ワタクシが猫で、アナタがネコで

なずとず

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(オ、オモチャってそういうことかよぉ……!)

 トウマはユンユンの胸に顔を埋めたまま、赤くなっていた。

 ユンユンがトウマを連れて入ったのは、明るい通りから一本奥に入ったところにある小さなビルだった。3階まで階段を登る間もユンユンの身長に動揺していると、ただの事務所の入り口のような簡素な扉の前へと辿り着いた。ユンユンは迷い無くその扉を開く。

 中は普通の店舗に比べると薄暗かったものの、それでも暗闇に慣れた眼には少し明るく感じた。何か高級なジュエリーでも扱っているのかと思うような、煌びやかな飾りつけの施された店内入り口は扉と似つかわしくなくて、トウマは困惑しながら見回す。入り口からは店の全貌は高い棚で区切られていて見えなかった。

 店に入るとすぐのところにカウンターが有って、どういうことか天井から黒いレースが垂れ下がっており、カウンターの中も、そこにいる店員も見えなかった。ただ向こうからはこちらがわかるらしい。レースの向こうから薄っすらと覗く人物が「あらぁ、ユンユンじゃない」と口調にしては野太い声を出した。

「いらっしゃい、アンタ久しぶりね」

「久しぶりネ~。今、大丈夫アルカ?」

「ちょうど誰もいないわよ。貸し切りにしといたげる」

「謝謝。今日はハジメテのヒトと一緒アルカラ、ちょっと時間をかけたいネ」

「そうなのぉ? ふぅ~ん……」

 じ、とレースの向こうから見られているような気がする。トウマがあうあうとユンユンに隠れていると、店員がクスクス笑う気配がした。

「ごゆっくり、楽しんでね」

 それだけ言うとそれ以上の詮索はしてこなかったし、ユンユンは「さ、中に入るアル~」とトウマを引っ張り始めてしまった。棚で区切られていた店内に薄いカーテンを開けて入って、トウマはぎょっとした。所狭しと並んだガラス張りの棚に置かれていた物がなんなのか、ウブなトウマでさえ一目でわかってしまったからだ。

「ご主人サマと遊ぶ『オモチャ』、一つ選んで帰るアル」

「……ッ」

 耳元に顔を寄せて囁いてくるものだから、トウマは真っ赤になってしまった。それもそのはず、棚に並んでいたのは色とりどり、形も様々の、いわゆる大人の『オモチャ』だったからだ。

「ゆ、ユンユンッ」

 小声で名を呼ぶと、「ナアニ?」と可愛く首を傾げて、しらばっくれられる。

「なにって、そりゃ、そのぉ……」

 言葉に詰まった。何と言ったらいいのやら。

 例えば、「これは誰が使うのか」と尋ねれば「ご主人サマの前立腺開発アル♡」と返されそうだ。先手を打って「俺がユンユンに」と言ったらどうかとも思ったけれど、ユンユンのことだから「嬉しいアル、ご主人サマの好きにしてネ♡」と喜びそうだし、ついでに言うとトウマにそんなつもりは一切無い。恋人ならまだしも、飼い猫にこんなモノを使う趣味は無かった。もっとも、使われる趣味だって無いのだけれど。

「……ひ、一つ選ぶって……お金とか……」

 辛うじて言えたのはそれだけだった。ユンユンは「大丈夫アル」と頷く。

「ワタクシの貯金がまだ使えるネ」

「じゃ、……働かなくていいのか? その……そういうお店で……」

「勿論アル! 信じられないかもしれないケド、今はすっかり足を洗ってるアルヨ?」

 そんなことより、とユンユンはトウマをぎゅっと抱き寄せて囁きかけた。

「どれで遊びたいアルカ?」

「……っ、ど、どれって……」

 そう言われて改めて棚を見る。ガラス張りの棚の上には、それは多種多様な『オモチャ』が並んでいる。一目で男性器に似せた物とわかる、肌色や紫色のグロテスクかつ凶悪そうな物も有るし、ピンクローターのようなかわいらしい(かわいらしいか……? 冷静になるとそうでもないけど、比較対象がヤバすぎてそんなふうに見える)タイプも置かれていた。

 他にも拘束具のような物から、ピンク色の細くて球をたくさんくっつけたような形の棒やら、何に使うのかわからない金属の何かやら。とにかくたくさんありすぎて、トウマは困惑した。

「使い方、ワカル……?」

「え、と……」

「説明してあげるネ。コレは細いからご主人サマでもすぐ使えるアル」

 そう言ってユンユンは、先ほど見た細い棒を指差す。確かに、その指より少し太いくらいで、他のオモチャに比べれば受け入れやすそうな気はした。

(……って! なんで挿れられる前提で考えてるんだ俺は……!)

 考えないようにしようとしているトウマに、ユンユンは続けて囁く。

「でも指と違ってコブがいっぱい有るネ? 想像してみるヨロシ、トウマ、指だけでもあんなに気持ちヨさそうだったのに、コレで前立腺をナデナデコリコリされたらどんな感じか……」

「うう、う……」

 先日のことを思い出して、トウマは顔を赤くした。あのユンユンにナカを触られた時の、胎内からグズグズに融けていきそうなほどの快感。確かに、指一本でさえあんなことになったのに、こういった専門的な道具なんて使われた日にはどうなることか。考えないようにしていたって、どうしても想像してトウマは身を縮めた。こんなところで興奮なんてしたら後が大変だ。色々と。

 なのにユンユンはトウマの気持ちを理解しているのかそうでもないのか、次々と道具を指差して解説してくれる。

「このビーズは引き抜く時に、前立腺と入口をポコポコ刺激してとっても気持ちイイアルネ。こっちはその太いヤツにバイブレーションもつけたパールで……バイブレーションは経験したコト、有るカ? 病みつきになるくらい気持ち良くなるアル、お試しならこの可愛らしいローターの振動から遊んでみてもイイネ。こっちのほうはもっと本格的なヤツで……あ! そうアル、前立腺刺激ならそれ専用の道具が有るヨ! 挿れるだけで女の子みたいにキュンキュンお尻でイっちゃうっていう、」

「あぅ、ゆ、ユンユンん……! も、もういい、もういいから、解説はもういいから……」

「そうアルカ? あ、こっちは見ての通り拘束具アル。手枷足枷みたいな簡単な物から、奥のほうにはガッチガチに固定するのも。使ったらご主人サマ、身動きもできないままユンユンに可愛がられちゃうアルネ? 他にも貞操帯を付けて自分じゃ触れなくしたり……」

「もういいからぁ……!」

 トウマは困った声を出した。そう、トウマは困っていたのだ。彼は決してユンユンにそうした話をされるのが嫌なわけではない。どうしても想像してしまうと、腰の奥にズンとした何か重い熱を感じてしまって、これ以上はダメだと思うのだ。

「あ、そうアル」

 そんなトウマに、ユンユンはある一角を指差した。おずおずそちらを見ると、ベルトがいくつか置かれているのが見える。革でできたそれは、真っ黒や真っ赤なベルトにスタッズや金具が取り付けられたいかつい物から、リボンのついたピンクの可愛らしいものまでさまざまで……。そしてトウマはそれが何か理解した。

「首輪つけたら、どっちが『ネコ』ちゃんなのか、わからないアルネ」

「……っ」

 トウマはようやく、ユンユンの言っている『ネコ』がなんなのか理解し、耳まで赤くした。そしてその棚に並んだ首輪のいずれかを、ユンユンの手で巻かれ、紐に繋がれることまで想像する。

 それは、それはなんて甘美な。

「うううう……」

 トウマはうめき声を上げて、棚に背を向けるとユンユンの胸板に顔を埋めた。「アラ」と珍しく驚いたような声を出したユンユンに構わず、ぎゅっと縋りつく。これ以上は、羞恥で無理だ。想像で頭が爆発しそうだし、なによりそれで体の熱もどうにかなってしまいそうだった。

「……イジメすぎちゃったカナ? ゴメンネ? ご主人サマ……」

 何も買わないで帰るアルカ? 優しく髪を撫でられて、トウマはまた小さく「うう」と声を出す。彼の頭の中ではグルグルと色々な考えが複雑に駆け巡っていた。例えばそれは、「この道具を使ったらたぶんとても気持ちいいい」「でも気持ちいいのは怖いし恥ずかしい」「しかもそれを飼い猫に」「でもユンユンはユンユンだし」などの感情を含んでいた。

 しかしどうしてだか、帰るとも言い出せない。今はユンユンの胸に顔を埋めているから見えない、オモチャから目を離せないような心地だった。どんな快感が、快楽が自分を待ち受けているのだろうという期待に抗えない。けれど、それでもまだ、トウマは羞恥心と理性のほうがなんとか勝っているという状態で。

「ユンユン……」

 帰るとも言えない、欲しいとも言えない。トウマはどうにもならなくて、ユンユンの服をぎゅっと握った。

「……フゥム」

 ユンユンはしばらくの間、思案して、それから「じゃあ、ご主人サマ」顔を覗き込む。

「二人っきりで、オモチャを選べるトコロに行くアルカ? そしたら、ご主人サマも恥ずかしくないヨ」

 その声音がとても優しいものだから、トウマは少し考えた後にコクリと頷いてしまったのだった。


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