高慢エルフはルームシェアに向いてない!

なずとず

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6-3 最高の初夜のために ※

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「ん……っ、ぅ、……っ」

 白いベッドシーツの上には、色白の肌を赤く染めたセレが仰向けになっている。彼は俺から視線を逸らすように壁のほうに顔を向けたままだ。その金色の髪が散らばって、ひとつの絵画みたいに綺麗だった。

 いつもは余裕がある穏やかな表情を浮かべていたセレも、今は耐えるように目を閉ざしたり、視線を彷徨わせたりを繰り返している。そうなった原因は、もちろん俺だ。

 昨日までと同じく、たっぷり時間をかけてハグやキスを繰り返した後、お互いに全身を撫で合った。愛しさが高まってどうしようもなくなってから、今日の段階に入ったのだ。

 つまりその。お互いの、その。一番恥ずかしい場所に触れた。俺たちはそれだけで言葉も出せないぐらいの羞恥を覚えて、しばらくお互い顔を合わせられなかった。そのうちにはセレも、「もう、先に進もう」と小さな声で言いだしたものだから、俺はうなずいてからその意味を考え、また顔が真っ赤になった。

 ここでいう先、というのは、ふたりが繋がるための最後の準備をする、ということだ。俺は恐る恐るセレの脚の間に手を伸ばした。

 それからもう、しばらくの時間が経過していた。

「セ、セレ……大丈夫?」

 もう何度目かになる質問を投げかけて、俺はセレの顔を見る。彼は頰を赤く染めて、浅い呼吸を繰り返しながら黙ってうなずくばかりだった。

 セレの奥まった場所は意外なことに、ローションで濡れた俺の指を柔らかく受け入れてくれた。温かな胎内に、もう3本も。ドキドキするのが止められないまま、ゆっくり指を曲げるように動かすと、セレが抑えきれない声を漏らした。

「……っ、ぁ、っ、う、……んぅ……」

 痛いのか、苦しいのか。不安になるけど、事前の取り決めで苦痛が強ければ申告してもらうことにしていた。でもセレはそういうことを言わないし、止めようともしない。だから、この苦しげな声は……少なくとも、辛いのではないんだろう。

 だからといって、気持ち良くなってくれているのか、確信は持てない。男同士でこんなことをするのは初めてだから。

 ただ、セレが仰向けになっているものだから、彼の象徴が熱を持っているのはわかる。そのことだけが、俺の支えだった。

「……じゃあ、最初に言ってたとおり、アレを使うためにももう少し動かしてみるな?」

「……ぁ、あ、……っ、アズ、マ……っ」

 くいくいと指をゆっくり動かしてみると、セレが掠れた声が耳に響く。ゾクゾクするのを感じながら続けていると、セレの呼吸は次第に早く、浅くなっていくのだった。

「ぁ、っ、はぁっ、あ、アズマ、っ……もう、もういい、もういい、から……っ」

 しばらくすると、セレが身を捩って俺の手を押さえる。間違いなく制止の意図があった。嫌だったか、と不安になってセレを見ると、彼は腕で顔を隠すようにしながら「先に、進んでくれ」と呟く。

「ほ、本当に大丈夫?」

「構わない」

「じゃ、じゃあ……アレ、使うよ?」

 セレは言葉もなくコクリと頷いた。俺は少し躊躇したけど、従うべく指を抜いた。

「ぁ……っ、ぅ、……」

 その時もセレが艶めかしい吐息を漏らすものだから、俺は心臓がバクバクいってどうにかなりそうだ。のぼせた時みたいに全身と頭が熱くて、股間と胸が痛いほどに興奮している。だけど今日は本番までいかないだなんて、エルフはどこまで淡泊でいられる種族なんだろうと感動とも呆れともつかない気持ちになった。

(その割に、こういうの使うんだもんなぁ……)

 俺はベッドの隅に用意していたソレを手に取った。

 綺麗な空色の透き通った棒だ。うねるような曲線のついた、ガラス細工みたいに美しいソレは、なにも説明されなければ本当にオシャレなインテリアみたいだった。

 だけど触れば柔らかく、太さと長さはまあ、言ってしまえば男性器とほぼ同じ。要するにコレは、エルフの国の美しすぎる「大人のオモチャ」というやつだった。

 エルフは長い長い前戯期間を挟むために、完璧な初夜を求める。だから受け入れる側(本来なら女性ってことだ)が準備をするらしい。初めて繋がる日を迎えるまでは、コレを自ら使って慣らしを続けるのだとセレは大まじめに言っていた。それを聞いて俺はどんな顔をしていいかわからないまま、エルフってなんてエッチな種族なんだと思った。

 事前の取り決めどおり、オモチャにローションを絡ませる。薄明かりの下でてらてら光るソレはどうしようもなくエロく見えて、ドキドキは治まるはずもなくますます強くなるばかりだ。

「じゃ、じゃあ、入れるよ?」

 ムードも何もない報告をして、セレの脚の間へと持っていく。セレはひとつ深呼吸をしてから、「ああ」とうなずいた。覚悟を決めたんだろう。俺も気持ちを固めて、ゆっくりとソレをセレの内部へと導いていく。

「……っ、あぅ、う……っ!」

 ゆっくり、ゆっくり呑み込まれていく様を目の前で見せられて、興奮しないわけがない。おまけにセレは、吐息交じりの声を漏らしているし、汗ばんだ脚にびくっと力が入るのまで全てが視界に納まっている。こんな状態でお預けだなんて、本当に信じられない。ましてや、本来ならこの工程だけでも数日かけるだなんて正気とは思えなかった。

 全てがセレの中に収まって、見えるのは持ち手の部分だけになる。ごくり、と喉を鳴らして、それから首を振った。今日は最後までいかないのだ、と言い聞かせなければ欲望に負けてしまいそうだ。

 顔を上げてセレに身を寄せる。胸を上下に動かしながら呼吸する彼は、けれど恍惚といった表情を浮かべている。覆い被さった俺に気付くと、笑みさえ浮かべた。

「まるで、君を受け入れているみたいだよ」

「……っ、セレ……」

「君には、苦労ばかりかけてしまうね……」

 セレは掠れた声で呟く。前々から思っていたけれど、こういう素直な言動をされると本当にまずい。言葉が普通になってしまえば、エルフというのは美しくて穏やかな、本当に想像上の理想の恋人みたいだった。

 誰か、エルフに人類共通語の正しい取捨選択を教える教室とか開けばいいのに。そうすればきっと、エルフと人類は──人間は、もっともっと歩み寄れるのにな。

 そんなことを考えていると、セレが「アズマ」と名を呼びながら手を伸ばしてきた。

「君を、抱きしめたいよ」

 そんな可愛いことを言われて、拒める奴なんかがいるんだろうか。おずおずセレの上に身を寄せると、ぎゅっと抱き寄せられた。少し汗ばんだ柔らかい肌と、ほのかな花の甘い香り、温かな体温はいつもより高くて、トクトクと心音がこちらまで伝わってくるような心地がする。

 セレは俺の額へ、愛しげに何度もキスを落とす。まるで親が子に、飼い主がペットにするようでもあったけど、なにより愛する人へするようでもあった。嬉しさと切ない幸福感でいっぱいになり、俺はセレが指示するよりも先に、彼の熱へと手を伸ばしていた。

「……っ、ぁ、……アズマ……!」

 固くなったソレに触れると、セレが甘い声を漏らす。昨日よりも甲高い声が頭の奥まで直接届くみたいで、酷く興奮した。

 もうこれ以上我慢するのは無理だ。セレだって終わりは欲しいだろう。

 俺は自分のすっかり興奮した熱に触れ、おずおずとセレのものへと重ねた。

「……っ、ふ、ぅ……」

 セレが身を捩って手を伸ばす。それを見て、俺はセレのものと自分のを一緒に、ローションで濡れた手で包み込む。ひ、と息を呑むセレに視線だけで合図して、俺は緩やかに手を上下に動かしはじめた。

「あ、っぁ、あ……っ」

「……っ、セレ……!」

 手を動かす度にくちゅくちゅと水音がする。セレの甘い声も耳に届いて、クラクラしそうだ。セレも気持ち良いんだろう。身を震わせながら、どうにか後ろに埋まっている棒に指をかけて、ゆっくりと動かしている。

「ひぅ、う……っ、あ、アズマ、アズマ……っ」

 セレの声がいっそう高くなり、身を仰け反らせる。この、お互いに擦り合わせつつ受け入れる場所を自分で慰めるのが、エルフの正当な手順らしい。なんてエッチな種族なんだ……と改めて噛み締める。こうして最高の初夜のために、セレも頑張っているのだ。

 なら、ちゃんと気持ち良くしてあげないと。下心はなしに、そう思う。幸い、人間もエルフも基本的な身体の作りはほぼ同じだ。きっとこうすれば気持ち良いだろう、と感じるように手を動かせば、セレはますます乱れていった。

「ぁ、あっ、アズマ……っ、あ……っ」

「セレ、大丈夫? 気持ち良い?」

 不安になって尋ねてから、とんでもない質問をしてしまった気がした。けどセレは素直にこくこくうなずいてくれる。その度、金の髪が揺らめいて、綺麗なのにどうしようもなく色っぽい。

 セレは俺を受け入れようと努力していて、俺を受け入れたくて気持ち良くなっているんだ。その事実だけでたまらなくなる。セレともっと、深い関係になりたい。

 明日。明日には、俺たちもひとつになれるんだ。 そう考えると色々なものがこみ上げてきて、俺は動かす手を早めた。

「ア、……ッ、アズ、マ……っ、ぁ、あ……!」

「セレ、セレ……っ」

 セレが俺に縋りつく。俺もセレも気持ちよくてたまらず、声も脚も震えている。目の前まで解放が見えていて、もう今となっては止めようもない。ふたりで、快楽の高みへと昇りつめていった。

「セレ……っ、一緒、に……!」

「ぁ、っ、アズ、マ、……っ、ああ、あ、ひっ、──……っ!」

「~~……っ!」

 そうして俺たちは一緒に至高の快感へと至った。俺の手のひらには、二人分の精が溢れ出す。その倒錯感と、幸福感といったら。俺はその全てを感じながら、恍惚の中にあった。




 事後、気怠い身体で一緒に過ごすのは、なんだか幸せな感じがする。世の中の色んなことがどうでもよくて、二人だけの時間を満喫する。

 お互い呼吸が落ち着いてきた頃、セレがふと呟いた。

「明日、私たちはひとつになれるね」

 その言葉に彼を見ると、穏やかな微笑みを浮かべている。青い瞳は穏やかで、ゆっくりと瞬かせながら唄うように続けた。

「肉体の最も奥深い場所で、私達の魂はひとつになり、混ざり合い、融け合う。そこに種や個人の過去現在未来もなく、ただただひとつになるんだ。なんて幸福なことだろうね……」

 その囁きに、俺もうっとりした心地になった。

 確かに、この上なく幸せなことのように感じる。生まれたときも、育った環境も、種も歳も違うふたりだ。それが無数の命の中で惹かれ合いひとつになるなんて奇跡のようだし、俺たちはまだまだ深くわかり愛し合えるのだと思えば、とても待ち遠しい。



 明日になれば──。

 俺たちは互いに、まだ来ない明日に焦がれながら、抱き合って眠りについた。
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