異世界転生者はもうおなかいっぱいです!

無月

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 「ユタ!!」
 「魔王!魔王―――――!!やだ!嫌だっ!魔王!魔王っ!」

 口に土が入っても懸命に叫んでいた。この時の記憶は殆ど無い。
 ただ、後で聞いた話だと、号泣して魔王を求めてあらん限りに叫んでいたらしい。
 それは魔王に救われ、魔王にしがみ付き、宥められて眠りに落ちるまで恐慌状態が収まらなかった。



 ◇魔王サイド◇

 ユタが肥料を取りに家の裏手へ向かった。
 我はその間に追肥する準備を任されていた。それが間違いだったのだ。
 テン邪魔者がいる今。ユタから目を離すべきでは無かった。無駄に力が有り余っている故に慢心していたのだ。どうあってもユタ一人くらい守れると。

 我はこの時の傲岸無知な己を生涯呪い、深く嫌悪する。

 「っや、や、やだああああ!!魔王―――――!!!!」

 ユタの叫びに我は気付くより先に体が動いていた。
 ユタの気配は何処にいてもわかる。その気配が尋常でない怯えの色を纏い、我を求めて彷徨っていた。
 求められたことへの愉悦は感じなかった。
 それよりユタを守る方が大事だと、それしか考えられなかった。

 「ユタ!!」

 向かった筈の倉庫には気配は無く、代わりに森の奥にテンの気配と共にあった。
 茂みを掻き分ける、などというまどろっこしい事はしない。我が進む先に阻めるものなどありはしない。
 初めにユタの叫びを聞いてから瞬き程の時を有して辿り着いたその場所。そこでテンに襲われているユタを目にした瞬間。

 ズドンッッッ!!!!!

 我は渾身の力でテンを弾き飛ばしていた。

 テンがどうなったかなど見る気も無い。我の視線は初めからユタのみにある。
 幸い一線を守るのには間に合ったらしい。
 魅力的な尻を突き出してはいるが、その秘孔は入り口こそ汚い液が付着しているもののその中まで犯された形跡は無かった。
 支えを失ったユタの身が沈み、守る様に丸まろうとしている。未だ叫び続ける所を見るに状況把握も出来ない程の精神的負荷が掛かっていると予測出来る。

 「ユタ。大丈夫だ。もう大丈夫だ。我だぞ。呼んだであろう」

 刺激しないよう細心の注意を払ってユタの衣服を整えゆっくり上半身を起こしてやる。

 「うっあ゛あ゛っ!やぁ!魔王!魔王―!」

 我だと気付けないのか、身を捩って暴れるユタ。土と涙でぐちゃぐちゃの顔を我の胸に柔く抱き込み、暴れるままにさせてやる。

 「大丈夫。我だぞ。魔王だ。北の魔王が傍に居るぞ」

 暴れるのを阻害しない様に頭を撫で続ける。
 暫く宥め続けていれば、ユタは揺れ動く瞳でゆるゆると我を見上げた。

 「あ゛あ゛あっ、うっう~っ!!」

 やっと我を認識できたのか、くしゃりと顔を歪ませたユタ。両手でしっかりと我の腰を掴むと、我の胸に顔を埋めて声を殺して号泣した。
 落ち着くまで柔く撫ぜていれば、疲れたのかだんだんと声が弱々しくなって来た。そうしてコトリと気を失う様に眠りについたのだ。
 脱力したユタを両手で大事に抱え立ち上がった我は、背後でしたカサリと葉を踏む音に、しかし振り返りはしなかった。

 「テンよ。申し開きは後で聞く。覚悟しておけ」

 代わりに燻る怒りを静かに言葉に乗せる。
 テンは殺気の無い純粋な怒りの感情に狼狽えを見せた。
 我もここまで純然な怒気を持ったのは初めてだ。ユタを恐怖させた罪は万死に値する。楽に死ねると思うなよ。
 テンの返事を聞くことなくユタを寝室へ寝かせるべく家に向かう。蒼褪めた顔が痛々しく見るに堪えなかった。

 せめて夢の中だけでも平穏たれと、そっと涙が残る眦にキスを落とした。

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