8 / 11
再会
しおりを挟む
別世界での、予想外の再会。観覧車は焦りつつ次の言葉を探します。しかしそうしている間にも少女は近づいてきて、何の躊躇いもなく支柱に手を触れ、観覧車を見上げたのです。
「やった! やっと会えた……!」
「やっと? えっ……」
「久しぶりだね。……やっぱりあなた、喋れるんだ……」
墓場のような場所に似合わない、満面の笑みを浮かべる少女。
観覧車は戸惑いました。人違いではないのでしょうか。自分は人間ではないのだから、自分に会いに来たり、探し求めたりする存在などあるはずがありません。元の世界で人間と会話をしたことも一度もないのです。この夢のような世界では、起きる出来事もやはり、夢みたいなものなのでしょうか?
あまりに嬉しそうな少女の様子に一瞬言葉を失った観覧車でしたが、すぐ思い出したように言いました。
「あなた、迷子ですよね? 早く戻った方が良いですよ」
「戻るってどこに? せっかく会えたのに」
少女はきょとんとした様子です。
「そんなことより私、あなたに会いたかったんだよ」
「ど、どうして?」
「何だかねぇ……あなたとは話せそうな……いや、話していた気がしたんだよ。……私だけかな」
少女はまたまっすぐ観覧車と目を合わせました。
「私間違ってる?」
「……いいえ」
観覧車はそう答えざるを得ませんでした。どうやら人違いでも勘違いでもないらしく、少女はまっすぐ自分に意識を向けているのです。
「知ってる? 私のこと」
「はい……」
「あなたに話しかけてたの、覚えてる?」
「最後の一言以外は独り言かと……」
「独り言じゃないんだけどなぁ。まぁいいや。もう一方通行じゃないね」
「はい……」
「良かったぁ。全部私の勘違いかと思ってた……」
少女は胸をなで下ろすように言いました。
「これって夢かな。あなたとお喋りできる気がして、また会いたくて、願ったらお話できたっていう夢」
これは少女の夢……彼女は夢の中で自分に会いに来ている……それもそうかもしれない、と観覧車は思いました。ならば別に無理に元の世界に帰そうとする必要もないのかもしれません。
「それにしてもあなたの声、綺麗ね」
「そ、そうですか?」
「うん。元の世界でも声はあったの?」
「元の世界で話したことはありません。声を出したのは今が初めてです。あなたと話すために」
「私と話すため、か。嬉しいな」
それから少女と観覧車は何気ない会話を続けました。まるで前から言葉が通じていたように。気の合う友達だったように。
そうしているうちに観覧車にとっても、人間と話しているという奇妙な状況への違和感などすっかり消えていたのでした。
この長い夢は孤独な自分が生み出した幻想なのか、それともひょっとしたら、元の世界で自分が消滅する瞬間に見ている白昼夢なのか……。観覧車には本当のことは確かめようがありません。けれど思えば以前から、この少女の意識の流れは自分にも向けられていたのかもしれません。最後の時も、その前からも。
正面からまっすぐ光を当てられるような想いに観覧車は慣れておらず、自分に意識を向ける人間もいるという事実から目を逸らし続けてきました。が、少女の想いに気づいた今、会話の真似事をしていたのが自分だけではなかったこと、相手も同じ気持ちだったことに、じわじわと喜びがこみ上げてくるのでした。
すると意外なことに、この不確かな世界の中でも、少女との再会が夢や幻ではないように感じられたのです。自分は消えたわけではなく、表の世界で存在した頃の続きを歩んでいるのだ、とも。
あたりの景色もいつの間にかハッキリとしています。まるであの頃に戻ったように。
ここは時の流れも正確には感じられない、何も物差しのない世界。そしてそこに、あるのかないのか分からない存在が2つ。
ここに流れる時間が確かなものであると観覧車が信じても、それを証明するものは何もありません。やはり実際には幻であるかもしれないのです。
しかしいつ消えるのかも分からず佇んでいるだけだった観覧車が、再び観覧車としての感覚を取り戻せたこと……その事実の前にはもう他のことはどうだって良いような気さえするのでした。
そんな楽しい一時を過ごしたあと。しばらくすると観覧車は少女に「元きた道を戻るように」と告げました。
「名残惜しいですがそろそろお別れです。きっと人間であるあなたには戻るべき場所があるのでしょう。人間がこんな寂しい場所に一人きりでいるべきではありません」
「やった! やっと会えた……!」
「やっと? えっ……」
「久しぶりだね。……やっぱりあなた、喋れるんだ……」
墓場のような場所に似合わない、満面の笑みを浮かべる少女。
観覧車は戸惑いました。人違いではないのでしょうか。自分は人間ではないのだから、自分に会いに来たり、探し求めたりする存在などあるはずがありません。元の世界で人間と会話をしたことも一度もないのです。この夢のような世界では、起きる出来事もやはり、夢みたいなものなのでしょうか?
あまりに嬉しそうな少女の様子に一瞬言葉を失った観覧車でしたが、すぐ思い出したように言いました。
「あなた、迷子ですよね? 早く戻った方が良いですよ」
「戻るってどこに? せっかく会えたのに」
少女はきょとんとした様子です。
「そんなことより私、あなたに会いたかったんだよ」
「ど、どうして?」
「何だかねぇ……あなたとは話せそうな……いや、話していた気がしたんだよ。……私だけかな」
少女はまたまっすぐ観覧車と目を合わせました。
「私間違ってる?」
「……いいえ」
観覧車はそう答えざるを得ませんでした。どうやら人違いでも勘違いでもないらしく、少女はまっすぐ自分に意識を向けているのです。
「知ってる? 私のこと」
「はい……」
「あなたに話しかけてたの、覚えてる?」
「最後の一言以外は独り言かと……」
「独り言じゃないんだけどなぁ。まぁいいや。もう一方通行じゃないね」
「はい……」
「良かったぁ。全部私の勘違いかと思ってた……」
少女は胸をなで下ろすように言いました。
「これって夢かな。あなたとお喋りできる気がして、また会いたくて、願ったらお話できたっていう夢」
これは少女の夢……彼女は夢の中で自分に会いに来ている……それもそうかもしれない、と観覧車は思いました。ならば別に無理に元の世界に帰そうとする必要もないのかもしれません。
「それにしてもあなたの声、綺麗ね」
「そ、そうですか?」
「うん。元の世界でも声はあったの?」
「元の世界で話したことはありません。声を出したのは今が初めてです。あなたと話すために」
「私と話すため、か。嬉しいな」
それから少女と観覧車は何気ない会話を続けました。まるで前から言葉が通じていたように。気の合う友達だったように。
そうしているうちに観覧車にとっても、人間と話しているという奇妙な状況への違和感などすっかり消えていたのでした。
この長い夢は孤独な自分が生み出した幻想なのか、それともひょっとしたら、元の世界で自分が消滅する瞬間に見ている白昼夢なのか……。観覧車には本当のことは確かめようがありません。けれど思えば以前から、この少女の意識の流れは自分にも向けられていたのかもしれません。最後の時も、その前からも。
正面からまっすぐ光を当てられるような想いに観覧車は慣れておらず、自分に意識を向ける人間もいるという事実から目を逸らし続けてきました。が、少女の想いに気づいた今、会話の真似事をしていたのが自分だけではなかったこと、相手も同じ気持ちだったことに、じわじわと喜びがこみ上げてくるのでした。
すると意外なことに、この不確かな世界の中でも、少女との再会が夢や幻ではないように感じられたのです。自分は消えたわけではなく、表の世界で存在した頃の続きを歩んでいるのだ、とも。
あたりの景色もいつの間にかハッキリとしています。まるであの頃に戻ったように。
ここは時の流れも正確には感じられない、何も物差しのない世界。そしてそこに、あるのかないのか分からない存在が2つ。
ここに流れる時間が確かなものであると観覧車が信じても、それを証明するものは何もありません。やはり実際には幻であるかもしれないのです。
しかしいつ消えるのかも分からず佇んでいるだけだった観覧車が、再び観覧車としての感覚を取り戻せたこと……その事実の前にはもう他のことはどうだって良いような気さえするのでした。
そんな楽しい一時を過ごしたあと。しばらくすると観覧車は少女に「元きた道を戻るように」と告げました。
「名残惜しいですがそろそろお別れです。きっと人間であるあなたには戻るべき場所があるのでしょう。人間がこんな寂しい場所に一人きりでいるべきではありません」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~
Masa&G
ファンタジー
王女セリーナが連れ去られた。犯人は、貧しい村出身の二人の男。だが、彼らの瞳にあったのは憎しみではなく――痛みだった。
閉ざされた小屋で、セリーナは知る。彼らが抱える“事情”と、王国が見落としてきた現実に。
恐怖、怒り、そして理解。交わるはずのなかった三人の心が、やがて静かに溶け合っていく。
「助けてあげて」。母の残した言葉を胸に、セリーナは自らの“選択”を迫られる。
――これは、王女として生きる前に、人としての答えを、彼女は見つけにいく。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる