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淋しい婚姻の果てに

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「妃殿下、それは本来ならば、です。」

 少しだけ、神官ホートネルは寂しそうに言う。

(しかし、お子を作らなければ……)

 私では無理でしたもの……

「そんなお顔をなさらないでくださいませ妃殿下。もう少しだけ、殿下も確かめたい事がおありなのでしょう。」

(何をですの?私では何の慰めも差し上げられません。今日も霊廟にお越しになって…)

 ただ、氷の中を見つめていただけ…

(神官様からお伝え願えませんか?もう、私の事はあきらめる様にと…)

 自分は死んでしまっているのだから、生者が死者に縛られてはならないと思うのだ。

「いいえ、それはできませんでしょう。もし私がそれをお伝えして、それが妃殿下のお言葉だと証明するものがございません。この様な力を得ていますのはここでは私だけなのです。」

 神官の血筋にも稀に強い力の子供が産まれる。それがホートネルだ。能力を受け継いだ者は家を離れて神殿で一生を終えることになる。妻を娶る事は出来るが、本人が公国を出ることもその子供達が出る事も禁じられている。

(神官様も厳しい戒めがありますのね。)

「そうでしょうね。こんな力が諸国に知れ渡ればバルビス公国は直ぐにでも攻め滅ぼされてしまうでしょう。それを、この地ごと守っておられるのは公主をはじめとする全国民ですから。嫌だと思った事がないのです。」

(まぁ!私もですわ。供物姫などと呼ばれても、自分の運命を知っても嫌ではありませんでしたわ。諦めずにここでの生活を楽しもうと思っていたのですもの。)

「妃殿下………」

(だからこそです。殿下にも後悔なんてしてほしくはありません。自分の夫となった方のしょぼくれている姿は見ていて気持ちの良いものではありませんもの。)

「しょぼくれて……ですか…」

(ええ。後悔、されているのだと思います。)

 シャイリー自分を娶った事を…

「そうですか?私にはちっともその様には見えませんでしたが。」

(そうだとしても、狐の毛皮の中にしかいる事ができない私には何も、する事が出来ませんもの…)

 公主がしょぼくれていると指摘していたシャイリーの方がずっとしょぼくれてしまっている。何の為に結婚をして、何の為にバルビスに来たのか…

(でも、ウサギを見る事ができましたわ。)

「ウサギ、ですか?」

(ええ!殿下がお屋敷の外に出て行かれた時に見たのです。可愛らしかった…!) 

「…近頃、色々な報告が入って来るのです。国民から、祈りに来るついでに。ウサギもそうなのですが、もう見なくなって久しい動物達も良く目撃されているとか。」

(まあ!素晴らしい事ですこと。私にも見る機会があるかしら?)

 いつもトライトスの側にいる時には、トライトスの肩に乗せられた立派な狐の毛皮の中から周囲を見ている。生きた狐を見た事がないシャイリーにとっては動いている狐を見るチャンスがあると言う事だ。

「どうでございましょう。私共はにかけているのでございますが。」




 
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