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水道字
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水道字
『現場からは以上です』
「おい、康太。今のニュース見てたか?」
口の中に漬物を放り込み、割り箸を皿の上に置いた。
「食べるのに夢中で見てませんでした。どうかしました?」
「駅に行く途中で、警察官と揉めてた人がいただろ。死んだんだってさ」
「何でニュースになっているんですか?変な死に方でもしたんですかね」
「警察官が危害を加えたって通報があったらしい。話してる最中に突然苦しみだして、泡を吹いたんだと」
……泡?背中がゾクッとした。その時の様子が、ネットで拡散されているらしい。
『だから、俺はしっかり停止線で止まったって言ってるだろ。っていうか、なんで隠れて見てるんだよ。それがまず、おかしいだろ。もっと堂々と立ってろよ。税金で飯食ってるくせに、やることも卑怯なんだな』
今の時代、すぐに動画を撮る人が多い。警察官と揉めているのを面白がっていたらしい。
『交通違反をしたのは貴方です。そもそもルールなのですから、僕たち警察官が見ていなくても守ってください。みなさん一人、一人がしっかりと守って頂けてれば、取り締まる必要なんてないのです』
警察官の言っている事は正しい。だが、捕まると何故か腹が立ってしまう。
『偉そうにしやがって。お前は一度もルールを破ったことのない完璧な人間なんだな』
横断歩道を歩く人たちが映し出され、周りの様子も確認できる。相変わらず男性が罵っている場面が続き、警察官の表情も呆れている。
(ドクン……)
……まさか。心臓の鼓動が激しくなり、口から飛び出してきそうだ。
「せ、先輩。少し戻してもらえませんか」
「何だよ、どの辺だよ。この先が早く見たいのによぉ」
「歩行者信号が変わった辺りで止めてください」
寒気がした。見間違いではない。絶対にあの少年だ。肌寒くなってきたのにタンクトップに半ズボン……。季節感ゼロな感じ……。それと、マスクの母親……。
「ありがとうございます」
自分のスマホでじっくりと見ることにした。思った通り、男性は苦しみ始める前にペットボトルの水を飲んでいた。突然胸を抑え始め、勢いよく何かを口から吐き出していた。
「康太、どう思う?この動画を見る限り、警察官は何もしてないと思うんだけどな。そんな事より、さっき電車の中でも女の人が同じような感じで倒れたよな」
ただの偶然とは思えない。僕の周りで同じような死に方をしている人が多すぎる。それも、この短期間で。先輩が言うように、電車内で倒れた女性もその一人だ。
「何もしていないと思います。警察官がかわいそうですよ。この男性もやっぱり、泡を吐いてますよね」
「さっきから何だよ。どう見ても泡だろ。本当に大丈夫かよ」
「ですよね。大丈夫です。僕も泡に見えますから」
『違』『悪』『注』『守』など黄色の文字が見える。何かを警告されているような気持ちになる。
本当の事を言っても信じてもらえないだろう。僕は頭がイカれてしまったのかもしれない。
動画を見終わった先輩がニヤニヤしている。不謹慎な人だなと思ってしまった。
「帰りに、この現場見てみようぜ」
「嫌ですよ。そんな野次馬精神、持ち合わせてないです」
「いちいち、変な言い方するな。ったく小説家気取りが」
そう言いながらも、どこか楽しそうな表情をしている。
「まだ飲み足りないが終電の時間になるし、そろそろ出よう。今日は俺が奢るよ」
「いいんですか?ご馳走様です!」
「その代わり、帰りに現場を通って俺の家で飲み直そうぜ」
「あ、はい……」
金欠な僕は二つ返事以外の選択肢はなかった。
遅い時間になると冷え込みも強くなり、酔いが覚めてきた。もう一度動画を見てみたが、やっぱり少年と母親は映っている。酔っていたから見えたわけではない。その事実に落胆した。
現場近くになってきたが、もう人は集まっていなかった。
「何にもないな。黄色いテープとか張られて人が集まってるかと思った」
「もう随分と時間経ってますし、動画も拡散されてますから現場に来る人はいないのかもしれないですね。寒いですし」
「そうだな。警察官はどうなったんだろう。それにしても仕事してるだけなのに気の毒だよな。絶対になりたくない職業だ」
「ですから……」
言いかけたところで、制止された。
「言われなくてもわかってるわ!」
大きな笑い声が夜空に響いた。僕も声を出し笑っていると、光る何かが視界の端にちらついた。迷わず近づき、手に取った。先輩が覗き込んできた。
「星型のキーホルダーか。随分と色褪せてるな」
「僕、どこかで見たような気がするんです」
「まぁ、どこにでもありそうな物だからな。まさか、持って帰る気か?やめとけよ。汚ねえし」
返事をせず、ポケットに入れた。はっきりとした理由はわからないが、捨ててはダメだと直感的に思った。
コンビニで酒やつまみを買い、先輩の家に着いた頃には日付が変わっていた。
「お邪魔します。意外と綺麗にしてるんですね」
「失礼だな。俺って結構、綺麗好きなんだよ」
「そうだったんですね。先輩のイメージ変わりました」
「どんな奴だと思ってたんだよ。一応、仕事でもリーダーだぜ」
体力的には辛いが、執筆活動の為に引っ越しのバイトをしている。それぞれの家庭には色々な事情があり、お陰様でネタに困った事はない。思った通りだった。
ソファーに座り、缶酎ハイを開けながら先輩が真面目な表情をしている。
「正直さ、康太が来た時『続いて三日だな』って思った。貧弱な体で背も小さいから、体力的に無理だろって」
「僕も続くか心配でしたよ。今でも、毎日クタクタです」
「でも、根性ある奴だった。康太が小説家の夢を話してくれた時、心から応援したくなったんだよ。この仕事を選んだ理由も夢の為だもんな」
「なんか照れるから、やめてくださいよ。……実は、何回も辞めようと思ったんです。人間関係も苦手だし、体力もないし……。でも先輩が僕の事を認めてくれたから頑張れたんです」
「な、なんか今度は俺が恥ずかしくなってきた。喉が乾いちゃったよ。水をがぶ飲みしたい気分だ」
そう言って、先輩はキッチンの蛇口を捻った。
……嘘だろ。
「先輩!飲んだらダメです!」
「やめろよ。大きな声出して。びっくりするだろ。なんで水飲んだらダメなんだよ」
(ゴクゴク……)
先輩の顔は眉間に皺が寄っている。
(ゴ、ゴホ、ゴ……)
どうして……。親子の姿は見ていない。いや、部屋に入って来れないだろう。なのにどうして、蛇口から水ではなく文字なんだ……。止めたのに飲んでしまった……。
「せ、先輩……」
『現場からは以上です』
「おい、康太。今のニュース見てたか?」
口の中に漬物を放り込み、割り箸を皿の上に置いた。
「食べるのに夢中で見てませんでした。どうかしました?」
「駅に行く途中で、警察官と揉めてた人がいただろ。死んだんだってさ」
「何でニュースになっているんですか?変な死に方でもしたんですかね」
「警察官が危害を加えたって通報があったらしい。話してる最中に突然苦しみだして、泡を吹いたんだと」
……泡?背中がゾクッとした。その時の様子が、ネットで拡散されているらしい。
『だから、俺はしっかり停止線で止まったって言ってるだろ。っていうか、なんで隠れて見てるんだよ。それがまず、おかしいだろ。もっと堂々と立ってろよ。税金で飯食ってるくせに、やることも卑怯なんだな』
今の時代、すぐに動画を撮る人が多い。警察官と揉めているのを面白がっていたらしい。
『交通違反をしたのは貴方です。そもそもルールなのですから、僕たち警察官が見ていなくても守ってください。みなさん一人、一人がしっかりと守って頂けてれば、取り締まる必要なんてないのです』
警察官の言っている事は正しい。だが、捕まると何故か腹が立ってしまう。
『偉そうにしやがって。お前は一度もルールを破ったことのない完璧な人間なんだな』
横断歩道を歩く人たちが映し出され、周りの様子も確認できる。相変わらず男性が罵っている場面が続き、警察官の表情も呆れている。
(ドクン……)
……まさか。心臓の鼓動が激しくなり、口から飛び出してきそうだ。
「せ、先輩。少し戻してもらえませんか」
「何だよ、どの辺だよ。この先が早く見たいのによぉ」
「歩行者信号が変わった辺りで止めてください」
寒気がした。見間違いではない。絶対にあの少年だ。肌寒くなってきたのにタンクトップに半ズボン……。季節感ゼロな感じ……。それと、マスクの母親……。
「ありがとうございます」
自分のスマホでじっくりと見ることにした。思った通り、男性は苦しみ始める前にペットボトルの水を飲んでいた。突然胸を抑え始め、勢いよく何かを口から吐き出していた。
「康太、どう思う?この動画を見る限り、警察官は何もしてないと思うんだけどな。そんな事より、さっき電車の中でも女の人が同じような感じで倒れたよな」
ただの偶然とは思えない。僕の周りで同じような死に方をしている人が多すぎる。それも、この短期間で。先輩が言うように、電車内で倒れた女性もその一人だ。
「何もしていないと思います。警察官がかわいそうですよ。この男性もやっぱり、泡を吐いてますよね」
「さっきから何だよ。どう見ても泡だろ。本当に大丈夫かよ」
「ですよね。大丈夫です。僕も泡に見えますから」
『違』『悪』『注』『守』など黄色の文字が見える。何かを警告されているような気持ちになる。
本当の事を言っても信じてもらえないだろう。僕は頭がイカれてしまったのかもしれない。
動画を見終わった先輩がニヤニヤしている。不謹慎な人だなと思ってしまった。
「帰りに、この現場見てみようぜ」
「嫌ですよ。そんな野次馬精神、持ち合わせてないです」
「いちいち、変な言い方するな。ったく小説家気取りが」
そう言いながらも、どこか楽しそうな表情をしている。
「まだ飲み足りないが終電の時間になるし、そろそろ出よう。今日は俺が奢るよ」
「いいんですか?ご馳走様です!」
「その代わり、帰りに現場を通って俺の家で飲み直そうぜ」
「あ、はい……」
金欠な僕は二つ返事以外の選択肢はなかった。
遅い時間になると冷え込みも強くなり、酔いが覚めてきた。もう一度動画を見てみたが、やっぱり少年と母親は映っている。酔っていたから見えたわけではない。その事実に落胆した。
現場近くになってきたが、もう人は集まっていなかった。
「何にもないな。黄色いテープとか張られて人が集まってるかと思った」
「もう随分と時間経ってますし、動画も拡散されてますから現場に来る人はいないのかもしれないですね。寒いですし」
「そうだな。警察官はどうなったんだろう。それにしても仕事してるだけなのに気の毒だよな。絶対になりたくない職業だ」
「ですから……」
言いかけたところで、制止された。
「言われなくてもわかってるわ!」
大きな笑い声が夜空に響いた。僕も声を出し笑っていると、光る何かが視界の端にちらついた。迷わず近づき、手に取った。先輩が覗き込んできた。
「星型のキーホルダーか。随分と色褪せてるな」
「僕、どこかで見たような気がするんです」
「まぁ、どこにでもありそうな物だからな。まさか、持って帰る気か?やめとけよ。汚ねえし」
返事をせず、ポケットに入れた。はっきりとした理由はわからないが、捨ててはダメだと直感的に思った。
コンビニで酒やつまみを買い、先輩の家に着いた頃には日付が変わっていた。
「お邪魔します。意外と綺麗にしてるんですね」
「失礼だな。俺って結構、綺麗好きなんだよ」
「そうだったんですね。先輩のイメージ変わりました」
「どんな奴だと思ってたんだよ。一応、仕事でもリーダーだぜ」
体力的には辛いが、執筆活動の為に引っ越しのバイトをしている。それぞれの家庭には色々な事情があり、お陰様でネタに困った事はない。思った通りだった。
ソファーに座り、缶酎ハイを開けながら先輩が真面目な表情をしている。
「正直さ、康太が来た時『続いて三日だな』って思った。貧弱な体で背も小さいから、体力的に無理だろって」
「僕も続くか心配でしたよ。今でも、毎日クタクタです」
「でも、根性ある奴だった。康太が小説家の夢を話してくれた時、心から応援したくなったんだよ。この仕事を選んだ理由も夢の為だもんな」
「なんか照れるから、やめてくださいよ。……実は、何回も辞めようと思ったんです。人間関係も苦手だし、体力もないし……。でも先輩が僕の事を認めてくれたから頑張れたんです」
「な、なんか今度は俺が恥ずかしくなってきた。喉が乾いちゃったよ。水をがぶ飲みしたい気分だ」
そう言って、先輩はキッチンの蛇口を捻った。
……嘘だろ。
「先輩!飲んだらダメです!」
「やめろよ。大きな声出して。びっくりするだろ。なんで水飲んだらダメなんだよ」
(ゴクゴク……)
先輩の顔は眉間に皺が寄っている。
(ゴ、ゴホ、ゴ……)
どうして……。親子の姿は見ていない。いや、部屋に入って来れないだろう。なのにどうして、蛇口から水ではなく文字なんだ……。止めたのに飲んでしまった……。
「せ、先輩……」
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