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25 城下町2
しおりを挟むサウラの故郷の話を聞きながら、馬車は城門を出て、城下町に入っていく。大通りを通り行きながら、王城からは屋根しか伺えなかった町並みをゆっくりと見物する。
まだ少し早い時間だからか、道行く人は多くはない。それでも、商店を開ける準備をする者、店の前を掃き掃除したり、家の外の花に水を撒いたり、馬車で荷物を運び入れていたり、大きな門構えのある邸宅の前では門番が交代をしていたり、家の屋根から煙が上がっているのは朝食の準備のためだろうか、目に入る物全てがサウラにとっては初めてなのだ。
木造りの村とは違う建物も、遠くからではおもちゃのように見えた。木ではなく、石のような素材の壁は、薄めの色で塗られていて町並みが明るく見える。
大通りから時折細い道が左右に分かれ、細い道の方には布を張った屋根の店が立ち並ぶのも見て取れた。
あそこは屋台と言って、食べ物や飲み物を売っている、とルーシウスが教えてくれる。
サウラはしまった、という顔をする。
「売っている物は何と交換ですか?今日は私は身につけているものしか持ってきてませんが、これも私のものではありませんし。交換できませんよ?」
自分の物ではない物を得るためには、何かと交換しなくてはならない。労働であったり、自分が作ってきた物であったり。残念な事に今日は何も持って来てはいない。
働いて返すと言っても、王室から借り受けている綺麗な服では汚す事が心配で仕事もままならないに違いない。
お店の中に入ったり、先程の屋台と言う物もちゃんと見てみたいが、何も得られずに今日は見るだけで終わってしまいそうである。
なんと、物々交換とは、少し目を見開くルーシウスである。
「いや、物を買う時には貨幣を用いる。これを持っていれば店が指定した料金で物を得られる。」
ルーシウスは腰につけた皮袋から硬貨を数枚出してサウラに見せる。
丸く光る物を見て、サウラは思い出した事がある。共通語を学んでいた時、そう言えば両親が話していた。
"お金"で物と交換できると。しかし、村にはお金なんてない。昔見せてもらった事がある様に思うが、全く使った事もない物だからすっかり忘れていたのだ。
「両親から聞いた事がありますが、初めて見ました。」
マジマジと硬貨を見つめるサウラに、では後で沢山買い物をしてみよう、とルーシウスが魅力的な誘いを持ちかける。
村とは違う所で生活するのだ。お金の事も勉強しなくてはいけない。
1人で物も買えないなんて自立した大人ではないもの。
なんで出かける前に勉強してこなかったのかが悔やまれる。今日ルーシウスに教えてもらったら、帰ってからもう一度アミラに確認してみよう。向学心旺盛なサウラである。
馬車の中でソワソワしたサウラを見つめて半刻程。
大通り正面に広場のような開けた場所に出た。
広く円を書いたような作りになっている一画に馬車が停まる。
どうやら着いたようだ。馬に乗り後から着いて来ていた騎士たちが下馬する。その馬を待機していた侍従に預け、馬車の前後に立つ。
「到着したようだ。ここからは歩くが大丈夫だな?」
確認のためサウラを見るも杞憂に終わる。サウラは素早く肯き返し、行く気満々である。
山育ちであった。歩くのは何ら問題はあるまい。
十分に見せてやれそうだ。
馬車が停まった広場の様な場所の中央には噴水がある。今来た道も広場の様なこの場所も、同じ様な馬車が何台も行き来している。
鍛錬場の様に円形の広場には数カ所道が岐れており、レンガの様な石が、綺麗に敷き詰められて続いている。
乾いた空気には、花の様な、甘い様な何処からか美味しそうな匂いまで漂っていた。
朝食が軽めだったのもあり、何となくこの匂いの元を辿りたくなるサウラであった。
「では、行こうか?」
自然と手を差し伸べるルーシウス。
ん?手を繋ぐの?サウラは首を傾げる。
「これからは人出が多くなる。町には慣れていないだろう?迷子になったら困るからな?」
実際には護衛が4人もいるのである。全力疾走で逃げたりしない限り、きっと迷子にはならないだろう。
周りの護衛は無言のままだ。
ん、と迷いもなく手を差し出されれば、初めてこの様なところに行く時の作法なのかと思わざるを得ない。
そう言えば先程はエスコートとして、手を貸してくれたのだった。
子供では無いんだけどな、と思いつつも、作法ならば仕方ないか。
うん、と肯き手を握る。
ルーシウスとは毎朝顔を合わせているが、しっかりと触れるのは初めてだ。回復魔法は触れなくても出来るものだし。
村の友達とは小さい頃からの付き合いだから、男の子達とも手を繋いだ事はあるし、寧ろ取っ組み合いの体術訓練までしている。
が、知り合いですらなかった人と手を繋ぐのは初めてだ。けれど、繋いでみたら皆んなと同じように温かい。
一瞬は躊躇したけれど、やはり手を繋ぐのは良いかもしれない、知らない所では落ち着くのだ。
今回はきっと作法に間違えは無かったはずだ。
ひどく嬉しそうなルーシウスに連れられて、サウラはそう確信する。
2人は手を繋いだまま、噴水右手の道に入って行く。
後ろの護衛さん達までにこやかなのは何故だろう?
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