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54 王子とリレラン
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「ね?いい人間だっただろ?」
レギル王子の寝台の上で今日もゴロンと寝転んでバブバフと掛け布団の感触をリレランは楽しんでいる。
レギル王子の私室に入るとリレランはすぐ様寝台に飛び乗ってはまるで遊具の一つかの様にゴロゴロと転がるのがこの頃のお気に入りの様で……寝台はいつもレギル王子がそこで寝ていた場所で残り香だってあるだろうに、リレランは全く気にもしてもいない。
「……ラン……」
レギル王子は何やら困った顔をしてリレランに近づく。最早、先程の騎士タリムの事はレギル王子の頭にはない。
「寝台が気に入ったのならば、リレランの専用の部屋を作らせるが?」
いや、もともと部屋はあったのだが、ここに来てからと言うものリレランは風の塔に上がって夜は休んでいたし、昼間とて用意した部屋に居つかない。だから、一度も使われないままにリレランの部屋は開かずの間と化していた。それであるのに、あの風事件の後からはやたらとレギル王子の側にリレランは寄ってくる。レギル王子にとっては嬉しいことではあるのだが、流石に夜半に寝台の中にまでリレランが潜り込んできた時には身体が固まった…リレランはそんなレギル王子の様子など我関せずと言う体でレギル王子の腕の中にスッポリと潜り込んではスヤスヤと寝息を立てる…
「いらないよ。レギルの所がいいんだ。」
屈託のない笑顔付きで言われれば、これにはレギル王子が根を上げた。リレランが寝入ってから一刻も経たずに自分は寝台の中から這い出る羽目になる。欲しいと思う者が腕の中にいて、平静を保って眠れるわけがない。ここ数日こんな事が続いていれば寝不足と戦っているレギル王子もいい加減弱音を吐き出した。
「へぇ………そんなのが、悩みになるのか?」
近衞騎士隊詰所、深夜の勤務時間帯に部屋で就寝して守られているはずのレギル王子が何故か今騎士ヨシット・ルーランの目の前にいる。いつもの様にリレランが寝入ってからそっと部屋を抜け出してきた様だ。
如何やら王子殿下は不眠気味では?と言う他騎士達からの報告に上がっていた理由が判明したのだか、ヨシットにとってはただ呆れるばかりの内容で………
「……そんなのと言うが、お前ね……」
レギル王子の手には迷い森でヨシットが渡したお守りのネックレスが握られていて、それをそっとヨシットに渡してきた。
「これには助かった。十分にお守りとして役にたったとスザンカ嬢に返しておいてくれないか?」
「なんだ、残念がるなあいつ。これが縁で王子とどうにかなるかも知れなかったのに。」
クスクスと本気とも取れぬ事をヨシットは言ってくる。迷い森から帰っ後コアットとヨシットが持ち帰った薬草が功を奏してスザンカ嬢を始め多くの者達の命をつなぎとめたのだ。今では体力の回復を図る為に領地で療養をしているらしい。
「………残念だが、私では……」
リレランと共に生きると決めたその時から、王位継承は諦めているし、なんなら王族位からも籍を抜いて貰えないだろうかとさえ考えてはいるのだ。それには両陛下が絶対に了承してくれないのだが…自分達が生きている間はせめて王族位で居てくれと母、王妃に泣き付かれてしまってもいる。
「そこまで覚悟を決めていたなら手を出してもいいんでは?」
深夜の詰所に他の騎士は居ない。王族居室前の夜勤番と詰所待機のヨシットだけだ。だが、それでもこんな所で王子のこんな相談は如何だと思うのだ。苦笑しか浮かばないヨシットが、もう諦めて手を出してしまえとレギル王子に持ちかけている。
「………安心するんだそうだ…」
「ん?何がだ?」
やや疲れた表情が濃く出ているレギル王子はポツリと言う。
「私の腕の中は、卵の中にいる様で安心するのだと………」
「ぶっ………く、くくくくくく………………ははははは……!それじゃあ、手を出したくても出せんな!」
他人事だと思うからヨシットも腹を抱えて笑う事も出来るだろうが、レギル王子にとってはそろそろ死活問題に発展しそうだった。
「まだまだ、ランは卵から出たての子供なんだ…そんな者を手籠にしたら末代までの恥……!」
苦しそうに呟くレギル王子に、ポツリとヨシットは言ってみる。
「でも、相手は龍だろう?人間の年齢に当てはめなくても…と、言うか当てはまらないんじゃないか?彼らはいつが成人だ?それさえも俺は知らんのだが……」
「…なるほど……龍の生態など私も知らない……」
「な?ならば、本人に聞いてみろ?こうしたいんだって…良いかって?」
まるで、ヨシットには今のレギル王子が何も知らない子供に見えて仕方ない…曲がりなりにも王位を継ぐ為に教育されて来たんだ。閨教育だってもう済んでるだろうに……何故動けないのか?側から見ているとつい笑ってしまいそうになる。レギル王子本人は至って真剣なんだろうけれど……
「分かった…ランに聞いてみよう…」
素直に人の忠告を聞くレギル王子は芯から優しい、良い男だとヨシットは思っている。
そんな親友には幸せになってもらいたいものだ…
「頑張れよ!友よ!!」
爽やかに笑ったヨシットに見送られてレギル王子はやっと自室に帰っていった。
レギル王子の寝台の上で今日もゴロンと寝転んでバブバフと掛け布団の感触をリレランは楽しんでいる。
レギル王子の私室に入るとリレランはすぐ様寝台に飛び乗ってはまるで遊具の一つかの様にゴロゴロと転がるのがこの頃のお気に入りの様で……寝台はいつもレギル王子がそこで寝ていた場所で残り香だってあるだろうに、リレランは全く気にもしてもいない。
「……ラン……」
レギル王子は何やら困った顔をしてリレランに近づく。最早、先程の騎士タリムの事はレギル王子の頭にはない。
「寝台が気に入ったのならば、リレランの専用の部屋を作らせるが?」
いや、もともと部屋はあったのだが、ここに来てからと言うものリレランは風の塔に上がって夜は休んでいたし、昼間とて用意した部屋に居つかない。だから、一度も使われないままにリレランの部屋は開かずの間と化していた。それであるのに、あの風事件の後からはやたらとレギル王子の側にリレランは寄ってくる。レギル王子にとっては嬉しいことではあるのだが、流石に夜半に寝台の中にまでリレランが潜り込んできた時には身体が固まった…リレランはそんなレギル王子の様子など我関せずと言う体でレギル王子の腕の中にスッポリと潜り込んではスヤスヤと寝息を立てる…
「いらないよ。レギルの所がいいんだ。」
屈託のない笑顔付きで言われれば、これにはレギル王子が根を上げた。リレランが寝入ってから一刻も経たずに自分は寝台の中から這い出る羽目になる。欲しいと思う者が腕の中にいて、平静を保って眠れるわけがない。ここ数日こんな事が続いていれば寝不足と戦っているレギル王子もいい加減弱音を吐き出した。
「へぇ………そんなのが、悩みになるのか?」
近衞騎士隊詰所、深夜の勤務時間帯に部屋で就寝して守られているはずのレギル王子が何故か今騎士ヨシット・ルーランの目の前にいる。いつもの様にリレランが寝入ってからそっと部屋を抜け出してきた様だ。
如何やら王子殿下は不眠気味では?と言う他騎士達からの報告に上がっていた理由が判明したのだか、ヨシットにとってはただ呆れるばかりの内容で………
「……そんなのと言うが、お前ね……」
レギル王子の手には迷い森でヨシットが渡したお守りのネックレスが握られていて、それをそっとヨシットに渡してきた。
「これには助かった。十分にお守りとして役にたったとスザンカ嬢に返しておいてくれないか?」
「なんだ、残念がるなあいつ。これが縁で王子とどうにかなるかも知れなかったのに。」
クスクスと本気とも取れぬ事をヨシットは言ってくる。迷い森から帰っ後コアットとヨシットが持ち帰った薬草が功を奏してスザンカ嬢を始め多くの者達の命をつなぎとめたのだ。今では体力の回復を図る為に領地で療養をしているらしい。
「………残念だが、私では……」
リレランと共に生きると決めたその時から、王位継承は諦めているし、なんなら王族位からも籍を抜いて貰えないだろうかとさえ考えてはいるのだ。それには両陛下が絶対に了承してくれないのだが…自分達が生きている間はせめて王族位で居てくれと母、王妃に泣き付かれてしまってもいる。
「そこまで覚悟を決めていたなら手を出してもいいんでは?」
深夜の詰所に他の騎士は居ない。王族居室前の夜勤番と詰所待機のヨシットだけだ。だが、それでもこんな所で王子のこんな相談は如何だと思うのだ。苦笑しか浮かばないヨシットが、もう諦めて手を出してしまえとレギル王子に持ちかけている。
「………安心するんだそうだ…」
「ん?何がだ?」
やや疲れた表情が濃く出ているレギル王子はポツリと言う。
「私の腕の中は、卵の中にいる様で安心するのだと………」
「ぶっ………く、くくくくくく………………ははははは……!それじゃあ、手を出したくても出せんな!」
他人事だと思うからヨシットも腹を抱えて笑う事も出来るだろうが、レギル王子にとってはそろそろ死活問題に発展しそうだった。
「まだまだ、ランは卵から出たての子供なんだ…そんな者を手籠にしたら末代までの恥……!」
苦しそうに呟くレギル王子に、ポツリとヨシットは言ってみる。
「でも、相手は龍だろう?人間の年齢に当てはめなくても…と、言うか当てはまらないんじゃないか?彼らはいつが成人だ?それさえも俺は知らんのだが……」
「…なるほど……龍の生態など私も知らない……」
「な?ならば、本人に聞いてみろ?こうしたいんだって…良いかって?」
まるで、ヨシットには今のレギル王子が何も知らない子供に見えて仕方ない…曲がりなりにも王位を継ぐ為に教育されて来たんだ。閨教育だってもう済んでるだろうに……何故動けないのか?側から見ているとつい笑ってしまいそうになる。レギル王子本人は至って真剣なんだろうけれど……
「分かった…ランに聞いてみよう…」
素直に人の忠告を聞くレギル王子は芯から優しい、良い男だとヨシットは思っている。
そんな親友には幸せになってもらいたいものだ…
「頑張れよ!友よ!!」
爽やかに笑ったヨシットに見送られてレギル王子はやっと自室に帰っていった。
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