[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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13 毎朝の仕事

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 ルーシウスの朝も早い。体調が若干回復したとしても万全では無いのだから、ゆっくりと養生して欲しいと仕えている者は思うだろうが、サウラの昨夜の報告を受けるために、侍女長より朝の挨拶を受けているのだ。政務はその後朝食を取ってからとなる。

「陛下。朝の挨拶を申し上げます。昨夜は十分にお休みになられましたでしょうか?」

 侍女長アミラは40代前半で鳶色の瞳、赤に近い茶の髪をキッチリとアップにして結っている。ルーシウスが幼い時から侍女として仕えていた者で信頼がおける者の一人だ。

「問題ない。久方ぶりによく眠れたのだ。夢見も悪くはなかった。」

 柔らかく笑み返し答える様は、幼い頃の面影がある。
 今日は怖い夢を見た、今日は大丈夫だったと朝の報告は幼い頃のルーシウスの日課であった。

 しかし今朝のルーシウスの気がかりは夢見ではないだろう。サウラが王城での初めての夜を迎えたわけだ。何か不便はないか知っておきたい。

「はい。あの…」
 珍しくも言いよどむアミラである。

「ん?どうした。特別変わった事はなかった様に思うが。」
 夜間担当の者にそれとなく確認はしているのだが。

「はい。洗濯物をどこに干せばいいのかと…」

「は?」
 洗濯とは?何か特別な物を持ってきていたのだろうか?

 どうやら入浴の際に今まで着ていた衣類を浴室で洗ったらしいのだが、それをどこで干したら良いのかと侍女に聞いたそうな。 

 此方で衣類を預からなかったのかと尋ねれば、余りにも何処どこ彼処かしこも綺麗なため、自分が着ていた物を人に預けるのは勿論、床に置く事さえはばかれる、と思ったらしい。

 それで洗濯に繋がる。

 一瞬呆気には取られたが、何分育った環境が違うのだ。まずは慣れてもらわなければなるまい。
 が、そんな事もあるのかと思うと面白く思えてくる。

ククク、と笑いをこらえる。

「陛下。御快癒ごかいゆされて大変よろしゅうございました。」

 昨日までのルーシウスは周囲の使用人にも重病人の様に映ったであろう。
 なのに、今日はゆったりとお茶を飲みつつ応接間にて早朝の時間を過ごせているのだ。目に見えた回復に安堵する。

「いや、まだ見た目だけなのだ。王のくせに、サウラの力を借りなければならないなまくらだ。なかなかにあれの方まで時間も手も割くことができない。
 アミラ、悪いがサウラがここで過ごしやすい様に取り計らってくれ。」

「畏まりました。姫様は素直で純粋なお方とお見受けいたしました。お心に添えます様に尽力致します。」

 アミラは厳しい面もあるが、情に厚く勤勉で王の子供達をしっかりと躾けてくれた者の一人だ。働きに期待しよう。

 アミラが下がると、本日の日程の確認と医師の診察を受ける。 
 それが終わろうかという時にドアが鳴った。

 許可をすると、シガレットとアミラに連れられたサウラがキョロキョロしながら入ってくる。
 シガレットは入室せずドアの外で待つ。

 サウラはサイドを編み込まれた長い黒髪を緩く一本に結び、青地に白が入った爽やかな、動きやすそうなワンピースを着ている。
 目の前のソファーを勧めればソファーの端にちょこんと座った。それを見届けるとアミラは静かに退室する。

「昨夜はよく眠れたであろうか?」

 入室時や腰を落ち着けた後でも目が合うとペコリと目礼をしてくるサウラに声をかける。

「はい。とても気持ちの良いベッドでした。」

 誰かに運んでもらったとは、言えまい。

 そうか、と呟くルーシウスはフッと気を抜いた様な笑みを見せる。

其方そなたに改めて謝罪をしたい。火急の事とは言え其方には要らぬ負担をかけてしまう。
 許して欲しいとは言わぬが何卒協力をしてもらえないだろうか?
 其方が望む事、此方こちらで出来る事なら何なりと善処しよう。」

 居住まいを正すとサウラに向かって頭を下げる。ルーシウスの顔は少し頬が痩けている様に見えるが顔色は昨日よりもいい。

 いきなり謝り出したルーシウスに驚きはしたものの、昨日の事に対してサウラは怒ってはいないし、恨んでもいない。

 それに村は帰れないと言われたが代替え案を提案されてそれで納得出来もした。全てが消化出来たと言ったら嘘になるが、昨日の事については納得が出来たのだ。

「もう、もう十分ですから。約束もして下さいましたし、私も出来る限りのことをしますから。」

 頭を下げ続けるルーシウスに慌ててそう言い募る。サウラがしてもらった約束も、サウラがこれから行う事もルーシウスはきっと知っているのだろう。

「それでも先ずは許しを乞いたかった。公の場では出来ぬ故、ここですまないが。」
 しっかりとサウラの目を見てルーシウスは告げる。

 やはり綺麗な深いエメラルドグリーンは優しい色を湛えている。
 真摯に告げられその瞳を受けては、何だか妙に胸がこそばゆくて居心地が悪い。

 慌てて立ち上がると手をかざして言った。
「分かりました。本当にもう十分です。今日からは私も仕事をする者としてお仕えしますから。」

 困って周りを見回してもこの部屋には誰もいない。誰か助けて、と密かに思いつつ本日のお役目を済ませるのだった。




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