[完結]その手中に収めるものは

小葉石

文字の大きさ
25 / 143

25 城下町2

しおりを挟む

 サウラの故郷の話を聞きながら、馬車は城門を出て、城下町に入っていく。大通りを通り行きながら、王城からは屋根しか伺えなかった町並みをゆっくりと見物する。

 まだ少し早い時間だからか、道行く人は多くはない。それでも、商店を開ける準備をする者、店の前を掃き掃除したり、家の外の花に水を撒いたり、馬車で荷物を運び入れていたり、大きな門構えのある邸宅の前では門番が交代をしていたり、家の屋根から煙が上がっているのは朝食の準備のためだろうか、目に入る物全てがサウラにとっては初めてなのだ。

 木造りの村とは違う建物も、遠くからではおもちゃのように見えた。木ではなく、石のような素材の壁は、薄めの色で塗られていて町並みが明るく見える。

 大通りから時折細い道が左右に分かれ、細い道の方には布を張った屋根の店が立ち並ぶのも見て取れた。

 あそこは屋台と言って、食べ物や飲み物を売っている、とルーシウスが教えてくれる。

 サウラはしまった、という顔をする。

「売っている物は何と交換ですか?今日は私は身につけているものしか持ってきてませんが、これも私のものではありませんし。交換できませんよ?」

 自分の物ではない物を得るためには、何かと交換しなくてはならない。労働であったり、自分が作ってきた物であったり。残念な事に今日は何も持って来てはいない。

 働いて返すと言っても、王室から借り受けている綺麗な服では汚す事が心配で仕事もままならないに違いない。

 お店の中に入ったり、先程の屋台と言う物もちゃんと見てみたいが、何も得られずに今日は見るだけで終わってしまいそうである。


 なんと、物々交換とは、少し目を見開くルーシウスである。

「いや、物を買う時には貨幣を用いる。これを持っていれば店が指定した料金で物を得られる。」

 ルーシウスは腰につけた皮袋から硬貨を数枚出してサウラに見せる。

 丸く光る物を見て、サウラは思い出した事がある。共通語を学んでいた時、そう言えば両親が話していた。
 "お金"で物と交換できると。しかし、村にはお金なんてない。昔見せてもらった事がある様に思うが、全く使った事もない物だからすっかり忘れていたのだ。

「両親から聞いた事がありますが、初めて見ました。」

 マジマジと硬貨を見つめるサウラに、では後で沢山買い物をしてみよう、とルーシウスが魅力的な誘いを持ちかける。

 村とは違う所で生活するのだ。お金の事も勉強しなくてはいけない。
 1人で物も買えないなんて自立した大人ではないもの。

 なんで出かける前に勉強してこなかったのかが悔やまれる。今日ルーシウスに教えてもらったら、帰ってからもう一度アミラに確認してみよう。向学心旺盛なサウラである。

 馬車の中でソワソワしたサウラを見つめて半刻程。
 大通り正面に広場のような開けた場所に出た。

 広く円を書いたような作りになっている一画に馬車が停まる。

 どうやら着いたようだ。馬に乗り後から着いて来ていた騎士たちが下馬する。その馬を待機していた侍従に預け、馬車の前後に立つ。

「到着したようだ。ここからは歩くが大丈夫だな?」

 確認のためサウラを見るも杞憂に終わる。サウラは素早く肯き返し、行く気満々である。

 山育ちであった。歩くのは何ら問題はあるまい。
 十分に見せてやれそうだ。

 馬車が停まった広場の様な場所の中央には噴水がある。今来た道も広場の様なこの場所も、同じ様な馬車が何台も行き来している。

 鍛錬場の様に円形の広場には数カ所道が岐れており、レンガの様な石が、綺麗に敷き詰められて続いている。

 乾いた空気には、花の様な、甘い様な何処からか美味しそうな匂いまで漂っていた。
 朝食が軽めだったのもあり、何となくこの匂いの元を辿りたくなるサウラであった。

「では、行こうか?」

 自然と手を差し伸べるルーシウス。

 ん?手を繋ぐの?サウラは首を傾げる。

「これからは人出が多くなる。町には慣れていないだろう?迷子になったら困るからな?」

 実際には護衛が4人もいるのである。全力疾走で逃げたりしない限り、きっと迷子にはならないだろう。

 周りの護衛は無言のままだ。

 ん、と迷いもなく手を差し出されれば、初めてこの様なところに行く時の作法なのかと思わざるを得ない。

 そう言えば先程はエスコートとして、手を貸してくれたのだった。

 子供では無いんだけどな、と思いつつも、作法ならば仕方ないか。
 うん、と肯き手を握る。

 ルーシウスとは毎朝顔を合わせているが、しっかりと触れるのは初めてだ。回復魔法は触れなくても出来るものだし。
 
 村の友達とは小さい頃からの付き合いだから、男の子達とも手を繋いだ事はあるし、むしろ取っ組み合いの体術訓練までしている。

 が、知り合いですらなかった人と手を繋ぐのは初めてだ。けれど、繋いでみたら皆んなと同じように温かい。
 一瞬は躊躇ちゅうちょしたけれど、やはり手を繋ぐのは良いかもしれない、知らない所では落ち着くのだ。

 今回はきっと作法に間違えは無かったはずだ。

 ひどく嬉しそうなルーシウスに連れられて、サウラはそう確信する。

 2人は手を繋いだまま、噴水右手の道に入って行く。

 後ろの護衛さん達までにこやかなのは何故だろう?







しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

処理中です...