[完結]亡国の皇子は華と剣を愛でる 

小葉石

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12 アクサード

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 ドアをお行儀悪くも蹴り破り、中に入って来たのは濃紺の髪のまだ少年と言ってもいい歳の兵士とその後ろに付いていた2人の侍従。


「何をやっているんだ!」


 濃紺の髪の少年の後ろから入ってきた侍従が剣を抜く。

 聞き慣れた抜刀の音を聞き、たじろいだのはスロウルを押さえ付けていた男達だ。


「何って…」

「もう一度聞く。ここは今は使用禁止倉庫だろう?使用許可が必要なはずだが?」


 少年は身分が高い貴族だ。場末の兵士団の様な所にも彼の様な身分の者も騎士志望であるならば漏れなく皆んな派遣される。騎士となって兵士をまとめる際には下にいる者たちをもまとめ上げなければならないから、良い経験となるからだ。
 身分の低い者達といえど一隊で有るのならば知っておくべきなのだ。


「何をやっていたのだ。」


 どんな説明をされてもやっていた事は一つだろう。背こそ高いがまだ体つきはすっきりと細い少年は、堅いも良く大人の体つきをしている男達に臆する事なく堂々とした佇まいを崩さない。

 
 ……知っている。この方は…

 ドアを蹴破られた音に驚いて恐怖も飛び、たじろぐ男達の姿からこの後に降りかかる不快な行為は避けられたのだとスロウルはやや安堵する。

 ホッと力が抜けた拍子に、半泣きになっていた瞳から涙がこぼれ落ちた。



 男達はスロウルを掴んでいた手を離し、建物の壁側へと侍従達に追いやられていく。

 
 助かったが、このまま惚けているわけには行かず何とか衣類を引き寄せて下スロウルは下半身を隠した。



「大事ないか?」
 
 側に寄った少年はスロウルからは目を逸らし、着ていた自分のマントを差し出す。


「ありがとう…ございます。アクサード・ディル・スレントル様ですね?お見苦しい所を、お見せしました。」



 こんな目にあっている事自体が不可解過ぎてアクサードの眉間の皺が濃くなるのも肯ける。
 

「大事ありません。」

 未だに恐怖と不快感に少し体は震えるものの、グッと拳を握りしめてスロウルはそれを表には出さない。


「お前は医者に見せる、掴まれたところは痣になるだろうな。その者達は謹慎していろ。部隊長が帰還次第処罰する。」

 アクサードはフゥッとため息を吐いてスロウルをマントで包みヒョイと抱え上げた。


「降ろしてください!?自分で歩けますから。」

 体格差があるから持ち上げるのなんて簡単なのは分かるが、抱き抱えられる必要を感じていなかった。

 こんな形で宿舎に入ったら何があったと詮索の的になる。


「部隊長が帰るまでお前の身柄を預かる。いいな?」

 アクサードは有無を言わさぬ強い口調だったが、抱きかかえる時も慎重で余り揺れない様にそっと歩いてくれている様な気がする。
 体の何処も傷ついて居ないから壊れ物の様な扱いより、早く人目につきそうな所からは立ち去って頂きたい。

 どう言うつもりでアクサードがスロウルを抱えているのか分からずジッと赤茶の瞳を見つめてしまう。


「そう見つめてくれるなよ。何もしないから。人目にはワザと付けているんだ。もうお前に手出しするなってね。」

 スロウルが見つめて居たことに気が付けばアクサードはバツの悪そうな笑顔でそう言った…



 アクサード・ディル・スレントル。スレントル公爵家の次男で騎士志望。家柄は良いが次男であるため爵位は継がない。己の腕一本で身を立てていく為に、学園に入れば騎士コースを取る。幼い頃より剣筋がよく最弱年で騎士隊長も夢ではないと言われているほどの腕前だ。上に行く為には何よりも経験も必要と、スロウルと同時期位にこの隊に派遣されていた。


 スロウルも何度もアクサードの剣筋を見た事がある。ただの手合わせにも隙がないのだ。

 まだ少年なのに、乱戦になっても敵の方がアクサードの気迫に気圧され踏み込んでいけないらしい、と噂で聞いたこともあるほど。

 スロウルもがむしゃらに腕を磨いている最中だが、いかんせん、他の者にほぼ力負けしてしまう。後数年経てば分からないが、スロウルはまだまだここにいる団員達にさえも勝つことなど出来ない。

 アクサードはスロウルの目標の一人でもあった。アクサード程強ければ、きっと自分は生き残れる。どんな所に行ってもルウアに心配もかけずに飄々としていられるだろう。スロウルは幼いルウアにあんな決意をさせるほど弱い自分ではいたくなかった。


 だから、何処にいたって、何をされたって自分は耐える決意をしたんだ。

 
「スレントル様。私に後ろ盾は要りません。自分の腕で強くなりますから。」
 
 自分の決意を掌に込めてグッとアクサードからスロウルは身体を離す。


「分っている。お前はが弱い女でも無いし、剣の腕を鍛えてるのも知っている。」
 
 優しい瞳が真剣さを帯びる。

「百獣の王でさえ、子供の時は親が守る。お前は俺の子供ではないが、まだ自分の力では身を守るのも無理だろう。」


「………父が、許しませんから…」

「その噂くらいは……聞いている……今のお前の保護は部隊長殿が?」

「今は、利用しろと………」

「テドルフ公爵は知っているのか?」

 少し、アクサードの瞳の色が険しくなる。語気はそのままだが、何故だか怒っている?

「そのテドルフ公爵が、ここに推薦しましたから……」

 言った途端に、はぁぁぁぁ、と盛大なため息をつかれ、アクサードの眉間の皺がさらに深くなった。

「俺から部隊長には話す。」

「え?」

「お前には関係ない事だから気にするな。」
 
 宿舎に着くまで、いや着いてからもアクサードの不機嫌そうな表情は変わらなかった。
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