[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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70 王の決意

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「父様~~…母様いない……」

 幼い、未だ可愛いらしい甲高い声が父を呼ぶ。

「おや、ノエル。母様はお家に居なかったのかい?」

「うん。居ない~」

 どうやらノエルは先ほどまでお昼寝でもしていた様だ。まだ眠たそうな目をシパシパ瞬きながらトテトテと近寄って来る。仕事は一時中断だ。

「う~~ん……なら、あそこかな?」

「どこ?お外?」

「そうかもね?ノエル飛べるだろう?探してご覧?」

「いいの?」

「あぁ、練習しないと上手くならないよ?」

 歩くのと同じでまだまだ飛ぶのもおぼつかない子供なのだから…
 
 大きく羽を広げたその子はゆっくりと大空を目指して窓から飛び出していく。いつも思うが、この瞬間は時が止まった様にゆっくりと優雅に見えるから不思議だ。くるり、と空中で円を描き、見てみて!とアピールしている様に旋回してからノエルは丘の方に飛んで行った。

「上手くなったじゃないか…」

 時が経つものは早いものだな、と独りごちて安定しながら飛んでいる我が子の白い身体を目で追った。


 丘の上の花畑の中央で白い塊の隣に人が立っている。

「あ!母様いたーーー!」

 お目当ての母を見つけてノエルはご満悦、一気に下降して一目散に母に向かってくる。

「…はぁ、全く……」

 そのスピードでぶつかっては……きっと物凄い衝撃が両者に降りかかるだろうに……
花畑に立っている人は突っ込んで来るに向かって片手をあげる。それだけで子龍はフワリと風のボールに包まれて一気に失速し、地上に着地した。

「わぁい!母様~~~」

 渋い顔をしている母の周りに子龍はパタパタと飛びまとわりついていく。まだまだ親が恋しい年頃なのだろう…

「ノエル……あれだけ速く飛んではいけないと言っておいただろう?」

「え~~僕、上手でしょ?」

 母の肩に降り立って得意げにノエルは胸を反らせた。

「お前ね…あのスピードでここに激突したら、ここの花畑がダメになるだろう?」

 龍は身体がただでさえ丈夫だ……だからノエルがどこかへぶつかる事にはそんなに心配もしていないが、問題はぶつかられる所だろう。この丘には沢山の花々が植えてあって今は良い見頃となっている。地表はよく耕かされて柔らかい。そんな所に猛スピードの大砲並の威力がある物がぶつかってきては、柔らかな地表一面がいとも無残な事になるのは目に見えている。そして今は大切な卵が眠っているんだ。万が一にでもひびでも入ったら大変な事になる。

「母様…僕、ダメだった?」

 さっきまでの威勢は何処へやら、今度はシュンとノエルの元気がなくなる。クルクルクルクル一日中目まぐるしいほどに子供の感情は変わるもので見ている自分が疲れてしまう。

「ダメ、とは言ってないよ。安定して飛べる様になってるしこれなら長距離も問題無さそうだけど、スピードが問題なんだ。直ぐに自分で止まれるスピードじゃ無ければダメだ。」

「とまれるもん!」

「さっきは僕が止めたからだろ?」

「うぅ……っ」

「いいかい?ノエル…良く見てごらん。あそこに有るのは卵だよ?ノエルより小さくてまだそんなに丈夫じゃないからお前がぶつかったら割れてしまうかもしれない…ノエルが止まれる事を信じていない訳じゃないんだ。でも、小い者を守ってやらなくては…ね?」

 母に抱き抱えられて良しよしと撫でられればノエルの心もまた元気を取り戻していく。
自分と良く似た色合いの身体に、金の瞳の小さな子龍…まだまだ生まれたばかりで世界の事など何も知らないだろう…そして、目の前の卵だ。

「まだ、孵らないのか?」

 日に何度も卵を見回ってはノエルの世話にと忙しいリレランの後ろからレギルが声をかけた。

「ノエルの時はもう孵っていただろう?」

 龍を育てた事などないから、前の事を参考にすると、今ある卵はとうに孵化していてもおかしくない時期ではあるのだが………

「レギル……」

 子龍を抱いたリレランが振り返る…

"抱っこ……" 

 レギルの声を聞いた卵が反応した?微かにフルフルと揺れている。

「抱っこ…?」
 
 確かに精霊語で卵はそう呟いた。

"抱っこ…して……"

 先に生まれた子龍はしっかりと人間の言葉を覚えられた。が、この卵は……

「精霊が、教えたのかな?」

 まだ孵化もしていないのに、精霊語を操るとは…

「だろうね?僕の時もそうだったけど、世話焼きな精霊がいる様だ…」

"ねぇ……抱っこ……"

 微かな可愛らしい声で抱っこをせがむ卵……親ならば答えない訳にはいかなくなるくらい愛しい気持ちが湧き上がって来る。

"抱っこをせがんでいるのはこの子かな?"

 まだ孵化する予兆も見せないが少し輝いている美しい卵…かつてのリレランの卵を思い出す。花畑の中にすっぽりと埋まってしまいそうになっている卵をそっとレギルは抱き上げた。抱き上げれば卵はずしっと重くて微かに暖かい…

"生まれた時よりも重くなっているね?少し、大きくなった…!"

 子供の成長はどんな事でも嬉しいもの。生まれたばかりの時はもっと柔らかくて、軽かった…ノエルの時は触っていいものかもわからずにリレランが産むに任せたままだった。が、次に産まれたこの子の事は産まれる瞬間にレギルが取り上げて抱きしめた。暖かくずっと軽かったのを覚えている。

"その時の記憶が残ってるんだろうね?甘えっ子になりそうだなぁ……"

 卵を大事そうに抱えているレギルの横でリレランは一人渋い顔をしていた。
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