[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

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13、貴婦人のさえずり①

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「あ…ご覧になって、通られたわ!」

「まぁ!今日もお二人は一緒なのね?」

「何をおっしゃるの!一緒にいられる時間は大切なものでしょ?一時でも離れたくないのだわ。」

「それは勿論、でしょう?」

「それは大前提ですわ!きっとゴーリッシュ騎士団長様が優しく手ほどきなさって…」

「あらあら、違いましてよ?意外に奥手な騎士団長様を経験豊富なサラント副団長様が少し強引に導くのだわ…!」

 ここは王城、オークツ城本城と別棟を繋ぐ渡り通路に囲まれた城の中庭の一つである。天気の良い日は整えられた花々を愛でつつ貴婦人達が優雅に歓談をする姿が日常的に見られるのだ。

「きっとお二人は思い合っておられると思うのに、喜ばしきお噂を聞きませんのよねぇ。」

 婦人達は思い思いに時事や趣味、婚約者や家庭について多岐にわたっていつもおしゃべりが尽きない。

「……リード、私達に何か喜ばしい事が起こったのか?」

 本城から自分達の職場でもある騎士団本部へ赴く時に騎士達は大抵ここを通るのだ。その度毎に婦人達のこうした話が耳に入る。

「さあ?仮に私は貴方の事を仕事以外で強引にどうこうするつもりなんて、さらさらないんですけれどね。」

 片手に分厚い書類を抱えてヒュンダルンの後から早足でついていくリード・サラントの美しい顔からは既に苦笑が漏れている。第一騎士団に与えられた任務は他職種と関わることが多いのだ。その為の会議に本城と騎士団本部を行き来する。ヒュンダルンとリードが常に一緒にいるのはそんな仕事上の理由から共にいた方が都合がいいし、仕事も手分けして進めやすいからなのだが………常に叔母からは結婚を勧められても令嬢達からはこの様な噂話しか耳に入ってこないとあってはわざわざそれに付き合ってやる為にあの中に飛び込んでいこうと言う気になれなくなる。だから自然と結婚やら婚約やらの文字が遠のいていく。

「それは俺もだ…」

 リードしかいないと言う気安さからか、ヒュンダルンはリードの前では自身を俺、と呼び時折こうして緊張を解く。

「でしょうね?それより片付けなければならない事案が溜まってますからね。とっとと行きますよ。」

 男だからだろうか。恋や愛やらに対する興味に重点を置かないのは。いずれ自分達も伴侶を選ばなければならない事を良く知ってはいるのに。

「そうだな、行くぞ。」

 この場にウリートがいたのなら、リードと噂されているヒュンダルンの事をどう思っただろうか?

「ま、今度はライーズ副書記官がお通りになるわ。」

「あの方の一貫したあの冷たい態度…どなたがお溶かしになるのかしら?」

 銀縁の眼鏡をかけ書記官の長衣の制服に身を包んだライーズ副書記官は若輩ながらも非常に優秀で、若い紳士淑女の間では将来有望な伴侶候補として注目を浴びている内の一人である。しかし残念ながら出身家の位が高くはない為、現在はまず養子として家に入らないかと言う貴族家が後を絶たない。冷たい眼鏡の下に隠された、人を冷めたように見つめるその淡青色の視線がたまらないとか、一部熱狂的な信者がいるらしい。

「あのお方を心から溶かしてしまわれる方はどなたかしら?」

「氷をお溶かしになるホンワリとした優しい方なのでしょうね?」

「ねぇ!あなた方!こんな噂はご存じ?あのアクロース家の幻のご子息がお目見えしたのですって!」

「まあ、その情報は古くてよ?私、その場に居ましたもの!」

「やだ、羨ましいわ!クラーナ伯爵未亡人にお誘いいただいたのね?で、どんな方ですの!?」

「ふふふ、そんなにお慌てにならないで?その方はウリート様と仰って、お身体がお弱い可憐な方でしたわ。」

「ま!薄幸の麗人、と言う風情なのかしら?」

「ええ、男性というよりは中性的な魅力のあるお方でしたわ。笑顔が優しくて、フワッと微笑む感じの…」

「良いですわ!不遇な方に寄り添う一見冷たい文官なんて…!素敵だわ!」

「まぁ、貴方失礼よ?声をお落としになって!アクロース侯爵子息様が不遇などとまだ決まったわけではなくてよ?でも、貴方が言うところのロマンスは非常によくわかってよ……!」

 お互いにいつの間にかグッと拳を作って熱く語る令嬢達の横を当の本人は両手に沢山の書籍を抱えたまま無表情でスタスタと通り過ぎる。

 ご苦労な事だ…こんなにくだらない話題によくこうも熱中できるものだ。そんな事よりも国事のため、各地方の領地のために議論に花を咲かせる事はできないものなのか…婦人達の尽きないお喋りにやや辟易としながらも今日もライーズは仕事に精を出す。

 アクロース侯爵家の次男ウリートに関する情報を小耳に挟んだ事はあるが、やはり噂話など当てにもならん、と婦人達のお喋りや噂話がどれだけくだらないかを裏付けてくれたものとなるだけだった。
 















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