ワタクシが猫で、アナタがネコで

なずとず

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 ユンユンの様子は気になったけれど、トウマにとってはソウジだって大切な友人なのだ。ファミリーレストランでお腹いっぱい夕飯を奢り、世間話やこれからの展望を話した後に、トウマはソウジに10万円の入った封筒を渡した。

 ソウジは涙さえ浮かべてトウマに頭を下げて感謝をしていたが、それだって初めてのことではない。トウマは苦笑いしながら彼を見送って、そしてユンユンの待つ部屋へと帰って来た。

 リビングまで戻ると床に人間姿のユンユンが、服を着て座り込んでいる。しかしどうしたことか、頭頂部からはピコンと黒い猫の耳が生えているし、尻からは尻尾が生えていた。そしてその長い尻尾で、たしーんたしーんと床を叩いているではないか。

「ゆ、ユンユン……ただいま……」

 恐る恐る声をかける。ユンユンはじとりと言った表情でこちらを見た。怒っているというか、不貞腐れているというか。とにかく、いつものユンユンとは随分違う様子だ。

「ユンユン、ごめん、何か嫌なことしちゃったかな……」

 彼と話をするために自分も床にしゃがみこむと、ユンユンは飛びかかる勢いでトウマに詰め寄った。

「金を渡したアルカ⁈」

「ひえっ、わ、渡したよ」

「どうしてアル! アイツ、どうせ返さないネ! きっとあんなこと言って競馬とかパチンコとかキャバクラに使うに決まってるアルヨ!」

 ユンユンはもう怒り心頭といった様子である。青い猫目がギラギラ光って見える。トウマは気圧されながらも「まあ、それは……」と同意した。

 ソウジがろくでなしだということなんて、トウマも随分前から知っている。どうしようもない男なのだ。女に騙されることもあるし、美味い話に乗っては泣いているような。そんなこと、ユンユンに言われなくたって知っていた。

「ならどうして貸したアル! アレはご主人サマのお金ヨ! あんな奴に渡さなければ、ご主人サマの欲しいモノも、猫缶も、『にゅ~る』もいっぱい買えたアル!」

「そうだろうなあ……」

「ご主人サマのお尻に入れるオモチャだって買えたのヨ!」

「そ、それは、大声で言わないで、お願い」

 ユンユンの口を慌てて塞ごうとするけれど、興奮したユンユンは少しも止まってくれなかった。

「今すぐお金を取り返してくるヨロシ! アイツはロクデナシ、ワタクシにはわかるネ!」

「そ、それはわかってる、俺だってわかってるけど……」

 だって、友達が困ってるんだよ。俺の数少ない友達が。そう告げると、ユンユンは一瞬息を呑んで、それから。

「この、オヒトヨシ!」

 と大声で怒鳴った。

「ユンユン、声、」

「バカ! ワタクシの気も知らないで! そんな甘ちゃんしてたらいつか痛い目に合うヨ! 市中引き回しの上獄門アル!」

「そんな、時代劇じゃないんだから」

「因果応報って言葉が有るノ、ご主人サマだって知ってるネ! ヒトの金借りてばっかりで返さないヤツは悪いヤツ、だからどうなってもいいケド! ご主人サマは何も悪いことしてないアル! アナタが損する必要無いノヨ!」

 トウマは困ってしまった。ユンユンが自分のことを思って怒っているのは痛いほどわかる。とはいえ、ソウジの助けになりたい気持ちにも偽りは無い。

 トウマはユンユンの顔を恐る恐る見る。彼は怒っていたけれど……どこか、泣きそうな表情でもあるような気がした。尻尾こそ毛を逆立ててウネウネ動かしているけれど、耳はぺたんと倒れているし。本当に怒っているわけではなくて、複雑な心境なのだろうと感じたし、だからこそ彼が本気で自分のことを心配しているのだとトウマも理解した。

「……わかった。もう、ソウジが同じように言って来てもよく話し合うことにするから」

「お金は渡しちゃダメアル」

「それは……状況によるから……」

「ユンユン、怒るアルヨ⁉」

「もう怒ってる、怒ってるよ!」

 ユンユンは何か形容しがたい唸り声を上げて、それから低い声で呟いた。

「もうコレは、ワカラセルしかないアルネ……」

「え? 何、わからせるって……」

 怪訝な顔をしていると、ユンユンが今までになく意地悪そうな表情を浮かべて言った。

「ユンユンの言うコト聞かないとオシオキするって、ご主人サマのカラダにたっぷりワカラセル、ってことアル……!」

「ひえ⁉」

 悲鳴を上げるや否や。ユンユンが飛びかかって来て、トウマは、うわーーっと叫び声を上げる。恐らく、こんなことを続けていたら隣室から苦情が来そうな状況だった。






「んんーーっ! うーーーーっ!」

 口をテープで塞がれ、両腕を後ろに縛られて、トウマはベッドの上で喚き散らしている。とっくに服は全て剥ぎ取られている上に、煌々と部屋の灯りがついているものだから恥ずかしくて仕方ない。ユンユンはと言えば、ゴソゴソとクローゼットの奥を漁り黒いボストンバッグを取り出して来た。

「いやあ、備えあれば憂いなしアルナァ」

 ニコニコしながら、びいーっとバッグのファスナーを引く。これから何が起こるのかと怯えるトウマの目の前に、ポフンと先日散々鳴かされたオモチャが置かれた。

「んーーーーッ⁉」

「ご主人サマ、気に入ったみたいだから確保しといたアル。あ、そうだそのテープ、粘着力は無いから剥がす時も痛くないヨ、安心するネ。こんなこともあろうかと、ローションとセットで注文しといて良かったアル~」

 ボストンバッグから大手通販サイトの段ボールが出てきて、トウマは混乱した。猫が通販してる。トウマが受け取ったわけではないから、きっとユンユンがコンビニ受け取りとかそういうことをしているのかもしれない。彼が段ボールを開けると、中からローションのボトルが2つも出てきたし、更には革のベルトが二本でてきた。

「んう」

 白と黒のコントラストが鮮やかな、可愛らしい模様の首輪だ。しかもそれが2本有る。トウマは首輪とユンユンを交互に見た。どういうことなのかさっぱりわからない――ならよいのだけれど。トウマは薄々わかってしまっていた。

「んーと……はいご主人サマ、イイ子にしてるアルヨ~」

「ん、ん!」

「革は人肌とだと引き攣れて痛いトキあるから、大人しくしててネェ~」

 そう囁きながら、ユンユンは手際よくトウマの首にその首輪を巻き付け始めた。ん~、っと顔を赤くして声を出したけれど、そんなものは抵抗にもならないわけで。あっという間にトウマはそれこそペットの如く首輪を巻かれ、裸で横たわることになった。

「ヨイショ」

 それを満足そうに見下ろした後で、ユンユンは自分の首にも同じものを巻き始める。器用にスルスルと巻き終わると、彼はニコニコ嬉しそうな表情でトウマに顔を寄せた。

「見て、ご主人サマ。ワタクシたち、お揃いアルネ」

「ん、ん」

 この状況、恐らく普通に考えてなかなか怖いシチュエーションかもしれないのだけれど。トウマの中にはユンユンへの絶対的な信頼が有る。痛いこと、酷いことはしないと約束してくれたユンユンが、今こうしているのなら、それはつまり、これから気持ちいいことをするということなのだ。

 大きな不安と、期待、そして彼の言う通り、お揃いであると言われた時の胎内の妙な疼き。――トウマは色々と開発されつつあった。

「ワタクシが猫で、アナタがネコで……」

 ユンユンはトウマの首輪を指先で一撫でし、うっとりとした表情を浮かべて囁く。

「同じ『ねこ』の先輩として、ちゃあんと躾けてあげないといけないアルナァ?」

「うう、ん、うぅ~……!」

 覆い被さってきたユンユンの妖艶な顔が近い。やはり距離感が猫だ。その柔らかな唇が、ちゅ、と柔らかく頬に触れ、オシオキだとか躾けだとか言っていたわりには優しい、と感じた。そのまま、頬に手を当てられ、耳を舐められる。

「んっ、んん!」

 たったそれだけで、ゾクゾクして胎内が熱くなる。そのまま舌先でつつかれたり、甘く噛まれたり、「これからどんなえっちなコトされると思うアルカ?」などと囁かれたりして、どうにも興奮してしかたなく、不自由な身体をくねらせた。

 耳をいじめられているだけだというのに、頬も身体も赤く染まって、ふうふうと呼吸が荒くなってしまっている。かわいい、えっちなコと囁かれながら、フェザータッチで身体を撫でられると、それだけでビクビク震えてしまいそうになった。

「ん!」

 耳を責められながら、乳首に指がかかる。先日覚えた快感を嫌でも思い出してしまった。ユンユンは「いい子」と囁きながら、優しく乳首に触れる。撫で上げ、潰すように押し、転がして。その僅かな刺激がピリピリするようで、腰が震えた。

 もどかしい快感だ。もっと強い快楽が欲しい。とはいえ、口を塞がれてはおねだりの一つもできはしない。声にならない呻き声を出しながら悶えることぐらいしか。

 羞恥と快感で滲み始めた視線をユンユンに向けると、彼は妖艶に微笑んだ。

「た……っぷり、かわいがってあげるアルナァ……?」

 その青い猫目が意地悪そうに細められて、トウマは怖い気持ちよりもよほど強く、ゾクゾクとした期待を感じてしまうのだった。

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