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102、触れてはいけない者 2
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「はぁ……ヒュンダルン……」
パナイム商団の若様と言われている男の首元には、先程からヒュンダルンの愛刀の切っ先が当てられたままで、男は言い訳も十分に出来ないまま、ただガタガタと震える事しかできなくなってしまった。
そんなヒュンダルンの肩をアランドがポンと叩く。
「ここは、私が引き受けよう!」
場にそぐわない様ないい笑顔でアランドはそう宣言した。
「………」
「なに、ヒュンダルンには業腹だとは思うのだがね?これでもこれは私の女の家の者だ。始末はこちらで付けさせでもらえるかな?」
アランドの女…来る者拒まずなアランドではあるが、子供を作る事についてはちゃんとなのか、考えている事があるものと思われて、子ども一人一人に教育もしっかりと施しているらしくいい加減な扱いはしていないらしい。それなのにその家の者がこの体たらくでは、アランドの顔に泥を塗りまくる行為でしかない。
「俺には関係ないだろう?」
アランドが引き受けるのをヒュンダルンは良しとしたくない。信頼する友の提案とも言えど、直ぐに溜飲を下げよ、と言うのには無理があるだろう。
「分かっている、ヒュンダルン…私も同じ気持ちだからな。ただ、そこの者はまだパナイム商団の後継者候補だ。貴族家にも幅を利かせている家だけあって、このまま制裁を加えるわけにはいかないし、外聞と言うものもある。先ずは、パナイム商団の家長にお会いしなければならないな。」
「ち…父、に?」
「当たり前だろう?ここまでのことをしたのだ。身内になるかも知れない格上の家の面々を確認もしないとは。アクロース侯爵家とはかなり軽く扱われる家らしい。」
「そ…その様なことは……」
ただでさえ貴族家を商家が馬鹿になどしたら、それも高位貴族の侯爵家を…………それは、一族郎党全ての事業を潰されてこの世で生きていけなくなると思っても過言ではないほどの影響力を持つ。そうなれば、家長が取る手段はただ一つ。火の粉が全体に飛び火する前に、火の元を完全に断とうとするはずである。火の元を完全に鎮火できるならば、パナイム商団後継様候補であるこの男を、バッサリと切り捨てるくらいの決断を容易くするのが家長なのだから。
「だからヒュンダルン、ウリーを頼む……」
少しだけアランドの顔も苦しそうであった。状態を確認出来なくて意識がないことだけしかわからないが、マリエッテが騒いでいないので滅多な事にはなっていないだろう。酷い目に遭わされたのだから、早く安心させてやりたい。
「……………」
ヒュンダルンは無言で愛刀を鞘に収めた。
「感謝する…!」
アランドの言葉と共に、騎士達が男を確保した。彼はこのままパナイム商団に連れて行かれて地獄行きの通達を受けることだろう。もう一度だけヒュンダルンはギッと男を睨みつけて、踵を返しウリートの元に急いで駆けつけた。
「若様……!!」
駆けつけてくるヒュンダルンにマリエッテは今にも泣きそうであった。オロオロと展開を伺っていたマリエッテの膝の上にウリートは寝かされていて、外傷は無さそうだが、やはり意識がまだ戻らないらしい。
「ウリー!?ウリー!」
そっと頬に手を当ててみれば火照った頬は熱を持った時の様に熱く、しっとりと汗で湿っている。
「粉末状の媚薬を使われたかと思われます。」
マリエッテと共に側で控えてくれていた騎士が短くそう告げた。
「そうか…」
ヒュンダルンはそっと自分の騎士服のマントをウリートにかけ、壊れ物を扱う様に抱き上げる。
「屋敷へ戻る。城にそう伝えよ!」
部下に言い置いてマリエッテと共に足速に遺跡を後にした。
きっと怒りで腑が沸騰しているのではないかと危惧していたが、流石そこは騎士団長だ。終始落ち着いついた対応でウリートを屋敷に運び医官を呼びつけ診察をさせた。だがその間ずっと、ヒュンダルンは苦しく、泣き出してしまいそうな表情を隠しもせずに、ウリートの側を離れようとはしなかった。
「今、流行りのヤツですね?」
ロレール医官に言わせると、あの男が持っていた粉の正体は、只今上流階級の貴人方の間で流行っている粉末状の媚薬なのだそうだ。吸入するから経口摂取よりも早く作用が出るらしくその上熱から覚めるのも早いのだそう。だから手っ取り早く楽しみたいと言う、あんな逢瀬に使われるそうだ。
エーベ公爵邸に帰って暫く経つと、ウリートもロレール医官の言った通りに落ち着きを取り戻した。
目が覚めれば、ここは遺跡でもなく、あの馬車をの中でもなく、いつもの懐かしい…大好きなヒュンのシトラスが香るヒュンの部屋……
「ヒュン……」
つい、口から溢れでた…
あんな事になると分かっていたら、絶対にあそこへは行かなかったのに…ヒュン以外の者に触られて、ただただ、嫌で、悲しかったし、ヒュンが恋しかった…
「ヒュン……!」
うわ言の様にウリートはヒュンダルンを呼ぶ。
パナイム商団の若様と言われている男の首元には、先程からヒュンダルンの愛刀の切っ先が当てられたままで、男は言い訳も十分に出来ないまま、ただガタガタと震える事しかできなくなってしまった。
そんなヒュンダルンの肩をアランドがポンと叩く。
「ここは、私が引き受けよう!」
場にそぐわない様ないい笑顔でアランドはそう宣言した。
「………」
「なに、ヒュンダルンには業腹だとは思うのだがね?これでもこれは私の女の家の者だ。始末はこちらで付けさせでもらえるかな?」
アランドの女…来る者拒まずなアランドではあるが、子供を作る事についてはちゃんとなのか、考えている事があるものと思われて、子ども一人一人に教育もしっかりと施しているらしくいい加減な扱いはしていないらしい。それなのにその家の者がこの体たらくでは、アランドの顔に泥を塗りまくる行為でしかない。
「俺には関係ないだろう?」
アランドが引き受けるのをヒュンダルンは良しとしたくない。信頼する友の提案とも言えど、直ぐに溜飲を下げよ、と言うのには無理があるだろう。
「分かっている、ヒュンダルン…私も同じ気持ちだからな。ただ、そこの者はまだパナイム商団の後継者候補だ。貴族家にも幅を利かせている家だけあって、このまま制裁を加えるわけにはいかないし、外聞と言うものもある。先ずは、パナイム商団の家長にお会いしなければならないな。」
「ち…父、に?」
「当たり前だろう?ここまでのことをしたのだ。身内になるかも知れない格上の家の面々を確認もしないとは。アクロース侯爵家とはかなり軽く扱われる家らしい。」
「そ…その様なことは……」
ただでさえ貴族家を商家が馬鹿になどしたら、それも高位貴族の侯爵家を…………それは、一族郎党全ての事業を潰されてこの世で生きていけなくなると思っても過言ではないほどの影響力を持つ。そうなれば、家長が取る手段はただ一つ。火の粉が全体に飛び火する前に、火の元を完全に断とうとするはずである。火の元を完全に鎮火できるならば、パナイム商団後継様候補であるこの男を、バッサリと切り捨てるくらいの決断を容易くするのが家長なのだから。
「だからヒュンダルン、ウリーを頼む……」
少しだけアランドの顔も苦しそうであった。状態を確認出来なくて意識がないことだけしかわからないが、マリエッテが騒いでいないので滅多な事にはなっていないだろう。酷い目に遭わされたのだから、早く安心させてやりたい。
「……………」
ヒュンダルンは無言で愛刀を鞘に収めた。
「感謝する…!」
アランドの言葉と共に、騎士達が男を確保した。彼はこのままパナイム商団に連れて行かれて地獄行きの通達を受けることだろう。もう一度だけヒュンダルンはギッと男を睨みつけて、踵を返しウリートの元に急いで駆けつけた。
「若様……!!」
駆けつけてくるヒュンダルンにマリエッテは今にも泣きそうであった。オロオロと展開を伺っていたマリエッテの膝の上にウリートは寝かされていて、外傷は無さそうだが、やはり意識がまだ戻らないらしい。
「ウリー!?ウリー!」
そっと頬に手を当ててみれば火照った頬は熱を持った時の様に熱く、しっとりと汗で湿っている。
「粉末状の媚薬を使われたかと思われます。」
マリエッテと共に側で控えてくれていた騎士が短くそう告げた。
「そうか…」
ヒュンダルンはそっと自分の騎士服のマントをウリートにかけ、壊れ物を扱う様に抱き上げる。
「屋敷へ戻る。城にそう伝えよ!」
部下に言い置いてマリエッテと共に足速に遺跡を後にした。
きっと怒りで腑が沸騰しているのではないかと危惧していたが、流石そこは騎士団長だ。終始落ち着いついた対応でウリートを屋敷に運び医官を呼びつけ診察をさせた。だがその間ずっと、ヒュンダルンは苦しく、泣き出してしまいそうな表情を隠しもせずに、ウリートの側を離れようとはしなかった。
「今、流行りのヤツですね?」
ロレール医官に言わせると、あの男が持っていた粉の正体は、只今上流階級の貴人方の間で流行っている粉末状の媚薬なのだそうだ。吸入するから経口摂取よりも早く作用が出るらしくその上熱から覚めるのも早いのだそう。だから手っ取り早く楽しみたいと言う、あんな逢瀬に使われるそうだ。
エーベ公爵邸に帰って暫く経つと、ウリートもロレール医官の言った通りに落ち着きを取り戻した。
目が覚めれば、ここは遺跡でもなく、あの馬車をの中でもなく、いつもの懐かしい…大好きなヒュンのシトラスが香るヒュンの部屋……
「ヒュン……」
つい、口から溢れでた…
あんな事になると分かっていたら、絶対にあそこへは行かなかったのに…ヒュン以外の者に触られて、ただただ、嫌で、悲しかったし、ヒュンが恋しかった…
「ヒュン……!」
うわ言の様にウリートはヒュンダルンを呼ぶ。
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