三密は遠くなりにけり

月澄狸

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三密は遠くなりにけり

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 ネットで怖い話を見てしまった日から、私は恐ろしい感覚に取り憑かれていた。
 テレビで怖い話を見るときは、大抵その後眠って一晩経つと感覚が消えるのだけれど。ネットで見る話はなんだか強烈なのだ。

 昔も衝撃的な話を見てしまって何日も引きずったことがあった。……見なければ良いのだけれど。


 死は怖いものでも悪いものでもない。だけどどうしても、たまらなく恐ろしくなってしまうこともある。
 目を閉じたくない、一人になりたくない、暗闇が怖いと。


 再びそんな気持ちに陥ったその日のことだった。
 遠くからズンズンと大きな重低音が響いてきた。
 これは……音楽フェスだ。


 家にまで音が聞こえるくらいの場所で、毎年音楽フェスが開催される。それがその年も始まっていた。
 歌っている人の声やメロディーまでは聞き取れないけれど、遠い場所からの熱気と人の気配と雰囲気が伝わってくる。

 あんな遠くの場所から発された音は普通届かないのに、それが聞こえるなんて。前年は音の不思議に思いを馳せていたが、その年は不思議に思う余裕はあまりなかった。

 ただ、遠くでも近くでも多くの人間が生きているということ、今向こうでイベントを行って盛り上がっていること、その存在感やパワーにとても救われた。遠くでイベントが行われているという安心感があり、音楽のおかげで夜でも明るく暖かかった。


 そんなことを昨日思い出し、何気なく今日音楽フェスについて検索してみた。するとなんと、明日そのフェスがオンラインで開催されると書いてあるではないか。

 驚いた。正確な時期なんて覚えていなかったのに、まさか開催が明日だったとは。不思議なご縁を感じる。

 そして今年もやるなんて。
 見に行ったことはないし、内容も知らないのだけどなんだか嬉しい。


 私は人と関わるのがあまり得意じゃない。とはいえ人の集まりには今まで助けられてきた。

 テーマパークや祭りの賑やかさ、イベントの熱気、子どもたちの笑い声……。楽しんだり喜んだり遊んだりしている人間の姿、そこにいる人々が生み出す雰囲気というのは良いものだ。

 以前文化交流イベントに行ったときも楽しかった。中学生の頃の文化祭も楽しかった。

 イベントにはすごい力がある。

 生命の輝き、音の力、闇を吹き飛ばす大きなパワー……。
 その光を浴びると、きっと私たちは永遠に存在しているのだろうと感じられるのだ。


 また集えるときが来たら嬉しい。またあの音が響いてきたら嬉しい。
 歌って笑ってハグして……そんな姿を見たい。

 遠くの演奏会やイベント、花火の音に耳を傾けながら、こちらでは静かに空想や思い出の世界に浸るというのもまた楽しいのだ。なんだか懐かしくてちょっぴり寂しくて、遠いところに思いを向けているという時間が味わい深い。


 近くでも、遠くからでも、人のパワーというのは暖かい。

 離れていても救われることはあるのだと、そんなことを思い出した秋だった。
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