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32 結界の異変
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シエラの急報にて、馬を疾走させ城へと戻るルーシウス達を、シガレット以下、主要な重鎮達が執務室にて迎える。
執務室に入るなり、挨拶もなくルーシウスが切り出す。
「彼方はどうか?」
シエラの知らせは西の結界領からの急使だ。
結界に新たな動きがあったと見える。
以前より、決壊が危ぶまれていたほど弱体化していた結界だ。何が起こってもおかしくは無い。
「結界の一部に亀裂らしいものが伺えます。結界石はまだ魔力を出す余力は有りそうですが、もう待ちますまい。」
ルーシウスにそう進言したのは西の結界領タンチラード辺境伯が4女、カリナ・レン・タンチラードだ。
「カリナ嬢?久しいな。其方自ら伝令に?」
声のする方を見ると、懐かしい顔を見る。
カリナは長身で手、足が長くスタイルも良い。赤い髪に、日に焼けた褐色の肌が特徴な西部の民で、タンチラード伯家の4女にあたる。
西部の民は好戦的な民族の血筋を引いており、それを誇りとしている。婦女子の嗜みの一つに剣技がある程で、辺境伯家の騎士団の中にも女子が多い。
男女の差別なく実力が全ての風土である。次代のタンチラード伯も長男を差し置いて、剣豪である長女のシャーリン・レン・タンチラードが継ぐ事と決まっている。
「まずは陛下。お元気そうで何よりです。今は、父は勿論、兄も姉も動けませぬ。馬を駆るには機動力のある私がよかろうと姉より仰せつかりました。」
カリナは背中ほどの赤髪を後ろで一つに束ね、マントにブーツ、腰には剣1本。馬が全力疾走しても数日は掛かるであろう距離をこの軽装のみで駆ってきたようだ。
他に共は2名のみ、途中馬を替え、ほぼ無休状態で走り切ってきたという。驚くべき体力の持ち主である。
「今はまだ、結界亀裂の部分は一部です故、父と姉で抑えられましょう。けれども時間の問題かと。」
数ヶ月より前から、結界境界ギリギリの所で陣を張り、魔物の侵入を防いでいるのは、現タンチラード辺境伯と、長女シャーリンの率いる兵だ。結界に沿って広く陣を取り魔物の侵入を食い留めている為、自らは動けないでいる。
「そうそう、ゆっくりと遊んでもおられんか。」
自嘲気味にフッと笑うと、ルーシウスは席に着いた。
明朝昼過ぎ、西部タンチラード辺境伯領に、出発する旨が関係各所に通達される。
遠征に向かうものとしては、ルーシウスを筆頭にダッフル率いる近衛騎士1団体、サウラに護衛暗部、医療班数名、カリナと西部の兵2名となる。
国内の移動の為、兵の人数は多くは無い。最小限の備えだけのみで時間の短縮を図りたいのだ。
城を空にする訳には行かず、シエラ、アラファルト、他大臣は残る事になる。
サウラは、魔力を最大限に使うであろうルーシウスの回復担当として付いて行く事になる。
勿論ルーシウスはサウラを連れて行く事に不安はあった。遠征も初めてだろうし、西部も初めてだろう。
旅慣れた者たちの中では気遅れしてしまわないか。どうしても男所帯になってしまう為、不便をかけるだろう。
自分の意志でこの職に当たっているものとは違い、サウラにはほぼ選択肢の余地ないものを押しつけてしまう事になる。どうしても余計な所で負担はかけたくないと思ってしまうのだ。
「陛下。姫君のお供でしたら私めがいたしましょう。この隊で婦女子は私のみでしょうから。」
サウラの扱いをどうするか、難しい顔で思案中のルーシウスに、カリナが声を掛ける。
「こちらのタンチラード領東境界まで、我領の騎士団を待機させております。その中にも女子が居ります故、ご不便は暫しの間かと。」
「そうか、タンチラード騎士団は文武に富む女傑揃いであったな。」
パッと表情を明るくさせた王に、カリナはしっかりと肯いてみせる。
タンチラードでは騎士団の審査が厳しく、入団時には剣技のみでは無く、王宮での礼儀作法は勿論の事、遠征での野営に於いては狩りから、炊事全般、生き残るためのサバイバル術まで、一人一人に叩き込まれるのだ。
その為、機動力に富む兵士を多く抱える事ができるのである。
「では、後程、サウラと合わせよう。詳細はシエラの方から伝えてもらえるか?」
本当は自分が行きたいルーシウスだが、少なくとも数日間は城を離れる事になる為、明日までに片付けておきたい仕事が山のようにある。
それ以外の事は周りの者に振り分けるしか無いのだ。
シエラは了解、と瞬時に、転移魔法で消えて行く。
サウラと街で別れた後、無事に帰城したとの報告を、ルーシウスは先ほど受けた。
初めての外出がこの様な形で終わってしまって、申し訳なくも思う。
そして、将来の伴侶などと、自分の中ではもう決まってしまっていた事だが、サウラにとっては寝耳に水であったに違いない。
言うべきか、言わざるべきか、少しは悩みはしたが、心残りは無いだろう。
答えを聞けなかった事は非常に残念ではあるが、それが却って自分の糧となってくれそうだ。
細々とした指示を出し、確認を取る作業を続ける中でルーシウスはサウラに想いを馳せる。
次があれば、どれだけ良いか…
西の結界補強が、自分にどう転ぶのか、ルーシウス自身にも明確に把握できて居るわけではなかったのだ。
執務室に入るなり、挨拶もなくルーシウスが切り出す。
「彼方はどうか?」
シエラの知らせは西の結界領からの急使だ。
結界に新たな動きがあったと見える。
以前より、決壊が危ぶまれていたほど弱体化していた結界だ。何が起こってもおかしくは無い。
「結界の一部に亀裂らしいものが伺えます。結界石はまだ魔力を出す余力は有りそうですが、もう待ちますまい。」
ルーシウスにそう進言したのは西の結界領タンチラード辺境伯が4女、カリナ・レン・タンチラードだ。
「カリナ嬢?久しいな。其方自ら伝令に?」
声のする方を見ると、懐かしい顔を見る。
カリナは長身で手、足が長くスタイルも良い。赤い髪に、日に焼けた褐色の肌が特徴な西部の民で、タンチラード伯家の4女にあたる。
西部の民は好戦的な民族の血筋を引いており、それを誇りとしている。婦女子の嗜みの一つに剣技がある程で、辺境伯家の騎士団の中にも女子が多い。
男女の差別なく実力が全ての風土である。次代のタンチラード伯も長男を差し置いて、剣豪である長女のシャーリン・レン・タンチラードが継ぐ事と決まっている。
「まずは陛下。お元気そうで何よりです。今は、父は勿論、兄も姉も動けませぬ。馬を駆るには機動力のある私がよかろうと姉より仰せつかりました。」
カリナは背中ほどの赤髪を後ろで一つに束ね、マントにブーツ、腰には剣1本。馬が全力疾走しても数日は掛かるであろう距離をこの軽装のみで駆ってきたようだ。
他に共は2名のみ、途中馬を替え、ほぼ無休状態で走り切ってきたという。驚くべき体力の持ち主である。
「今はまだ、結界亀裂の部分は一部です故、父と姉で抑えられましょう。けれども時間の問題かと。」
数ヶ月より前から、結界境界ギリギリの所で陣を張り、魔物の侵入を防いでいるのは、現タンチラード辺境伯と、長女シャーリンの率いる兵だ。結界に沿って広く陣を取り魔物の侵入を食い留めている為、自らは動けないでいる。
「そうそう、ゆっくりと遊んでもおられんか。」
自嘲気味にフッと笑うと、ルーシウスは席に着いた。
明朝昼過ぎ、西部タンチラード辺境伯領に、出発する旨が関係各所に通達される。
遠征に向かうものとしては、ルーシウスを筆頭にダッフル率いる近衛騎士1団体、サウラに護衛暗部、医療班数名、カリナと西部の兵2名となる。
国内の移動の為、兵の人数は多くは無い。最小限の備えだけのみで時間の短縮を図りたいのだ。
城を空にする訳には行かず、シエラ、アラファルト、他大臣は残る事になる。
サウラは、魔力を最大限に使うであろうルーシウスの回復担当として付いて行く事になる。
勿論ルーシウスはサウラを連れて行く事に不安はあった。遠征も初めてだろうし、西部も初めてだろう。
旅慣れた者たちの中では気遅れしてしまわないか。どうしても男所帯になってしまう為、不便をかけるだろう。
自分の意志でこの職に当たっているものとは違い、サウラにはほぼ選択肢の余地ないものを押しつけてしまう事になる。どうしても余計な所で負担はかけたくないと思ってしまうのだ。
「陛下。姫君のお供でしたら私めがいたしましょう。この隊で婦女子は私のみでしょうから。」
サウラの扱いをどうするか、難しい顔で思案中のルーシウスに、カリナが声を掛ける。
「こちらのタンチラード領東境界まで、我領の騎士団を待機させております。その中にも女子が居ります故、ご不便は暫しの間かと。」
「そうか、タンチラード騎士団は文武に富む女傑揃いであったな。」
パッと表情を明るくさせた王に、カリナはしっかりと肯いてみせる。
タンチラードでは騎士団の審査が厳しく、入団時には剣技のみでは無く、王宮での礼儀作法は勿論の事、遠征での野営に於いては狩りから、炊事全般、生き残るためのサバイバル術まで、一人一人に叩き込まれるのだ。
その為、機動力に富む兵士を多く抱える事ができるのである。
「では、後程、サウラと合わせよう。詳細はシエラの方から伝えてもらえるか?」
本当は自分が行きたいルーシウスだが、少なくとも数日間は城を離れる事になる為、明日までに片付けておきたい仕事が山のようにある。
それ以外の事は周りの者に振り分けるしか無いのだ。
シエラは了解、と瞬時に、転移魔法で消えて行く。
サウラと街で別れた後、無事に帰城したとの報告を、ルーシウスは先ほど受けた。
初めての外出がこの様な形で終わってしまって、申し訳なくも思う。
そして、将来の伴侶などと、自分の中ではもう決まってしまっていた事だが、サウラにとっては寝耳に水であったに違いない。
言うべきか、言わざるべきか、少しは悩みはしたが、心残りは無いだろう。
答えを聞けなかった事は非常に残念ではあるが、それが却って自分の糧となってくれそうだ。
細々とした指示を出し、確認を取る作業を続ける中でルーシウスはサウラに想いを馳せる。
次があれば、どれだけ良いか…
西の結界補強が、自分にどう転ぶのか、ルーシウス自身にも明確に把握できて居るわけではなかったのだ。
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