[完結]その手中に収めるものは

小葉石

文字の大きさ
23 / 143

23 全結界防御3

しおりを挟む
「全結界ねぇ。」

 執務室にてお茶を飲みつつ、通信魔法石で呼び出されたシエラは部屋から空を見つめる。

「長年生きてると面白いものを見るわね。」
どことなく楽しそうに見えるが、大して驚きは無いらしい。

「シエラの村の者には以前にも同じ魔力を持つ者がいたのか?」
 今後の対策のためにもざっと昨日の経緯を話し、シエラの意見も聞く。

「私がいた頃には見たことがないわ。けれど、サタヤの結界の完成度と強度を見たら、サウラちゃんの結界の強さも不思議ではないくらいよ。」

 人里離れ結界の中に引き篭もっていたサタヤの村の一面は驚くべきものだ。

「護衛は付けた方がいいでしょうね。不意打ちされたらたまらないわ。それに、今は周囲には知られていないかもしれないけど、これからの事を考えると、あの子の身の上に何かしらの影響を及ぼすかもしれないもの。」

 余り考えたくは無いが、番となる事をサウラが拒否した場合、外に出て行く事は止められないだろうし、人の目にその力が触れれば触れる程、良からぬ事を考える者も出てくるからだ。
 完全に王の手元に置ける様になる迄は、公にしない方が良いだろう。

「確認出来ていない毒と、精神影響の方は城下に行く前に私の方で確認をとる。」

 昨日の近衛の報告書を読み返しながらシエラが研究者の顔付きになる。
 王国内でもシエラは魔法研究者として第一線で活躍してきており、右に出るものは未だにいない。
 今回の事はシエラに一任する事にする。

「ところで、ルーシュ。サウラちゃんとのデートはどこを周るつもり?」

 ニコリと笑顔のシエラがルーシウスに顔を向ける。

 デート、と言う言葉に「うっ」と少し声を詰まらせるも、満更でも無く嬉しそうである。

「そうだな、王都中央から海の方へ向かって、少し歩こうかと。」

 王都は勿論国の中心となる町だ。中央部は大商人が構えるマーケットも開かれ、国中、諸外国から食料、衣料、娯楽は勿論のこと、珍しい外国の薬や医療、乗り物から武器まで何でも揃う品揃えが目玉の、観光スポットでもある。

 大いに賑わう屋台、ドレスや貴金属等の高級品の取り扱い店から肥料の量り売りまでと他種多様な店舗が立ち並ぶ様を、きっとサウラは見たことがないだろう。

 二人で並んで歩いたならば、デートの様に見えるのだろうか?

 想像するだけで楽しくなるではないか。

 そして海を見せてやろう。王城南の王家の墓からも海は望めるが、サウラは入ったことが無いだろうから、ぜひ海は見せてやりたい。

「あらあら、お楽しみの所を申し訳ないけど、気を付けて行ってきて頂戴ね?通信魔法石は必ず身に付けておいて。まあ、サウラちゃんがいれば、何とでもなりそうだけど。」

 シエラは呆れとも苦笑とも言える笑顔だ。
サウラの持つ全結界防御の適応範囲によっては護衛さえ要らないかもしれない。それをこれから確かめるのだが、そんなに急がなくても良いだろう。

 少し照れ臭そうに咳払いしているルーシウスの顔を、もう少しだけ見たいと思った。

 彼の他に何人もの親しい顔が思い出される。それぞれに幸せな人生であれば良いと思って手助けしてきたが、どれだけの者が満足して逝けただろうか?

 これからのルーシウスの人生が、もっともっと幸せに華やぐ物になって欲しい、と心からシエラは願うのである。

 その為に今日もやるべき事をやりましょう。


 本日も、朝のお勤めの後は図書館にいるサウラを早々に見つけた。

「サウラちゃん。」

 親しげに声をかけてくる人物を確認して、サウラが貴族の礼を取る。

「おはようございます。シエラさん。」

 綺麗なサウラの礼に目を見張る。

「丁寧にありがとう。綺麗に出来ているわ。」

「本当ですか?変な所ありません?」

 アミラから作法を教わってしばらく経つが、誰かに対して礼を取ったのは初めてだ。 

 王であるルーシウスに対しても礼は要らないと言われている位なのだから、見せる相手がいないのである。

 しかし、お城にいる限り、サウラはちゃんと学べる事は学びたいと思っていて、今日も[貴族共通礼儀作法]中級、上級編を借りようとしていたのだ。

「フフ、勤勉ね。良い事だわ。そんな、サウラちゃんに聞きたいことがあるの。一緒にお茶でもいかが?」

 地下のシエラの仕事部屋へ行くと、2人分のお茶の支度がしてあった。
 茶色く濁ったお茶からは甘く、香ばしい匂いが立ち上っている。

 どうぞ、とシエラに椅子を勧められ席に着く。

 部屋に置かれた魔法石は、以前サウラが訪室した時よりも数が増えた様だ。
 整然と魔法石が並べられた小箱が幾つか増えていた。

 ゆっくりとお茶をいただく。口に入るとやはり香ばしくて甘く、こくがある飲みごたえのあるお茶だ。

 お茶を飲みながら、シエラはここで魔法石の製造をしているのだと言っていた。魔法石も種類によって、掛ける時間や使用する魔力が違うそうで、昔ほどすんなりと出来なくなったわ、歳かしら、とシエラが独りごちるのを聞いてしまった。

「あの、今日はどうして私の所へ?」
シエラの独り言には反応せずに、訪問の理由を聞いてみる。

「ん?美味しいお茶を一緒に飲みたかったのと、サウラちゃんの魔力についての確認かしら。」

 美味しいでしょ?これ、と言って、カップを自分の顔まであげるシエラに、深く肯いて答えるサウラ。

「え~と、私の魔力ですか?回復と、結界を張ることです。」

「ええ、そうみたいね。具体的には毒とかも防げるの?」

「はい。毒薬は試したことありませんが、猛毒のキノコを食べても大丈夫でした。」

 あの時はいつまで毒が残っているか分からなかったから数日間自身に結界を張り続けて大変だった事を思い出す。

「毒キノコを食べたの?」
 コクコクと肯く。

「あとは?」
「そうですね、どこまで大丈夫か確かめる為に、幻覚作用や麻痺作用が強く出る植物も食べてみましたけど、大丈夫でした。」 

「……」
 シエラは黙ってお茶を飲む。

「サウラちゃん約束してね。もう絶対にそんな真似しないで。」
 少し悲しそうな目をしてシエラはサウラを見つめる。

 サウラが毒殺される心配も無くなって、良かったのだけれども。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...