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第4話 学校外での初クエスト
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夕暮れのチャイムが鳴り終わったころ、俺は学校の門を出た。
その瞬間、視界の端に淡い光が揺らめいた。
―
【クエスト発生】
・内容:公園のベンチを掃除しろ
・報酬:筋力+0.5 耐久+0.5 魅力+0.5 スキルポイント+1
―
「……学校の外でも出るのか」
驚きより先に、胸が高鳴った。俺だけに見えるこの画面は、どうやら日常のどこにでも潜んでいるらしい。
公園は、学校から少し歩いた先にある古い広場だった。サビついた鉄棒とひび割れたブランコ。人影はまばらで、寂れた空気が漂っている。
目的のベンチは落書きと泥でひどく汚れていた。ガムのこびりつきまである。ため息が漏れる。
俺は購買袋に残っていたティッシュとハンカチを取り出し、必死に擦った。泥はなかなか落ちない。指先が痛み、爪の間が黒くなる。通りすがりの子どもに「なにしてんの?」と笑われたが、それでもやめなかった。
汗が額を伝い、シャツの背中を濡らす。誰も褒めてはくれない。けれど、画面だけは俺の努力を数字に変えてくれる。
―
【クエスト進行:50%】
―
その文字を見ただけで、腕に力が戻った。俺は立ち上がり、水道まで走ってハンカチを濡らす。泥と落書きをこすり、何度もすすぐ。ハンカチは真っ黒に染まり、手のひらは赤く擦り切れた。だが、少しずつ木の質感が浮かび上がってくる。
通りすがりの老人が足を止めた。「ご苦労さんだね」と声をかけられ、思わず背筋が伸びた。誰かに認められるなんて、久しぶりだった。胸の奥が熱くなり、思わず「ありがとうございます」と小声で返した。老人は微笑み、ゆっくり去っていった。ほんの短いやり取り。それでも、俺にとっては宝物みたいに感じられた。
夕日が沈みかけたころ、ベンチはようやく元の色を取り戻した。
―
【クエスト達成】
・筋力:+0.5
・耐久:+0.5
・魅力:+0.5
・スキルポイント:+1
―
【ステータス】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:160.1cm
・体重:71.8kg
・筋力:5.1
・耐久:5.1
・知力:5.0
・魅力:3.5
・資産:¥300(+100/日)
・スキルポイント:2
―
「……ちゃんと伸びてる」
小さな数字の変化に、心が躍った。昨日までゼロだった資産も、確かに三百円になっている。日ごとに増えていく証拠。希望が確かに形になっていた。
俺は掃除を終えたベンチに腰を下ろした。夕日がオレンジ色に染める空の下、ほんの少しだけ達成感を味わう。誰も見ていなくても、この画面は裏切らない。俺にとっての唯一の証人だ。
帰り道、街灯がぽつぽつと灯り始める。通学路の先から夕飯の匂いが漂い、腹が鳴る。俺は少しだけ、胸を張って歩いた。
―
玄関を開けると、味噌汁と焼き魚の香りが鼻をくすぐった。母の声が台所から響く。
「陽斗、手を洗って早く座って」
「……ああ」
食卓には父と妹の姿。父は新聞を広げ、母は皿を並べ、妹の美咲はスマホをいじっていた。彼女は中学二年。成績優秀で明るく、学校でも家でも人気者。俺とは正反対の存在だ。
美咲が顔を上げ、鼻で笑った。
「お兄ちゃん、また泥だらけじゃん。ほんとに高校生?」
刺すような言葉に、胸がざらつく。父は新聞から目を上げず、母は曖昧に笑って誤魔化す。俺には誰も味方はいなかった。
美咲はさらに言葉を重ねる。
「どうせ今日も、クラスで笑われてきたんでしょ? だってダサいし。背も低いし。友達もいないし。ほんとに同じ兄妹なのが恥ずかしいんだけど」
グサリと胸に刺さる。母が「美咲、そんな言い方……」と注意しかけたが、声は小さくてすぐにかき消えた。父は新聞をめくる手を止めず、まるで何も聞こえていないようだった。
箸を持つ手が震える。味噌汁の湯気が揺れ、魚の香ばしい匂いが鼻をくすぐるのに、まったく味がしない。食卓の笑い声から自分だけ切り離されているようだった。妹の言葉は鋭い針のように突き刺さり、胸の奥をえぐる。
喉が詰まった。返す言葉がない。悔しさが腹の奥に溜まる。だが頭の中では、ステータス画面が淡く光っていた。
筋力5.1。耐久5.1。魅力3.5。資産300円。
小さくても、確かに伸びている。数字だけは、俺を裏切らない。
美咲の冷たい視線の下、俺は箸を握りしめる。言い返せない今の自分が情けない。だが、必ず――。
「……見返してやる」
声に出すことはできなかった。けれど心の奥で、はっきりと誓った。数字が証明している。この力さえ積み重ねれば、俺は必ず変われる。
その瞬間、視界の端に淡い光が揺らめいた。
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【クエスト発生】
・内容:公園のベンチを掃除しろ
・報酬:筋力+0.5 耐久+0.5 魅力+0.5 スキルポイント+1
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「……学校の外でも出るのか」
驚きより先に、胸が高鳴った。俺だけに見えるこの画面は、どうやら日常のどこにでも潜んでいるらしい。
公園は、学校から少し歩いた先にある古い広場だった。サビついた鉄棒とひび割れたブランコ。人影はまばらで、寂れた空気が漂っている。
目的のベンチは落書きと泥でひどく汚れていた。ガムのこびりつきまである。ため息が漏れる。
俺は購買袋に残っていたティッシュとハンカチを取り出し、必死に擦った。泥はなかなか落ちない。指先が痛み、爪の間が黒くなる。通りすがりの子どもに「なにしてんの?」と笑われたが、それでもやめなかった。
汗が額を伝い、シャツの背中を濡らす。誰も褒めてはくれない。けれど、画面だけは俺の努力を数字に変えてくれる。
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【クエスト進行:50%】
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その文字を見ただけで、腕に力が戻った。俺は立ち上がり、水道まで走ってハンカチを濡らす。泥と落書きをこすり、何度もすすぐ。ハンカチは真っ黒に染まり、手のひらは赤く擦り切れた。だが、少しずつ木の質感が浮かび上がってくる。
通りすがりの老人が足を止めた。「ご苦労さんだね」と声をかけられ、思わず背筋が伸びた。誰かに認められるなんて、久しぶりだった。胸の奥が熱くなり、思わず「ありがとうございます」と小声で返した。老人は微笑み、ゆっくり去っていった。ほんの短いやり取り。それでも、俺にとっては宝物みたいに感じられた。
夕日が沈みかけたころ、ベンチはようやく元の色を取り戻した。
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【クエスト達成】
・筋力:+0.5
・耐久:+0.5
・魅力:+0.5
・スキルポイント:+1
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【ステータス】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:160.1cm
・体重:71.8kg
・筋力:5.1
・耐久:5.1
・知力:5.0
・魅力:3.5
・資産:¥300(+100/日)
・スキルポイント:2
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「……ちゃんと伸びてる」
小さな数字の変化に、心が躍った。昨日までゼロだった資産も、確かに三百円になっている。日ごとに増えていく証拠。希望が確かに形になっていた。
俺は掃除を終えたベンチに腰を下ろした。夕日がオレンジ色に染める空の下、ほんの少しだけ達成感を味わう。誰も見ていなくても、この画面は裏切らない。俺にとっての唯一の証人だ。
帰り道、街灯がぽつぽつと灯り始める。通学路の先から夕飯の匂いが漂い、腹が鳴る。俺は少しだけ、胸を張って歩いた。
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玄関を開けると、味噌汁と焼き魚の香りが鼻をくすぐった。母の声が台所から響く。
「陽斗、手を洗って早く座って」
「……ああ」
食卓には父と妹の姿。父は新聞を広げ、母は皿を並べ、妹の美咲はスマホをいじっていた。彼女は中学二年。成績優秀で明るく、学校でも家でも人気者。俺とは正反対の存在だ。
美咲が顔を上げ、鼻で笑った。
「お兄ちゃん、また泥だらけじゃん。ほんとに高校生?」
刺すような言葉に、胸がざらつく。父は新聞から目を上げず、母は曖昧に笑って誤魔化す。俺には誰も味方はいなかった。
美咲はさらに言葉を重ねる。
「どうせ今日も、クラスで笑われてきたんでしょ? だってダサいし。背も低いし。友達もいないし。ほんとに同じ兄妹なのが恥ずかしいんだけど」
グサリと胸に刺さる。母が「美咲、そんな言い方……」と注意しかけたが、声は小さくてすぐにかき消えた。父は新聞をめくる手を止めず、まるで何も聞こえていないようだった。
箸を持つ手が震える。味噌汁の湯気が揺れ、魚の香ばしい匂いが鼻をくすぐるのに、まったく味がしない。食卓の笑い声から自分だけ切り離されているようだった。妹の言葉は鋭い針のように突き刺さり、胸の奥をえぐる。
喉が詰まった。返す言葉がない。悔しさが腹の奥に溜まる。だが頭の中では、ステータス画面が淡く光っていた。
筋力5.1。耐久5.1。魅力3.5。資産300円。
小さくても、確かに伸びている。数字だけは、俺を裏切らない。
美咲の冷たい視線の下、俺は箸を握りしめる。言い返せない今の自分が情けない。だが、必ず――。
「……見返してやる」
声に出すことはできなかった。けれど心の奥で、はっきりと誓った。数字が証明している。この力さえ積み重ねれば、俺は必ず変われる。
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