異世界転生者はもうおなかいっぱいです!

無月

文字の大きさ
52 / 73
後章

しおりを挟む
 北の魔王の領土。北国に来てから大分経つ。

 「王妃、勉強のお時間ですぞ」

 今朝の野菜ちゃん達のお世話を終わらせた俺の元に、見た目は初老のナイスミドルなお爺ちゃん執事がやってきた。

 「はい。今日は四大魔王についてでしたね」

 王妃とか未だに背中にぞわっとするものが走るが我慢だ俺。せめて王配だろとか思うが我慢だ。何故なら俺には公務なんて難しくて手が出せない。ならせめて呼ばれ方は受け入れようじゃないか。
 でも流石に政治的交流の場に夫婦が揃わないのは問題ある。それ位村人Aな俺でもわかる。だから特に交流の深い人や土地の事をこうして教わってるって訳だ。

 「それぞれの特産の野菜ちゃん達まで教われたら良いな」
 「そうですな。特有のものと一緒に覚えた方が覚えやすいでしょう」
 「へへ、俺頭悪いからなぁ、セバスチャンにも先生にも迷惑かけてます」

 ニッコリと皺を深く刻む執事のセバスチャン。アクセルの気遣いでか人に近い姿の竜人で人好きのする柔らかい雰囲気の魔族だ。俺的にこの温かみはむしろ神族の方の竜人じゃないかと思う位良い人だ。
 いやでも待てよ?神族も魔族もどっちも厄介なんだよな。教会の教え的に神は良い者な捉われ方をしがちだけど、どっちも厄介だよな。
 俺はふと無人島に置き去りにしてしまった某神と勇者を思い出し、やっぱりセバスチャンは魔族が良いと思った。アクセルの種族だしな。



 「ですから四大魔王はそれぞれの領土の特性を持っているのです」

 こんなに広さが必要なのかよって位馬鹿広い部屋で先生一人に生徒一人。壁にそって護衛(俺に必要あるのか?)とメイド(着替えとか風呂とか手伝おうとするのマジで勘弁願いたい)がズラリと控えている。

 「雪の解けない極寒の北国の王、アクセルは冷気と氷雪に光と闇。
 逆に雪が全く降らない灼熱の南国の王は熱気と火炎に水と光。あと何か小動物と仲が良い。大抵肩に小猿を乗せている。ってどんな魔王だ……。
 東西魔王は中間地点が違えば呼び名が逆転しそうだけど」

 でも必ず東の魔王は東の魔王だし、西の魔王は西の魔王なんだよな。絵姿もたしか全然違った。
 俺は教科書を捲って絵姿が載っているページを開いた。見開きの右に東の大魔王、左に西の大魔王が載っている。

 「ええ、その通りです。ですが彼らは生まれた瞬間に東西が確立されている。
 長年それが謎でしたが、陛下の齎した情報でそれも変わりそうです」
 「幻の秘島、世界樹のある島が真ん中にあるから?」
 「excellent!全くもってその通り!これは歴史が動く大事件ですよ!」

 先生が鼻息荒く興奮してしまった。こうなると早口で語り出すから俺にはチンプンカンプンだ。でも楽しそうな先生を止めるのも忍びないしなぁ。
 俺が困った顔で空笑いしてると、先生の背後にすっと人影が立った。

 「おやめなさい。王妃陛下がお困りあそばれているでしょう」

 スパーン!と手加減してる!?ちゃんとしてるの!?って言いたい小気味良い音を出したのはセバスチャンだ。ピシッとした姿勢のまま効かせたスナップは目にも止まらなかった。怖っ。

 「いたた……。いやぁすみません、つい」
 「いったい何回目の“つい”だと思っているのです」

 いかん。笑ったら駄目だ。駄目だとわかってはいても肩の震えは収まらない。
 この2人の漫才はいつも疲れた俺の脳を癒してくれる。北の大魔王の領土内なのにとっても平和だ。

 どがしゃあああああん!!

 とか思ってる端からああああっ!またなの!?また来たの!?これで何回目だよっ、本日何回目の勇者来訪だよおおおおおっ!!
 ゲンナリした顔でそっと窓を見た俺は、直後に頭を抱えた。
 村にいた時もそりゃ巻き込まれ率が高かった。けどな。流石に毎日じゃなかったわっ!
 そりゃアクセルも入浴中の気を抜きたい時についうっかり秘島に転送されもするよ。

 「勇者の辞書に諦めるとか交渉するって言葉は無いのか……」

 派手な爆砕音を奏でた割にあっけなく空の彼方に飛ばされた勇者一行を背景に、俺は疲れた溜め息を吐くのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる
BL
ベルリアンの次期当主、ノア・セシル・キャンベルの従者ジョシュアは頭を抱えていた。自堕落でわがままだったノアがいきなり有能になってしまった。なんでも「この世界を繰り返している」らしい。ついに気が狂ったかと思ったけど、なぜか事態はノアの言葉通りに進んでいって……?

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...