毎日がカルチャーショック

月澄狸

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毎日がカルチャーショック

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 人生というのは思い通りにはいかない。

 まず、説明も選択もなしに何もかもを理解してもらうなどあり得ない。
 次に、「誰かに自分を理解してもらう」ほどの時間も気力ない。私は人を理解することにさほど興味もないし、それは人々も同じである。私がどういう人間かなんて、たまたますごく気の合う匂いを感じるとかじゃなきゃ興味沸かないだろう。
 みんな忙しくて、家族と向き合う時間さえなかなか取れないくらいではないか。他人になど構っている余裕はない。


 人のことを冷めた目で見ておくのは。受け身を取っているようなものか。
「この人となら分かり合える!」とか、期待しすぎちゃあいけない。
 
 ちょっと冷めた目で見ておけば、うっかり自分の陰口を耳にしても「うん想定内」で済む。
 そう……ショックを受けたりパニクったり怒ったり、そんなのは疲れるのだから。全部想定内にしてしまいたい。


 人は自分からすると「えっ!?」というような行動を取る。平気で食べ物を捨てるとか。別に怒るほどのことじゃないじゃんと思うようなことで怒るとか。唐突に生き物を殺すとか。

 相手からしてもきっとこちらは予測不能なのだ。


 そもそも私は自分で自分が分からない。
 これじゃあ不親切だ。

 そして「世間一般的な感覚」はある程度知っておいた方が良いのだろう。


 みんなの頭の中に「基準ボード」みたいなものがあって、それを元に人は「失礼だ」とか「素晴らしい!」とか「楽しい」とか判断し、感情を持つ。

 感情って反射のように沸くものだろうか。いいや、考え方から「起こる」と思う。
「盗みはいけない」という「考え」があるから、盗みを目撃したら怒りが沸くか、怖くなる。

 私はすべての生き物を好きになりたいから……。急に出てこられたらビックリするかもだけど、ゴキブリやヘビが現れたら「嬉しい!」という感情になれる可能性がある。

 感情は、自分の好きなように変えられる可能性がある。「考え方」を変えるのだ。


 自分の考えは変えていけるけど、人の行動は相変わらず予測不能。でも良い人は「基準ボード」を「常識人」に設定してある。突飛な考えを持たず、多くを常識に合わせている。その中でちらほら、人より苦手なこととか、クヨクヨするポイントを持っている。

 常識のある人は想定しやすい。急に自分基準の行動を取ったり、自分基準の意見を押し付けまくってきたりしない。常識的な「基準ボード」を元に、他者のことも慮って思いを汲んでくれる。違う部分があっても、こちらがよほど常識から外れたことをしなければ、穏やかに対応してくれるのだ。


 私は常識的な「基準ボード」を元に、できる部分は世界を理解したい。そして理解してきたはずだ。

 でも私の理想、私の自由、私の好きな空気を世界が目指してくれるとは限らない。地球は私の乗り物じゃない。みんなのものだ。

 みんな自分の意志があるのに、常識的な「基準ボード」に合わせている。そして譲れない部分で悩む。それが個性。


 この常識から離れるには。

 好きな世界観を「創作」すればいい。何を怒るも、何を嘆くも、何を喜ぶも、「自分の」自由に。

 そりゃぶっ飛ぶにしてもある程度「常識」を分かっているから、「変」や「面白い」の加減も分かるのだろうけど。
 創作者ならば理解もお金も求めずぶっ飛べば良いのだろう。自分の世界へ。


 そして、自分の好きなアニメやマンガみたいな人間関係をリアルで構築することは一応「可能」なのだろうけど。

 命や魂についてめちゃくちゃ語っている人がいて、「この人は素晴らしい!」と盲信しそうになったとしても。目の前にゴキブリが現れた途端、躊躇なく殺すかもしれない。表裏があるかもしれない。

 私のことも、もしかしたら一見「良い人だなー」と思ってくれる人がいたかもしれないけど。しばらく見ていたら、優柔不断で実力が伴っていなくて行き当たりばったりで、口先だけの中身スカスカ女だと分かる。
 なので期待されちゃあ困るから、等身大以上に自分を良く見せたくない。低く見積もってもらいたい。それでいて批判しないでもらいたい。私は非力なのだ。


 ちなみに私はゴキブリがどうとか言うが、これは実在のゴキブリのことであると同時に、例えでもあるかもしれない。

「えっ!?」というようなカルチャーショックを起こすとき。それは何も、生き物や食べ物に対してだけの問題じゃない。
 良い人だと思っていた人が急に「何の役にも立たない人は安楽死させるべき」みたいなニュアンスの発言をするかもしれない。


「命」と「社会」。「個人」と「みんな」。

 私は多分「命」や「個人」を大切にしたい派で、「みんなのために一人を潰してもしょうがない」「みんなのために命を差し出したい」みたいな考えは嫌だ。自分の考えもまだ未発達で、少数派を追い込んでいると思うけど、誰かのために誰かを殺す、我慢させるのは嫌だ。

 でも、個人の思いや命より、社会を優先させるべきだと言う人も多い。そしてその社会ってのが何を目指しているのか、私にはよく分からない。永続的に社会が「存在」すること、それが大事なのだろうか。どうせ地球は滅ぶんだから、永続はないのだが。


 ゴキブリは命として底辺に見られている。役に立たない、気持ち悪い、罵り馬鹿にしても構わない存在。

 それは人間の底辺とも被る。人が落ちこぼれたり荒れたりしているにはそれなりの理由があるかもしれないし、脳の問題かもしれないけど、解明・改善・理解じゃなく、「クズはクズだからどうでも良い」と掃き捨てるような人がいる。

 私はいじめられ、性被害に遭っても「悪い」と言われ、「働けないニートは社会のクズ」みたいな声に怯え、「犯罪者は死刑」ということにも疑問を持ってきた。


 私自身がゴキブリなのかもしれない。ゴキブリに自分を重ね合わせたのかもしれない。
 役に立たないと言われ、目にも入らないように殺され、姿を愛でてもらうこともなく、飛んだり走ったりと懸命に生きているだけで罵られる。

 そして何より恐ろしいのは集団心理。人は「みんなが悪いと言うものは悪い」「みんなが罵るものは自分も罵って構わない」と思っているのだ。だからみんなゴキブリを助けず、口を揃えてキモイと言うし、みんなが誰か一人の陰口を言っていたら、我も我もと、その人の陰口を言う。

 私は小学生の頃、男子の集団にいじめられた。別に暴力振るわれたりはしていないし、向こうに言わせりゃこっちが非常識で生意気だったのかもしれないけど。それでも集団ってのは卑怯でたちが悪い。


 私は集団が嫌い。社会が嫌い。

 人は個人で考えることを許されない。いや、許されてはいるけど、個人の感覚だけで突き抜けて自分の世界を作り、味方を見つけて生きるなんて、余程強くないと無理だろう。

 理解者を求めるようなメンタルの弱さじゃきっとダメ。理解してもらうんじゃなく、自分で道を作り、生き様を見せ、失敗しながらもそれを修正・洗練させていき、いつか成功を見せる……。

「ちゃんと道として機能しているし、問題点もなくなってきたな」となったときに。人々は勝手に理解する。それまでは問題があるかもとか実現不能とか、勝手にワヤワヤ言ってくるのだ。


 私も強いゴキブリになりたい。叩かれてもへこたれず、一見ビクビクしながらも図々しく、自分独自の美しさを誰にも理解されなくても、いつも脂ぎってピカピカと輝いている。そんなゴキブリになりたい。
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