3 / 35
3.うんざりする程に秩序がない
しおりを挟む
「……二人の少年は病院に搬送されましたが、死亡が確認されました。傷痕から大型の野生動物による被害と推測され、近隣地域には多数の警官が出動し、今現在も熊や猪の捜索が続けられています」
テレビのニュースから流れる映像が、近隣の地域を映し続けている事に違和感を感じながらも、流れるテロップを目で追っている。日曜日の夜はボンヤリと過ごす事が多い。明日から学校が始まると思うと憂鬱になるからだ。だけど、明日からは少し状況が変わるかもしれないと思った。
死んだ二人は同級生で、クラスメイトだった。明日は彼らの通夜が、その翌日には葬儀がある。街中は物騒な野生動物が潜んでいるかもしれないということで、住民は出歩かないようにと言われている。
犯人は分かっている。「僕」だ。
でも、こんな話、誰が信じるだろうか。親に言っても信用しないどころか、頭がおかしくなったと思われるに違いない。
もう随分前から、あれだけ頭の中で聞こえていた声もめっきり聞こえなくなった。イグラシアスという女性が僕の中に潜んでいるらしい。全く現実味が無いが、彼女が言っている事は本当だろう。身に覚えの無い記憶が、少しずつ戻ってきている。ひどく断片的なものではあるが、彼ら二人を手にかけたのは、間違いなく自分だ。
僕の姿を見るや、ニヤついた顔でよって来る二人。時間はゆうに深夜になっていたというのに、歓楽街で遊んでいたであろう二人から酒のニオイがした。どうしようもない奴らだ。
次に浮かんだのは、彼らのうち一人――おそらく直哉だろう――が道路に倒れていて、腰を抜かした雄平がみっともないぐらいに泣き喚いて、後退りしている光景だった。次に浮かんだ映像は、二人が動かなくなって、道路で首から血を流して倒れているシーンだった。
『そんな事、思い出してどうする』
「久しぶりだね、寝てたのかい?」
『明日は外に出るぞ。1日辛気臭く部屋に篭もっているのは性にあわん』
「嫌でも出るよ、通夜もあるしね」
『行くのか?わざわざ?』
「行かない方が、逆に不自然でしょ。クラスメイトが死んだんだよ」
『実に面倒なしきたりだな。悪行を行う者に弔いなど不要だ』
「あんたの世界ではそうでしょうけど、ここは日本なの。しかも……傍から見れば事故死みたいなものだから」
まだ時間は早かったが、色々あって疲れた。僕は早めに休むことにした。
*
わたしは、基樹が寝入ったのをきっかけに、体の主導権を握った。ベッドから起き上がり、壁にかけられた黒っぽいパーカーを羽織って外に出た。転生者であるわたしは、いくつか不思議な力が付与されている。一つは狼に変身すること。一つは気配を極限まで消せる事だ。基樹の親に一切気付かれる事もなく、家を出られたのはその力のお陰だ。
この世界について、知らなければならない事は沢山ある。基樹の意識がなくなっている時間はわたしにとっては絶好の機会だ。
繁華街へ向かうには、ほど近い距離にある基樹の自宅マンションは便利だ。しかも母親一人。父親は幼い頃に離婚しているようで、家には母親しかいない。
夜の街を彷徨くと、その国の情勢がよく分かる。随分と秩序の無い国のようだ。人間たちは自由に行動している。治安を守る為の人員も「多少は」さかれているようだが、防犯意識が極端に薄いとしか言い様がない。こんな事で人間を管理出来るものか。監視カメラはついてはいるが、これでは意味は無い。
周りを見れば、酔っぱらいの喧嘩、ゆすり、タカりなど当たり前のように行われている。みんな気付いているのかいないのか、見て見ぬふりをしているのか、他人事に介入する者などまずいない。
「おい、クソガキ、ぶつかっといて無視か」
「……わたしに言っているのか?」
「テメェ以外誰がいるんだ?ああ!?」
実に面倒だ。何が楽しいのか。ニヤついている意味が分からない。無視して歩き続けると後から付いてくるので、仕方なく人目のない場所に誘導した。
「わざわざこんな袋小路に来やがって……バカかテメェ」腕にわざとらしい紋様を入れた背の高い男がいきなり殴りかかってきたので、かわして足を引っ掛けて躓かせた。
「テメェ!」他にいたもう一人のハゲが威嚇してくる。実に面倒だ。この姿のままだと、基樹にも影響が出る。仕方なく体を狼に変貌させた。見られたからには生かしておく必要もあるまい。
さっきまで威勢が良かった二人は、この姿を見るや急に逃げ腰になっていく。「化物だ」「何なんだ」とか言っているが、悪いがわたしは馬鹿を生かしておくほど、寛大ではない。
即座に二人の体を引き裂いて、バラバラにしてやった。
「全く、この国の治安部隊は何をしているのだ。職務怠慢にも程がある」
テレビのニュースから流れる映像が、近隣の地域を映し続けている事に違和感を感じながらも、流れるテロップを目で追っている。日曜日の夜はボンヤリと過ごす事が多い。明日から学校が始まると思うと憂鬱になるからだ。だけど、明日からは少し状況が変わるかもしれないと思った。
死んだ二人は同級生で、クラスメイトだった。明日は彼らの通夜が、その翌日には葬儀がある。街中は物騒な野生動物が潜んでいるかもしれないということで、住民は出歩かないようにと言われている。
犯人は分かっている。「僕」だ。
でも、こんな話、誰が信じるだろうか。親に言っても信用しないどころか、頭がおかしくなったと思われるに違いない。
もう随分前から、あれだけ頭の中で聞こえていた声もめっきり聞こえなくなった。イグラシアスという女性が僕の中に潜んでいるらしい。全く現実味が無いが、彼女が言っている事は本当だろう。身に覚えの無い記憶が、少しずつ戻ってきている。ひどく断片的なものではあるが、彼ら二人を手にかけたのは、間違いなく自分だ。
僕の姿を見るや、ニヤついた顔でよって来る二人。時間はゆうに深夜になっていたというのに、歓楽街で遊んでいたであろう二人から酒のニオイがした。どうしようもない奴らだ。
次に浮かんだのは、彼らのうち一人――おそらく直哉だろう――が道路に倒れていて、腰を抜かした雄平がみっともないぐらいに泣き喚いて、後退りしている光景だった。次に浮かんだ映像は、二人が動かなくなって、道路で首から血を流して倒れているシーンだった。
『そんな事、思い出してどうする』
「久しぶりだね、寝てたのかい?」
『明日は外に出るぞ。1日辛気臭く部屋に篭もっているのは性にあわん』
「嫌でも出るよ、通夜もあるしね」
『行くのか?わざわざ?』
「行かない方が、逆に不自然でしょ。クラスメイトが死んだんだよ」
『実に面倒なしきたりだな。悪行を行う者に弔いなど不要だ』
「あんたの世界ではそうでしょうけど、ここは日本なの。しかも……傍から見れば事故死みたいなものだから」
まだ時間は早かったが、色々あって疲れた。僕は早めに休むことにした。
*
わたしは、基樹が寝入ったのをきっかけに、体の主導権を握った。ベッドから起き上がり、壁にかけられた黒っぽいパーカーを羽織って外に出た。転生者であるわたしは、いくつか不思議な力が付与されている。一つは狼に変身すること。一つは気配を極限まで消せる事だ。基樹の親に一切気付かれる事もなく、家を出られたのはその力のお陰だ。
この世界について、知らなければならない事は沢山ある。基樹の意識がなくなっている時間はわたしにとっては絶好の機会だ。
繁華街へ向かうには、ほど近い距離にある基樹の自宅マンションは便利だ。しかも母親一人。父親は幼い頃に離婚しているようで、家には母親しかいない。
夜の街を彷徨くと、その国の情勢がよく分かる。随分と秩序の無い国のようだ。人間たちは自由に行動している。治安を守る為の人員も「多少は」さかれているようだが、防犯意識が極端に薄いとしか言い様がない。こんな事で人間を管理出来るものか。監視カメラはついてはいるが、これでは意味は無い。
周りを見れば、酔っぱらいの喧嘩、ゆすり、タカりなど当たり前のように行われている。みんな気付いているのかいないのか、見て見ぬふりをしているのか、他人事に介入する者などまずいない。
「おい、クソガキ、ぶつかっといて無視か」
「……わたしに言っているのか?」
「テメェ以外誰がいるんだ?ああ!?」
実に面倒だ。何が楽しいのか。ニヤついている意味が分からない。無視して歩き続けると後から付いてくるので、仕方なく人目のない場所に誘導した。
「わざわざこんな袋小路に来やがって……バカかテメェ」腕にわざとらしい紋様を入れた背の高い男がいきなり殴りかかってきたので、かわして足を引っ掛けて躓かせた。
「テメェ!」他にいたもう一人のハゲが威嚇してくる。実に面倒だ。この姿のままだと、基樹にも影響が出る。仕方なく体を狼に変貌させた。見られたからには生かしておく必要もあるまい。
さっきまで威勢が良かった二人は、この姿を見るや急に逃げ腰になっていく。「化物だ」「何なんだ」とか言っているが、悪いがわたしは馬鹿を生かしておくほど、寛大ではない。
即座に二人の体を引き裂いて、バラバラにしてやった。
「全く、この国の治安部隊は何をしているのだ。職務怠慢にも程がある」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる