[完]史上最強のΩは番を持たない

小葉石

文字の大きさ
82 / 144

82.ヤキモチ 2 *

しおりを挟む
「罰掃除だと言うのに精が出るな?」

 その声が聞こえた瞬間、アーキンは抱え上げていた飼い葉を見事に全て床に落としてしまった。

「……リリー?」

「あーあ…折角の愛馬の食事が汚れるぞ?」

 直接声を聞いたのはいつぶりで、顔を見るのは……?そんなに間は空いてはいないのに酷く、懐かしい…
 考えるよりも先にアーキンは全速力でリリーの元に駆け寄って力一杯小さなその身体を抱きしめてた。

「う……く、るし…」

 αの力一杯である…リリーでなければ気を失っていたかもしれない。

「リリー!リリー…」

「うぇ…力を抜け!馬鹿力!」

「あ、悪い……」

 勢い余って力加減などは頭から飛んでいたアーキンは急いでリリーを抱きしめた腕の力を緩めるとフードの下の顔を覗き込んでくる。

「大丈夫か?」

 酷く不安気なアーキンの表情だ。初めて組み敷かれた時だってこんな顔をされ無かった……

「くっ…飼い葉の臭いが凄いな…藁の中にでも飛び込んだのか?」

 アーキンの髪やら服には先程まで抱え上げていた細かい飼い葉が至る所にばら撒かれた様にくっついている。飼い葉の乾いた草の匂いとアーキンの香り…これ以上リリーが安心する香りなんてないだろう。リリーは思い切り吸い込んでホッと息を吐く。

「いい匂いがする。」

 アーキンの香りを一嗅ぎする度にリリーは自分の体温が上がるのがわかった。

「俺は嫌だな…リリーに奴の匂いがついてる…!」

 奴、先程リリーに遠慮もなく触っていたあいつだ…!
 
 やっと自分のものになったと言うのにまだ本当の番になる前から他の奴に割り込まれてなるものか!アーキンの瞳に仄暗い炎がゆらゆらと揺れる。

「そうだ、嫌だった…だから、アーキンの匂いで消して…」

 自分から、まだ発情もしてないのに強請るなんて…今までのリリーからでは考えられない。

 アーキンは何も言わずそのままリリーのフードをむしり取る様に引き下げると頭を押さえて深く口付けた。あの時以来、近くで顔も見る事ができなかったから格段に甘く感じる…リリーの身体も火がついた様に熱い……

「ん……ぅ…っ…」
 
 息継ぎさえ忘れてしまう程夢中になりながら、リリーはやっとの思いで対魔法第2騎士団厩舎一棟に誰も入ってこれない様に保護魔法をかけたのだった。
 
 それからはもう抵抗などできはしない。リリーはアーキンに抱き上げられたまま厩舎奥の飼い葉の山まで運ばれる。

 熱くなったリリーの身体は何処も敏感で飼い葉の中に下すとチクチクとする飼い葉の刺激でも甘い痺れが走ってしまうのを止められそうも無かった。

「こんな場所で悪いが…リリーが欲しい……」

 熱く掠れてリリーに触れる事に許しを乞う番の言葉に誰が否と言えるだろう…リリーだって発情しているが如くに身体が燃える様なのに…

「んんっ……」

 答えたくてもアーキンの手が肌の上を掠めるだけで声が漏れる。アーキンはフード付きの外套をリリーの下に器用に敷いて、焦って破かない様に細心の注意を払いながら一枚ずつ服を脱がして行った。
 リリーの白い肌が熱を持ってほんのりと朱に染まっている。上がって行く体温全てがまるでリリーのフェロモンを撒き散らしている様に身体の何処もかしこも芳しい…

「リリー…」

 愛しい者の名前を呼んで、呼吸を整えなければ思うがままに欲をぶつけてリリーに乱暴してしまいそうだった。今だってどれだけ自分の昂りをリリーの中に埋め込んでしまいたいか、その衝動で頭が一杯になっていると言うのに…

「……噛みたい…」

 リリーの首筋に齧り付く様に唇を這わせ濃厚なフェロモンを嗅ぎながらアーキンは無意識にそう呟く。なのにリリーの首には革製のガードが鈍い艶を放ちながらアーキンの行手を阻んでいる。

「なんで…?」

「あっん…!」

 イラついた様にアーキンはガードの上からリリーの首に齧り付く。肌を這う手は少し強めに胸の突起を擦り、潰していく。

「そ、れは…っ…だ…め…」

「なぜだ…?リリーは、俺に身を任せてくれただろう?」

 アーキンの瞳が燃える炎の様に赤く染まる。必死にリリーの唇を求めながらアーキンは性急にリリーの昂りを手に包み込む。

「あん…っ…!」

 背をしならせたリリーの胸の突起を吸いながら少し歯を立てて、リリーを包んでいる手の動きを早めていく。

「あっ!…ぁっ…やぁ!」

 この間と比べてアーキンの性急な愛撫にリリーは声を抑えるどころか、既に後ろは愛液が滴って伝い落ちてくるのが分かるほどだった。

「ほら…リリーもだ…俺が欲しい…?」

 決して弱くはない騎士がこんなことを聞いてくる。赤い瞳は爛々と獲物に食いついて離そうとしない肉食獣の様なのに、声は自信が無さそうに震えている。今にも全て食い尽くそうとしているのに、最後には優しい許可を求めてくる。

「アー…キン…?」

 息が上がって今にも弾けてしまいそうなリリーの瞳にそれは酷く獰猛で冷酷にも、逆に今にも泣きそうな不安な子供の様にも見えて仕方が無い…

 馬鹿だな……本当に…お前は、馬鹿だ…

 本格的に熱が上がってきたリリーは震える両腕をゆっくり上げてしっかりと愛しい番を力一杯抱きしめた…








  






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...