高慢エルフはルームシェアに向いてない!

なずとず

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7-4 大切な気持ち ※

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 恋人になるための、神聖な儀式みたいに長い工程。その最後の日だ。

 俺たちは昨日と同じように、念入りなシャワーの後ベッドで寄り添った。

 最初はお互い、思うところもあった。シルヴィオさんに言われたことも、これかのことも不安だ。でも、今だけはそれを忘れたい。

 もしかしたらすぐにでも引き離されるかもしれない。そうでなかったとしても、いずれセレとは何らかの形で別れの時を迎えてしまうのだろう。そう考えると、今この時を大切にしないといけない気持ちが強くなり、たまらなくなる。

 それはセレも同じみたいで、合流するなり俺たちは言葉もなく身を寄せ、抱きしめ合った。セレの温もりが今まで以上に愛おしい。顔を上げると、セレが優しく俺の唇を啄む。何度か繰り返してから、舌を絡め合った。

 身体の内側で繋がるのは、とても心地良い。これからもっと奥深いところで重なるのだと考えると、身体がどんどん熱くなっていく。

 セレが好きだ。セレとずっと一緒にいたい。この想いばかりは誰に何と言われようと確かなものだった。

 昨日と同じように行為をはじめていく。俺もセレも少し慣れたのか、思っていたよりスムーズに先へ進んでいった。

「アズマ、アズマ……」

 セレは何度も熱にうかされた子供のように俺の名を呼び、求めてくれる。それが嬉しくて、どこか切なくて、幸せで。裸で抱き合い、キスを交わし。お互いの最も隠された場所を愛し合った。

 入念な準備が終わった頃には、お互い息が上がり身体まで赤く染めていた。

「アズマ、もう、大丈夫だよ……」

 セレがうわずった声でそう言ってくれる。うなずいてセレの胎内に入っていたものをゆっくり抜くと、それだけで彼は身を震わせた。そんな姿も愛おしくて、早くひとつになりたくてたまらない。

「セレ、……じゃあ、その、……入る、な」

 またムードも何もない宣言をしてしまった。だけど、こういうときになんて言ったらいいんだろう。わからないまま、俺はおずおずとセレの脚の間へと腰を寄せる。

 セレは俺に目を合わせては、不安げに天井へ視線を彷徨わせていた。怖いのかな、そりゃ怖いよなと思うけど、でもセレは止めたいとも言わないし逃げもしない。それ以上に、繋がりたいと思ってくれているのだ。そう考えると幸せで、俺も早くひとつになりたいと願う。

 俺たちは、最も深いところで繋がり、魂まで混ざり合うのだ。

「セレ、辛かったら言ってくれ、な」

「……あぁ……」

 セレは小さくうなずく。のろのろ手を伸ばし、俺の腕に触れた。不安なのか、それともセレも俺と同じ気持ちなのか。確かめるより先に彼の手を握り返し、指を絡めた。

「……ぁ……っ」

 俺の熱をあてがうと、セレが微かな声を漏らす。覚悟を決めるように目を閉じたのを見て、俺もひとつ深呼吸をしてから腰を進めた。

「んぅ、ん、ん……っ」

「……っ、セ、レ……っ!」

 セレの温かな胎内へと分け入っていく。流石に苦しいのか、セレは小さな呻き声を漏らすけれど、痛がったりする様子はない。それでも無理はさせなくて、極力ゆっくりと腰を進めていく。

「……っ、ぁ、ズ、マ……ッ」

「ぅ~~……っ」

 一番太い部分が通ってしまうと、あとはずるずる奥まで入ってしまった。狭いそこは俺の全てを包み込んでいて、油断するともっていかれそうだ。どうにか堪えて、セレの手をぎゅっと握ると彼も応えてくれた。

 馴染むまで少しの間、じっと息を整える。しばらくすると余裕が戻ってきて、顔を上げセレを見た。

 彼は熱にうかされたような表情をしていて、辛そうではない。でも、セレのことだから何があっても俺のために我慢してしまいそうにも思えて不安だ。

「セレ、大丈夫? 苦しくないか……?」

 するとセレは、汗の浮かぶ顔に微笑みを浮かべ、小さくうなずいた。

「今、私は……この上ない幸福の中にいるよ……」

「セレ……」

「君と、深いところでひとつになっている……。熱く、心地良い……君と、本当に融け合ってしまいそうだよ……。これ以上の喜びが、この世にあるのだろうか……」

 セレはうっとりとした表情で語る。俺は愛おしさで胸が苦しくなるほどだった。

 きっとシルヴィオさんは、こんなにも愛した相手を失った後のことを心配している。その痛みや苦しみ、寂しさは相当なものだろう。覚悟していても、想像を越えてくるような悲しみに違いない。

 だけど、この喜びを捨て、知らないでいきることもまた、本当の幸せと言えるんだろうか? 少なくとも、今この時俺たちは深く繋がり愛し合い、幸せに満ちているのに。

「……セレ、俺はこれからもずっと一緒にいるよ」

 自然と、言葉が零れ落ちる。

「俺たちにはこれからも、まだまだ色んな喜びがあるはずだ。その時、俺もお前のそばに、できるだけ長くいたいよ」

「アズマ……」

「だから、どうしてもシルヴィオさんがお前を連れていくなら、……俺も、エルフ郷に行くよ」

 人類の集う街で、人間と共に生きたい。そんなセレの願いは半分しか敵わなくなるかもしれないけど。恋人になった(なったよな、たぶん)責任は果たしたい。こればかりは、シルヴィオさんにいくら反対されたって、譲れない気持ちだ。

「けれど、それではアズマの夢は……」

「夢? ……あぁ……」

 夢、と言われて一瞬何のことかわからなかった。俺の、介護の知識を活かした仕事に就きたい、という話のことだろう。確かに、エルフの郷ではそんな仕事はなさそうだ。

 だけど。

「……大丈夫。心配しなくていいよ。たぶん俺、誰かの役に立ちたかったんだ……」

 エルフの郷にだって、内容を選ばなければ仕事はあるだろう。近くには他人類の住む町があるというし、そこでなら介護系のものもあるかもしれない。最悪は、エルフたちのかわいいハムスター役に徹することだってできる(本当に最悪の場合だ)

 そうでなくても、セレのそばで、セレのために生きられる。だから、俺は大丈夫だ。

「今日は守ってやれなくてごめん」

「……いいんだよ、アズマ」

 セレは柔らかく微笑み、俺の頬を撫でる。

「私たちは対等なのだろう? どちらかだけに、守ってもらうような、どちらかだけが、幸せになるような……そんな関係では、ないはずだよ」

「セレ……」

 確かにそうだ。俺たちは互いに支え合い、愛し合う。これからずっと、だ。そう考えるとたまらなくなって、俺もセレにキスを落とした。

「アズマ……もう、大丈夫だよ」

 セレが甘い声で囁く。それがどういう意図かはすぐ理解できた。俺はうなずいて、動くよと宣言してからゆっくりと腰を動かしていく。

「ぁ……んっ、ぁ、あ……っぅ、ア、ズマ……っ」

 セレが俺の名前を呼び、縋りついてくる。俺も夢中でセレを求めた。動くたび、セレの内部が愛しげに締め付けてうねる。気持ちよくて、心地良くて幸せでたまらない。本当にこのまま融けてしまいそうだ。

 セレも同じ気持ちになれているだろうか。不安になって彼を見ると、紅潮した顔でどこかうっとりとした表情を浮かべている。きっと快感を拾えているはずだ。

 じっと見つめていると、気付いたセレが恥ずかしそうに目を逸らせる。

「ぅ……っ、な、情けない顔を、しているだろう……」

「……かわいい顔だと、思うよ、セレ」

 素直に答えると、セレは困ったように視線を彷徨わせて、横を向いてしまった。エルフ特有の長く尖った耳が、先の方まで赤い。不思議と、美味しそうだと思ってしまった。そっと耳先に唇を寄せると、セレは悲鳴のような声を上げる。

「ァ、……っ、アズマ、……っ」

「気持ち良く、なれてる……?」

「……っ」

 不躾だとは思いつつ尋ねると、セレは小さいながらもコクコクと頷いてくれた。良かった、と安心しつつ、もっと気持ち良くしてあげたいと感じる。

 ほったらかしになっていたセレの前に触れると、彼は「ア、」と甲高い声を漏らした。ここは男であれば、ほぼ確実に快感を拾える場所だ。ゆっくりこすりながら腰を動かすと、セレはこれまで以上に声を上げてくれる。

「あっ、……あ、ぁっ、ひ……っ、アズ、マ、アズマぁ……っ!」

「……っ、セレ、セレ、……っ好きだ……っ」

 甘い声に、俺もたまらなくなって囁く。セレは「私も」とうわごとのように返しながら、快楽に涙を零し身を反らせた。

「ひっ、あ、アズ、マ……っ、も、もう……っ」

「あぁ……。一緒に、一緒にイこうな、セレ……っ」

 ぎゅっと手を握って、腰を早める。セレはますます乱れて、俺に足さえ絡め頂を求める。もうお互い止まれるはずもない。全身が、頭が熱に焼かれていく。

「……あっ、も、……っ、アズマ、……っ、あぁ、ア……っ!!」

「~~……っ!」

 セレが一際大きな声を漏らして、びくんと仰け反る。それと同時に、俺を強く締め付けた。つられて俺も高みへと昇りつめる。

 その時間の、なんて幸福なことか。今はこれ以上何もいらない。セレと深くひとつになって、心も魂も混ざりわかり合えている気がする。世界のことなど、未来のことなど全て些細なことのように感じた。

 誰が何と言ったって。俺たちは今ここで、この瞬間、生きて愛し合っている。そればかりは疑いようもない真実で──。

 それこそが、きっと一番大切なことだ。今なら。シルヴィオさんともちゃんとわたり合える気がした。

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