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第5話 負けヒロインは覚悟を決める
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探偵部には4人の部員がいた。
部長の桜路、謎の転校生の泡歌、この学校のマドンナである私。
──そして、乳がやたらデカい軽薄な色ボケ女。調雪林檎。
林檎は長い黒髪に白い肌、優しげな垂れ目、どこか儚げな雰囲気、全体的に細い癖に乳だけはデカい。ゆるりとした喋り方、ついでに金持ち。距離が近い。男が考えた都合のいい偶像みたいな女だ。
問題は性格。のらりくらりと捉えどころのない性格ながら、恋には盲目で猪突猛進。桜路の前では声が一オクターブ高くなり、色仕掛け一本勝負で迫ってくる。気持ちの良いぐらいのぶりっ子だ。おまけに自分がかわいい自覚がある。
この私の前でそんなことをする度胸があるのは林檎ぐらい。
あの時から私たちは顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた。
「片付けるわよこの部室」
私が探偵部の部長になった次の日、教室にあったありったけの掃除用具を持ち出して私は部室の入り口に立っていた。
「え~~、めんどい」
「部長命令。ここをアンタみたいなサボりの溜まり場にされたらたまったもんじゃないわ。ほら。さっさと起きる!」
乗り気じゃない林檎を無理やり起こして掃除用具を装備させる。
「なんで桜路達が出ていった後の方が散らかってんのよ。本来アンタがやることなんだからね!」
「アルバムとか見てたら懐かしくなっちゃってさ~これとか懐かしくない?みんなで夏合宿した時」
ほら、と林檎がアルバムを開く、高校部活の合宿先としてはあまりにも渋い。
海のある田舎。潮風に吹かれながら田んぼの前で各々のピースをする写真が表紙を飾っていた。もう戻ってこない日常は心を締め付ける。
「今どきスマホでいいのに、わざわざ写真を現像するなんて物好きよね」
「あーちゃん、機械苦手だったもんね」
このアルバムの写真は全て泡歌が撮ったものだ。
私たちは気づけば椅子に座り、アルバムをパラ…パラ…とゆっくりとめくりはじめていた。
「この夏合宿の時さー、実は私おーくんと二人で宿抜け出してたんだよね」
「はっ!?」
突然の告白にあからさまに狼狽した私を見てニヤリと林檎は笑う。
「私、あんま夜出歩いたこととかなかったからさー、前に”いつかゆっくり星を見てみたい”って言ってたのをおーくんが覚えててくれてー、二人で海岸まで行って星見にいった」
アイツ、ぼーっとしてるように見えて、そういうのしっかり覚えてるのよね!腹たつ!と同意しかけるが、それだとまるで私が桜路のことを好きみたいだと思い直し別の言葉で対抗した。
「へぇ、気づかなかったわ。アンタ達が抜け出してたであろう時間は、私疲れてぐっすり寝てたから」
「なんか疲れるようなことしてたっけ」
「えぇ、昼間、海行った時に桜路とちょっとね……あぁ、この後のことは伏せておこうかしら」
「は~?何もったいぶってんの?吐けー」
「ここで言うのはちょっと恥ずかしいわねぇ!」
「わかってんだよ。どうせ洞窟に行ったら水着が海で流されてピンチになったとかだって」
「なんで知ってんのよ!!」
「ほら、この写真のネムリン。変な場所に薄い日焼けしてるから。水着のサイズ合ってなかったし」
「うるさい!キモい探偵!?」
「自分で言ってきた癖に~、その反応は正解って言ってるようなもんじゃん」
「あ~!!黙りなさい黙りなさい」
「よかったなぁ相手が貧乳のネムリンで、あーちゃんだったら間違いが起きてたかもしれない。さすがの私も拳が出ていたかもしれないよ」
「はぁ⁉︎私のプロポーションがアンタ達に劣ってるって言いたいの⁉︎」
「うん。私の方がかわいくてえっち」
「脂肪が多い方が上だなんて低俗な指標ね。悪いけど容姿だけは私誰にも負ける気はしないの」
「は?私の方がかわいいよ」
「は?失恋で頭おかしくなった?私の方がかわいいに決まってるじゃない」
思わず拳が出そうになって立ち上がった時、黄色いアルバムが床に落ちた。自然と開いたそのページにはいくつも写真があった。しかし、私と林檎の目に一番に入った写真はおそらく同じ。二人で照れ臭そうに笑う泡歌と桜路のツーショット。
「……やめよっか、この喧嘩不毛だよ」
「そうね。時間の無駄だわ」
気づけば力無く振り上げた拳を下ろして、再び腰をおろしていた。
「あーちゃんもきっと私たちが知らないところでおーくんと何かしてただろうね」
「察しつかないの?名探偵。私の時みたいにさ」
「わかってたらこんなところでアルバムなんて見てないよ」
「アンタ、もしかして桜路と泡歌の駆け落ちした理由探すためにアルバム引っ張りだしてたの?」
「そうだけど」
強い意志が灯った瞳だった。何がこいつをそんなに燃え上がらせるのだろう。今更そんな理由を知ってどうするつもりなんだ。
「あーちゃんとおーくん、仲は良かったけど、そういう感情があったとはとても思えないんだよねぇ……少なくともおーくんは……」
過去に向き合えないまま現状を受け入れて進もうとする私。現状と向き合えず過去と向き合って進もうとする林檎。正反対なのか似た物同士なのか。
────いや。似てなんかいない。私の方がこの女より優れている。
「フン、仕方ないから私も手がかり探してやるわよ」
私は床に落ちたアルバムを拾い、叩きつけるように開いた。
一ページ目は浴衣の私と林檎と泡歌。そして桜路。合宿の旅館の前にいる。
私と林檎は笑顔を作りながらも桜路の後ろで踵を踏み合っているのがしっかりと写っている。お転婆な泡歌は少しだけ浴衣の裾が汚れている。
「どこで何してきたの?バカね」なんて言いながら浴衣から土をはらったら、林檎が「おーくんにも泥ついてる」なんて言いながら桜路に下心のある触れ方をするもんだから私がキレて喧嘩になったんだ。
もう戻らない日常から、私は目を逸らさない。私は過去にだって向き合える。
「瞳孔やば……」
「うっっっさいわね!真剣に見てんのよ!」
「ネムリン、探偵部の癖に手がかり探すの苦手なんだから無理しないでいいよ」
「絶対アンタより先に手がかり見つけてみせる!」
私は乱暴に次のページをめくる。桜路から貰った髪飾りを勝ち誇った笑みでつける私の写真が飛び込んできた。…………これは、案外ダメージが入る作業だ。
部長の桜路、謎の転校生の泡歌、この学校のマドンナである私。
──そして、乳がやたらデカい軽薄な色ボケ女。調雪林檎。
林檎は長い黒髪に白い肌、優しげな垂れ目、どこか儚げな雰囲気、全体的に細い癖に乳だけはデカい。ゆるりとした喋り方、ついでに金持ち。距離が近い。男が考えた都合のいい偶像みたいな女だ。
問題は性格。のらりくらりと捉えどころのない性格ながら、恋には盲目で猪突猛進。桜路の前では声が一オクターブ高くなり、色仕掛け一本勝負で迫ってくる。気持ちの良いぐらいのぶりっ子だ。おまけに自分がかわいい自覚がある。
この私の前でそんなことをする度胸があるのは林檎ぐらい。
あの時から私たちは顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた。
「片付けるわよこの部室」
私が探偵部の部長になった次の日、教室にあったありったけの掃除用具を持ち出して私は部室の入り口に立っていた。
「え~~、めんどい」
「部長命令。ここをアンタみたいなサボりの溜まり場にされたらたまったもんじゃないわ。ほら。さっさと起きる!」
乗り気じゃない林檎を無理やり起こして掃除用具を装備させる。
「なんで桜路達が出ていった後の方が散らかってんのよ。本来アンタがやることなんだからね!」
「アルバムとか見てたら懐かしくなっちゃってさ~これとか懐かしくない?みんなで夏合宿した時」
ほら、と林檎がアルバムを開く、高校部活の合宿先としてはあまりにも渋い。
海のある田舎。潮風に吹かれながら田んぼの前で各々のピースをする写真が表紙を飾っていた。もう戻ってこない日常は心を締め付ける。
「今どきスマホでいいのに、わざわざ写真を現像するなんて物好きよね」
「あーちゃん、機械苦手だったもんね」
このアルバムの写真は全て泡歌が撮ったものだ。
私たちは気づけば椅子に座り、アルバムをパラ…パラ…とゆっくりとめくりはじめていた。
「この夏合宿の時さー、実は私おーくんと二人で宿抜け出してたんだよね」
「はっ!?」
突然の告白にあからさまに狼狽した私を見てニヤリと林檎は笑う。
「私、あんま夜出歩いたこととかなかったからさー、前に”いつかゆっくり星を見てみたい”って言ってたのをおーくんが覚えててくれてー、二人で海岸まで行って星見にいった」
アイツ、ぼーっとしてるように見えて、そういうのしっかり覚えてるのよね!腹たつ!と同意しかけるが、それだとまるで私が桜路のことを好きみたいだと思い直し別の言葉で対抗した。
「へぇ、気づかなかったわ。アンタ達が抜け出してたであろう時間は、私疲れてぐっすり寝てたから」
「なんか疲れるようなことしてたっけ」
「えぇ、昼間、海行った時に桜路とちょっとね……あぁ、この後のことは伏せておこうかしら」
「は~?何もったいぶってんの?吐けー」
「ここで言うのはちょっと恥ずかしいわねぇ!」
「わかってんだよ。どうせ洞窟に行ったら水着が海で流されてピンチになったとかだって」
「なんで知ってんのよ!!」
「ほら、この写真のネムリン。変な場所に薄い日焼けしてるから。水着のサイズ合ってなかったし」
「うるさい!キモい探偵!?」
「自分で言ってきた癖に~、その反応は正解って言ってるようなもんじゃん」
「あ~!!黙りなさい黙りなさい」
「よかったなぁ相手が貧乳のネムリンで、あーちゃんだったら間違いが起きてたかもしれない。さすがの私も拳が出ていたかもしれないよ」
「はぁ⁉︎私のプロポーションがアンタ達に劣ってるって言いたいの⁉︎」
「うん。私の方がかわいくてえっち」
「脂肪が多い方が上だなんて低俗な指標ね。悪いけど容姿だけは私誰にも負ける気はしないの」
「は?私の方がかわいいよ」
「は?失恋で頭おかしくなった?私の方がかわいいに決まってるじゃない」
思わず拳が出そうになって立ち上がった時、黄色いアルバムが床に落ちた。自然と開いたそのページにはいくつも写真があった。しかし、私と林檎の目に一番に入った写真はおそらく同じ。二人で照れ臭そうに笑う泡歌と桜路のツーショット。
「……やめよっか、この喧嘩不毛だよ」
「そうね。時間の無駄だわ」
気づけば力無く振り上げた拳を下ろして、再び腰をおろしていた。
「あーちゃんもきっと私たちが知らないところでおーくんと何かしてただろうね」
「察しつかないの?名探偵。私の時みたいにさ」
「わかってたらこんなところでアルバムなんて見てないよ」
「アンタ、もしかして桜路と泡歌の駆け落ちした理由探すためにアルバム引っ張りだしてたの?」
「そうだけど」
強い意志が灯った瞳だった。何がこいつをそんなに燃え上がらせるのだろう。今更そんな理由を知ってどうするつもりなんだ。
「あーちゃんとおーくん、仲は良かったけど、そういう感情があったとはとても思えないんだよねぇ……少なくともおーくんは……」
過去に向き合えないまま現状を受け入れて進もうとする私。現状と向き合えず過去と向き合って進もうとする林檎。正反対なのか似た物同士なのか。
────いや。似てなんかいない。私の方がこの女より優れている。
「フン、仕方ないから私も手がかり探してやるわよ」
私は床に落ちたアルバムを拾い、叩きつけるように開いた。
一ページ目は浴衣の私と林檎と泡歌。そして桜路。合宿の旅館の前にいる。
私と林檎は笑顔を作りながらも桜路の後ろで踵を踏み合っているのがしっかりと写っている。お転婆な泡歌は少しだけ浴衣の裾が汚れている。
「どこで何してきたの?バカね」なんて言いながら浴衣から土をはらったら、林檎が「おーくんにも泥ついてる」なんて言いながら桜路に下心のある触れ方をするもんだから私がキレて喧嘩になったんだ。
もう戻らない日常から、私は目を逸らさない。私は過去にだって向き合える。
「瞳孔やば……」
「うっっっさいわね!真剣に見てんのよ!」
「ネムリン、探偵部の癖に手がかり探すの苦手なんだから無理しないでいいよ」
「絶対アンタより先に手がかり見つけてみせる!」
私は乱暴に次のページをめくる。桜路から貰った髪飾りを勝ち誇った笑みでつける私の写真が飛び込んできた。…………これは、案外ダメージが入る作業だ。
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