可愛いものに溺れたい

小葉石

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11、可愛い後輩がさらに可愛い

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 天使の様な後輩が持っていたのはやはり、無くしたはずのウサッチー…だ……それが紙袋に入れられて後輩から手渡された。

…ばれた………

 兵司にとって、それは人として気持ち悪い、最低な趣味と受け取られる、社会的死刑宣告とも言える瞬間だった。

 だから同性の後輩の口から、これ可愛いですよね、今ブームなんですよ、僕も……と聞こえて来た時には、その声はまるで天上から神の助けの神託のごとく降り注いで来たものの様に感じた。大袈裟ではなく、可愛い物好きは気持ち悪くて嫌われると信じ、呪いの様に自分を縛り押し込めて来た兵司にとって、それほど信じられない出来事の一つだった。

 今、目の前の後輩は兵司を馬鹿にするでもなく、侮蔑するでもなく、嫌悪するでもない。にこやかな微笑みを湛えて小首を可愛らしく傾げてただこちらを見上げてくる。それは媚を売るのでもなく、純粋にただ好きな物を可愛いと当然の様に口にしただけの、見目は天使の如くに可愛らしいけれども正真正銘男子生徒の他愛の無い言動だ。何でもない風に至極当たり前だと言わんばかりの後輩の姿。

 その姿が一瞬で兵司の心を占領してしまった。

 男子であっても可愛くて良い。男子であっても可愛い物好きで良い……

 それだけで世界がキラキラして見えてくる。

 けれど、それも仕方がないだろう。もう、姉以外に自分の味方をしてくれる人間なんていないと思ってもいたんだ。しかしいくら味方とはいっても姉は姉。家族以外になりようがない。親離れ家族離れして行く者には頼もしい味方ではあっても自分を理解してくれる相棒にはなれない。

 男子が可愛い物好きで良いと、目の前の男子が宣言してくれた。それも信じられないくらいとびっきり可愛い外見の後輩男子が……自分を肯定する言動を真正面から投げつけて来た。

「あれ?先輩もお好きなんですよね??近くで拾っちゃったからきっと先輩の物だと思って、忘れ物には届けなかったんです。ちゃんと返したくて。」

 ニッコリと微笑む後輩はまさに天使そのものだ。忘れ物コーナーに晒されて堂々と取りに行ける猛者ならば、今ここで冷や汗をかいてはいないから。その判断はありがたい。グッジョブだ。

「あぁ……うん…俺が、持っていた、物なんだが…」

 はっきりと自分の物だと断言する勇気はまだない。だからモゴモゴと言い淀んでしまう。

「へぇ~良い趣味してますよ!女子受けは凄い良いですから!返せてよかった~」

「女子、受け…?」

 その為に持っていた物ではないんだが…

「そうですよ。今皆んなっていうくらい何かしら持ってるんじゃないですかね?」

「あまり…興味はないかな…」

 本当に女子とかは見ているだけで良いと思っている。ただ可愛いものを愛でたいのだからたった一人と恋人になるというよりも、その過程できっと自分は受け入れて貰えなさそうなのが辛いからだ。

「じゃ、ただウサッチー好きですね。僕もこれのシャーペン使ってますよ。」

 シャーペン…!これまた可愛らしい子うさぎウサッチーがチャームとしてチャラチャラ揺れている新作が3色揃いでこの間発売されたばかりのはず…!蓮音が全色揃えたいと言っていたが、何故だか爽やかスカイブルーのウサッチーのみ売り切れで嘆いていた。今期はクール系の色合いが人気度が高いらしい。

「あ、見てみます?僕、今日持って来てますけど?」

 なんと!この後輩は持っているだけではなくて堂々と学校に持って来ているという。

「つ、使って……?」

 流石の兵司もリップを使うことはできない。だから鑑賞様に持っていただけなのだが。この後輩は学校にまで持って来て使うのか?

「え、それは、まぁ、シャーペンですし?使わないと女子がうるさくて。」
 
 どうやら女子からのプレゼントの様なものだろうか。折角買って来たのだから使って欲しいという気持ちはわからなくもないが。使用することに関して後輩は嫌そうな顔一つしていない。

「眠くなっちゃった時とか、ちょっとぼ~っと眺めたりして、癒し効果はありますよねぇ。」

 ニッコリと満面の笑顔を向けてくる後輩。キラキラと輝く様な可愛らしい顔立ちの男子が、可愛く揺れる子うさぎウサッチーのシャーペンをポワポワと見つめている絵は、まるで神の賜物の様だろう。

「良いな……」

 それを間近で見る事ができる級友達が物凄く羨ましく感じる。きっと自分がその場にいたら、剣呑な表情で、さも不機嫌な視線を送り続けてしまうことになるのだろうと考えると、自分の顔が本当に嫌になる。いくら美男子とかハンサムとか言われようとも、本人が嫌なのだからこんな顔は嫌なんだ。

「先輩?もしかして、ウサッチーのグッズってこれしか持ってないんですか?あ~一人じゃ買いにくいかぁ…」

 兵司のポツリとつぶやいた独り言を後輩君はシャーペンを持っている事への羨ましさだと勘違いしたようだ。
 う~ん、と考えを巡らしている様子もまた可愛らしい。

「そうだ!先輩、またここ、これます?明日でも良いですけど!僕シャーペン余ってるのあるんですよね。それ一本差し上げます!」

 ぱあっと顔を輝かせながら後輩はさらに華やかな笑顔を向けて来た。もう、それだけで眩しくて、この世の全てが許されると思う。それに言うに事欠いて、ウサッチーシャーペンを譲ってくれるという破格の申し出だ。それだって大切な頂き物だろうに…

「いや!それは悪いよ。君に贈られた物だろう?人にホイホイあげてちゃ、送った彼女が悲しむだろ?」

 女子からの贈り物なんて言ったら彼女からだろうし。それを全く関係のない自分が貰って良いわけないからだ。

「大丈夫!彼女ではないんで。僕、彼女いませんよ?先輩は?」

 彼女がいない?嘘だろう?外見は一見は女子、それも相当可愛い系に見えるのだが、立派な男子生徒だろうし、いつも女子に囲まれていた。だからてっきりあの中のキラキラしている女子の一人が彼女かと思っていた。

「いや、俺もいない…」

 当たり前だが、生まれから彼女ができた試しはない…だから、ちょっと躊躇してしまうが、後輩の方から元気よく彼女はいないと宣言してくれていたから、言いやすかった。

「そうですか?じゃ、お互いフリーなんで、時々こうして会ってもやきもち焼く人いませんよね?」

「ん?やきもち?いないんじゃ、ないか?」

 付き合っている女子はいないのだからやきもち焼かれるのはお門違いだろう。

「じゃ、僕、明日ウサッチー持って来ますよ。先輩に見せてあげる!」

 キラキラマックスのこの笑顔で、可愛いを可愛いと思って良いと断言して来て、尚且つ一緒に鑑賞しようとしてくれる後輩はどこからどう見ても最高に可愛いとしか思えなかった。

 気がついたら無言で頷いている自分にびっくりだ………







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