異世界転生者はもうおなかいっぱいです!

無月

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 初めてのデートの日からどれだけ時が経ったろうか。
 日々平穏に、安穏として、野菜ちゃんと果物ちゃん達のお世話とデートで過ぎて行く。

 「今日もいっぱい採れたな。秋の味覚も採れ始めたし、今日は鍋にしようか」
 「ほう、鍋か。一つの釜をつつき合う独特の食事だったな」
 「鍋は初めて?北国出身なら寧ろ国食っぽいのに」
 「我は王だからな。下の者と食卓を共にした事がない」

 ああ。そういう事か。
 王族って毒見の済んだ冷めた料理しか食べれないって噂本当だったんだな。
 同情にホロリと来た俺は、魔王の手を熱く握った。

 「これから冬が終わるまでいっぱい鍋とか焼肉とかしような!」
 「うむ。楽しみにしている」

 良かった。とても楽しみそうに笑ってくれた。

 「でも鍋も焼肉も大人数のが楽しいんだけど……。そういえば……最近テン見て無いな……」

 余りに平和過ぎて忘れてた。
 そういえばあの二人どうしてるんだ??一応毎日三食ご飯は玄関まで届けてるし、毎回綺麗に無くなってるから食べてはいるだろう。
 なのにヴェイズが来てから一回もテンを見ていない。

 「テンなら色んな所がしぶといから大丈夫だと思うけど。さて、どうしようかな」

 ヤンデレつついてトバッチリ受けんのはご免です。全力で拒否して平穏を続けたい。
 とは言えう~む。

 「何がだ」
 「ん?」

 テンの家のデカい扉を凝視して悩んでいたら何故か魔王にグイっとやられた。後ろから前に手を当てて引かれるやつ。本当は腹に回るんだろうけど、何分身長差があるもんだからその手は胸に。同性なのにこの差って、世の中理不尽だ。

 「何を悩んでいる」

 おっと、魔王のイケメン振りに意識が逸れてた。

 「いや、鍋なら大人数で囲ったら楽しいんだよなーと思って」

 村じゃ大きな獲物を捕らえたら、男衆が大鍋に集まってドンチャンしたものだ。
 懐かしさに目を細めていたら、魔王は片眉を上げて「ふむ」とテンの家を見た。そして徐に片手をテンの家の寝室であろう場所に向けた。

 「ま、魔王……?」

 嫌な予感がして恐る恐る頭上を見上げる。ニコッと良い笑顔を返してくれたから俺もヘラッとぎこちない笑みを返す。

 「こうすればあ奴も出て来よう」

 ドッカ―――――ン!!

 言葉と共に起きる爆音。
 滝汗流す俺。
 どこまでも威風堂々涼やかな笑顔のイケメン。

 「北の……」

 そして爆音の先から聞こえるおどろおどろしい転生神の声。ガクブルガクブルコワイ……。
 何なの。転生勇者と言い、転生神と言い、やっぱり魔王までも感覚が一般人と違う。

 「いい加減出て来い」
 「珍しいね?君が口出すの」
 「ユタが鍋をすると言っている。人数がいるらしいからお前の番を連れて降りて来い」
 「はぁ?何でそんな」
 『鍋―――――!!』

 剣呑な雰囲気の中、声になっていないのにハッキリと聞こえたテンの声。
 擦れ過ぎてて普通はわからないだろうその声も、テンのご飯好きを知っている身としては確かな声として汲み取れてしまう。
 余りに切実な叫びに、言葉を遮られたヴェイズも剣呑さを納めて背後を振り返った。そしてそそくさと中に消えると暫く何やら話し合いを始めたらしい。時折聞こえるテンの心の叫びを聞くに、ここの所ずっと真面に食事の時間を取っていなかったらしい。そして我慢の限界が来て「暖かい作り立てご飯」を所望する声を連呼してる。
 静かになって少しして、やっとこ玄関扉が開いたのは実に何十日、下手したら何ヶ月振りの事だろうか。
 久し振りに会うテンは、ヴェイズに姫抱きされてクッテリと力なくしな垂れかかっていた。

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