ただ、困ったときはお互い様だって、思ってるだけだからさ?」

それは脅迫ではないのだろうか。

「そいでさ、ただで泊めてくれなんて言わないよ?オレ、ほとんどヒモだし、女の子大っ好きだけどさ…… 」

挑むような目で、ナギサは下から顔を寄せてきた。

「ネコも、できるよ?」

冗談じゃない。ゲイはやれるなら誰でもいいとでも思っているのか。
そう言ってやろうと思ったが、息を吸い込んだところで思いとどまった。

――いや、腹立だしいが、まったく毛色の違うネコで発散するのも手かもしれない。そのほうが、思い出さないだろうか…… 
こいつなら、後腐れもなさそうだ。

改めて、ナギサを眺める。
ふわふわとした金の髪。細く整えた眉。近距離から見上げる大きな猫目。きれいな鼻筋からつながる、小鼻に光るピアス。
茶色い肌とのコントラストか、薄い唇が白く見えた。浮き出た鎖骨と薄い胸。
気づかれないように匂いも嗅いだ。体臭も、煙草や酒の匂いもしなかった。

目が合うと、ナギサは挑戦的ににやりと笑った。
一夜の相手を家に連れこんだことなどなかったが……

和臣はおもむろに、鞄から自宅の鍵を取り出した。
それを見たナギサが、いたずらが成功した子どものように目を輝かせる。

「なあなあ、名前なんてぇの?」
「…… 江藤。」
「あぁ!初めてしゃべったぁ!っじゃなくてぇ、下の名前!江藤は知ってるよ、表札出てるし。オレでも読めるっつの!」
「…… 」
「まぁ、じゃぁ、いいけどさぁ。エトーって呼んじゃうからね?」

ナギサが発音すると、まるで30年呼ばれ続けている自分の名前に聞こえなかった。
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