[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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9 衝撃発言

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 現れたのは少女である。

 魔法陣の光が消失しだすと、はっきりと姿が見て取れる。

 黒目に長い黒髪、王族の系統に似ている容姿だ。10代中程であろうか?もう少し若くも見える。細身の体を小さくしてうずくまるように座っている。
 暖かそうな衣類から南部の民でないことが分かる。南側は比較的気候が温暖でこの時期は動けば少し汗ばむ程の気温だからだ。

「ああ、成功しましたね。」
 安堵のため息と共にシガレットは自然と声が出ていた。

 少女は細かく頭と視線を動かして周りを伺っている。
少女後方から護衛騎士が移動してくると、ビクッと体を弾ませて、少女の体はまた縮こまる。

 彼等は騎士の中でも精鋭の者を選りすぐった。エスコートまで完璧に熟してくれるだろう、と考えたのだが。

 ああ、これは明らかに怯えている。

 自分がどこにいるかも、置かれた状況も分からないのだから仕方ないだろう。後方の騎士を手で制し待機させた。

 少女の怯えた様子から、こちらへの反撃はないだろう。そもそもこれからの為にも、速やかに警戒を解いて貰わねばならない。彼女に敵意はない。

「総員、帯剣解除。」
 
 帯剣に対する恐怖はあろう。こちらも敵意は無いことを示したい。

 日々の鍛錬の賜物か、流れるような動作で剣を外し床へ置く。
 本来なら騎士の命とも言える剣。不用意に床になど置きはしないが、側に控える侍従も今は人払いの対象だ。

 余分に怯えさせてしまったか、自分が進んで少女を出迎えればよかったか。ふと頭をよぎったが、呼吸も荒く苦しそうにしている陛下の側を離れる事ははばかられた。

 帯剣解除により、明らかに少女の緊張が溶けていくのが見て取れる。

 少女が顔を上げると、ゆっくりと漆黒の瞳と視線が合う。少し目尻が下がった丸みを帯びた瞳は不安気に揺れており、スッと通った下がり気味の眉は未だひそめられたままだ。ひき結んだ唇は少し色を失っている。
 過度の緊張状態を強いてしまってる事に若干の申し訳なさを感じる。

「ここは、どこ?」

 初めて少女が言葉を放つ。この状況下に泣き喚くでも、こちらを詰るでも無く、冷静さを失わずに必死に情報を得ようとしている。
 気丈な娘だ。

 有り難い事にこちらを敵視してはいない。交渉の余地があるのだ。話が通るようならば奥の手は使わずに済みそうである。内心、手酷い事をしなくても済みそうだと安堵する。

 少女はゆっくりと王座の方へ目を向ける。確かめるようにじっくり王座を見つめている。
 確かに違和感はあるだろう。

 そこに座るのは威厳ある王のはず、見てくれはどうであれ、権力を持つ者のみが座られる場所。

 だが、今はどうだ。若く体格はいいが、息も絶え絶えの衰弱している王だ。
 自分の身体を座っていてさえ保つことが難しい程に弱ってしまっている王だ。

 本来ならば、外部の者にこのような姿を見せる事は愚作であろう。昨日のように虚勢を張ってでも王の威厳を示すべきなのだ。本来ならば。

 しかし、我が王の為、少女の持つ力を借りなければならない。嘘偽りを言っても何れはばれる。では隠さずに初めより見ていただいた方が良い。

 この方がシエラ様の考え通りの方ならば、強力な癒しの魔法が使えるはずなのだ。その法さえあれば陛下の命を、せめて陛下の命だけでもまだ繋いでいく事が出来る。

 そっと主人の様子を伺えば、何やら呟き身を起こそうとしているでは無いか。
 上体を前に傾け、立ち上がろうとされているのか?ここまで来るのにも、ほとんど自身の力では歩けなかった程だ。立ち上がれたとしても転ばれてしまうのは確実だ。 
 手を差し伸べようとした所に、やはり力尽きた王はそのまま背もたれに身を沈めてしまう。慌てて陛下の元に寄ると手で制されてしまった。出された手は主人に触れられず顔色のみを確かめる。
 容体が悪いようならば医師団を呼ばねばならない。

 陛下の顔色は変わらずも、瞳の光はしっかりとしていた。真っ直ぐに前を見据えている。フゥ、と長く息をつきシガレットにのみ聞こえる声ではっきりと言われたのだ。

「番だ。」と。 

 自分はどんな顔をしていただろう。

 探しても探しても見つからなかった存在がいたと?
仕えて来た歴代の王達からは、聞きたくても聞きたくても聞けなかった宣言を、聞いた。

 臓腑の中から身体中をぎゅっと掴まれ、一気に解放された様な衝撃が走る。手足の表皮がピリピリとこそばゆい。
 決して平静では居なかったであろう自分の表情は、外交をも司る宰相という立場から鍛え上げられて来ており、きっと崩されてはいまい。後で、自分を褒めたいくらいだ。

 居住まいを正しながら、瞬時に自分の行うべき事を把握する。

 癒し手として協力を得られたなら、陛下が落ち着いた折にはある程度の自由を約束しようと用意はしていた。が、今後一生この少女の自由は約束できなくなってしまった。
 何よりも探し求め、諦めてもいた陛下の番だ。兄王達にも添わせて差し上げたかったと、心から今でも思う。

 積年の感傷が走馬灯の様に胸を巡るが噯気にも出さないシガリットは流石だろう。

「随分と驚かせてしまいましたね、レディ。お名前を伺っても?」

 シガレットの感情を読ませない柔らかな声が謁見室に響いていく。
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