クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎

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第76話 トリプルブッキングの埋め合わせ、最後の約束は家で

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一ノ瀬との本屋デートから、一週間が経った。
八月上旬。
午前中から気温は三十度を超え、アスファルトの上で陽炎がゆらめいている。
窓の外では、蝉の声が絶え間なく響き、夏の匂いが濃くなっていた。

(……あの夜)



机の上に一ノ瀬からもらったブックカバーを置いたあと、視界の隅にウインドウが浮かんだ。

【システム通知】
一ノ瀬凛の好感度が89に到達しました。
この先(恋愛)ルートへ進むには、特別キークエストのクリアが必要です。

(……!!)
淡い光のウインドウは、数秒で静かに消えた。
けれど、あの瞬間――驚きはしたが、不思議と焦りはなかった。
数値よりも、彼女の笑顔のほうが鮮明に残っていたからだ。



(……なんでだろ)
息を吐いて、椅子にもたれる。
蝉の声が、窓の外でさらに強く鳴いた。

明後日は――遥と会う約束がある。
しかも、家で。
誕生日のあの日から、心のどこかにずっと引っかかっていた“埋め合わせ”を、ようやく果たすときだ。

遥は優しく笑って許してくれた。
でも、それで終わりにするわけにはいかない。
瑠奈にはコスメ、一ノ瀬には万年筆。
――じゃあ、遥には?

受験を控えている彼女には、どうせなら“実用的なもの”がいい。
だけど、勉強道具だけっていうのも味気ない。
(……何を渡せば、嬉しいって思ってくれるんだろう)

真面目で、努力家で、ちょっと頑固。
そんな彼女に、どんな形で“気持ち”を伝えればいいんだろう。
派手なものは違う。かといって、安っぽいものでも違う。
「誠意は見せたいけど、重くしたくない」
その矛盾が、頭の中でぐるぐる回っていた。

机に肘をつきながら、スマホを手に取った。
とりあえず、佐藤にLINEを送ってみる。

【陽斗】
なあ、女子にお詫びのプレゼントって、何がいいと思う?
【佐藤】
は? どうした。なんかやらかしたのか?
【陽斗】
まあ、そんな感じ。
【佐藤】
お前な……で、誰?
【陽斗】
いや、そういうんじゃない。ただ、ちゃんと渡したくて。
【佐藤】
そういうのは自分で考えろよ。
その人のために選ぶから意味があるんだろ。

――「……まともだな。ごもっとも」

苦笑しながらスマホを伏せる。
“その人のために選ぶから意味がある”――
確かにその通りだ。
誰かに答えを求める時点で、どこか逃げてる気がした。

ベッドに寝転がって、天井を見上げる。
エアコンの風が髪を揺らす。
「誠意」って、なんだろう。
たぶん、それは“高いもの”じゃなくて、“想いがこもっているもの”だ。

そう結論づけて、ようやく体を起こした。
カーテンの隙間から差し込む夕陽が、オレンジ色に滲んでいた。
変わっていくのは季節じゃなくて、自分の方かもしれない――ふと、そんなことを思った。



翌日。
昼下がりの蝉の声を背に、家を出た。
照りつける日差しに目を細めながら、ゆっくりと歩き出す。
向かうのは――商店街の文具店。

小さなガラス扉を開けると、
カラン、と澄んだ音が鳴った。
中は静かで、外の熱気が嘘みたいに涼しい。
棚には整然と並ぶペンやノート。
インクと紙の香りが混ざって、落ち着いた空気を作っていた。

その中で、ひとつのシャープペンが目に留まる。
落ち着いたネイビーのボディ。
無駄のないデザイン。
上品だけど、使い込むほどに馴染みそうな雰囲気。

――これ、遥に似合いそうだ。

ふと、そんな考えが浮かんだ。
真面目で、でもどこか柔らかい。
努力を表に出さない彼女の姿が頭に浮かぶ。

「……これ、いいな」
そう呟いて、包装を頼む。
透明なリボンで包まれた小箱を受け取った瞬間、
胸の奥にあったもやが少しだけ晴れた気がした。
派手じゃない。でも、きっと長く使ってもらえる。
その“さりげなさ”が、いちばん彼女らしい気がした。

店を出ると、外はまだまぶしい。
そのまま駅ビルのスイーツショップへ立ち寄り、
焼き菓子の詰め合わせを選ぶ。
明日、遥の家族に渡すための手土産だ。

「初めて遥の家行くんだし、ちゃんとしないとな」
口の中でつぶやくと、少し照れくさくなった。
今までなら気にもしなかったことを、
自然と考えている自分に気づく。

……我ながら、少しは成長したのかもしれない。



翌日。
昼過ぎ、駅前のベンチで腕時計を確認する。
湿った風が吹き抜け、シャツの裾がふわりと揺れた。

制服ではなく、白い半袖シャツに黒のパンツ。
派手さはないけれど、清潔感だけは意識した。

ポケットの中には、小さな箱。
昨日買ったシャープペン。
そして手提げ袋の中には、焼き菓子の包み。

(よし……完璧、なはず)

そう思った瞬間――
背後から、聞き慣れた声がした。

「陽斗くん」
振り向くと、そこに遥が立っていた。
淡い水色のブラウスにベージュのスカート。
髪は少しだけ巻かれていて、いつもの印象より大人っぽい。

「ごめん、待たせた?」
「いや、俺も今来たとこだよ」
「そっか。……なんか今日、落ち着いた格好だね」
「初めて遥の家行くんだぞ。服ぐらい整えないと」
「ふふっ、そういうとこ、真面目だよね」

その笑顔がやけに柔らかく見えた。
少し沈黙が流れて、蝉の声が遠くで響く。

俺はポケットから小さな箱を取り出した。
「これ、この前の埋め合わせ」

「え? なにこれ?」
「シャーペン。勉強のとき使えるかなって思って」

遥は一瞬、驚いたように目を見開いたあと――
少し頬を染めて、ふわっと笑った。

「ありがとう。でも……ほんとに怒ってないよ?」
「それでも渡したかったんだ。気になってたから」

「……陽斗くんがモテてるの、知ってるし」
「いや、それフォローになってないから」
「そう? あははっ」

笑いながら、軽く肩をぶつけてくる。
その距離が、前よりも少しだけ近く感じた。



駅前からバスに揺られて10分ほど。
街並みが途切れ、緑の多い住宅地が見え始めたころ――
隣に座る遥が静かに降車ボタンを押した。

バスを降りて、ゆるい坂道を登る。
照り返す日差しが強く、木陰に入ると少しだけ涼しい。
汗をぬぐいながら歩いていると、遥が足を止めた。

「ここだよ」

見上げた瞬間、息をのんだ。
白い塀に、広い庭。
玄関へ続く小道には、花が整然と並んでいる。
門扉の奥に見える家は、まるで雑誌の中のワンシーンみたいに整っていた。

(……やっぱり“お嬢さま”なんだな)
胸の奥が、少しだけざわついた。

「……すげぇな」
「え?」
「いや、思ってたよりずっと立派で」
「そんなことないって。普通の家だよ」

――普通、ね。

手に持った紙袋を見下ろす。
中には、焼き菓子の詰め合わせ。
リボン付きの包装紙が、やけに頼りなく見えた。

(……やっぱ、もう少し良いのにすればよかったか)

胸の奥に小さな後悔が広がる。
けれど、玄関の前で遥が振り返ったその瞬間――
そんな考えは、風にさらわれたように消えていった。

「行こ。お父さんもお母さんも、楽しみにしてたみたい。もちろん悠真もね」
「……ああ」

靴底が、玄関のタイルを軽く叩く。
胸の鼓動が、一拍、早くなった気がした。

扉の向こうにあるのは――
“ただの訪問”か、それとも、“何かが変わる日”か。



※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス(八月上旬)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:17
・身長:180.8cm
・体重:63.0kg/体脂肪率:9.0%
・筋力:29.0
・耐久:30.0
・知力:32.2
・魅力:43.2
・資産(現金):1,380,000円
・投資中:60,000円(評価額:160,000円/利益:+100,000円)
・総資産:1,540,000円
・SP:44
・スキル:25(展開可能)
・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に/女子人気独占
・会社メンバー機能:解放済
 - 佐藤大輝(実務担当【COO】/信頼度60/加入済)
 - 相川蓮(技術担当/解放)
・特別イベント:
 水城遥(好感度89/恋愛条件未達)
 一ノ瀬凛(好感度89/恋愛条件未達)
 星野瑠奈(好感度89/恋愛条件未達)
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