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89 会議
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「これは、少々行けませんな。」
東結界領よりの書簡を読み、ダッフルが唸る。
「やはり、そう思うか?」
近衞騎士団詰所会議室にはこの度の主要メンバーが集まり今後失踪事件に対する策を練っている所であるが、先日アラファルトが実家である東結界領へ失踪事件に対する見解を求めた所、新たな被害者が出ている事実が判明した。
「ドーラン伯お手元の騎士数名も日を別にして失踪していると書かれておりますゆえ、相手はただの誘拐犯ではありますまい。」
ダッフルの弁も肯けるのだ。結界領を守る騎士団所属の者が易々と数名も姿を消している。大勢で襲われれば分からなくも無いが、その痕跡一つ残っていないのが更に不安を煽る。
騎士をも押さえつけられる腕か動きを封じる手法を持つ者、今まで拐かされた大勢を隠し又は容易く移動させる事ができる者等そうはいまい。
「貴族か、又は何処かに内通者がいるか、彼ら自身も彼奴らの仲間か…」
苦々しくダッフルが呟けば、
「騎士をも優に拐かされているのだ。貴族以上の者の関与は否定できん…もしその騎士が我が領の内通者だとしたら、切り刻んでくれる、恥晒しが…」
ギリ、と歯を鳴らすアラファルト。
「各国へは内定の囮りが入る事は伝えていないな?」
「はい。個人の旅行の一時禁止と商人に護衛騎士を付けるとだけ提示しました。」
書簡係が各国への速やかな伝達の為会議に出席している。
「ではこの案件は諸外国には内密に、出来れば国内の貴族にもだ。陛下へ上申もしよう。護衛を厚くせねば此方の被害も大きくなる。」
今回は囮りに女性が入るのだ。被害は出来るだけ出したくは無い。
「アラファルト様、我らタンチラードの民は女であろうとも剣士であり、命を賭ける騎士であります。この策が有要ならば二の足を踏むべきではありません。皆様と同じ様に命を賭けるべき時には恐れは致しません。ここで留まれば更に被害が大きくなりましょう。」
末席にて会議に参加していたカリナ以下数名が騎士の礼を取る。
「カリナ殿感謝する。暗部の護衛を付ける予定ではあったが…敵の姿が見えぬからと確かに二の足を踏む所であったな。」
アラファルトの表情は険しいままだが、意を決した様だ。
「陛下に会おう。準備ができ次第東へ順次向かってもらう。暗部の者にも通達を。」
「はっ」
「申し上げます。お寛ぎのところ申し訳ありません。近衞騎士団総司令官アラファルト・ドーラン様がいらっしゃっております。急ぎご報告があると。」
昼食後侍女が入れてくれた魔草茶を堪能していると、アラファルトの来室を侍女が告げる。侍女長にも何用か言伝があった様で先程アミラも部屋の外に一度退出していたのだ。
「執務室で待たせておく様に。そちらに行こう。」
「その様にお伝えいたします。」
王の言を伝えに侍女は退室する。ここはサウラの部屋の為、ここで話し込むのは良しとしない。
「この分だと暗部にも召集がかかってますね?」
すっかりと暗部としての動きが身についてきているサウラである。
「まだ、帰ってきたばかりでは無いか…」
酷く寂しそうな顔をするルーシウスからは、先程まで魔草茶を飲み楽しそうに感想を語っていた姿が掻き消えてしまったようだ。
「私も一員なので用意をします。」
然も当たり前のようにスクッと立ち上がるサウラの手をルーシウスが取る。
今回は隠密の諜報では無い。場合によってはサウラ自身が標的となる事もあるし、矢面に立たなくては行けなくなる。
どうやらシエラの前では我儘など嫌だなどとの態度を取ったものだが、ルーシウスの心は最早我儘一杯のようだ。
「此度の事もサウラのやりたい事の内に入るのか?」
深いエメラルドグリーンの瞳はサウラの黒瞳をしっかりと掴む。
サウラが見たかったと望んだ瞳だ。今は生きる喜びに輝くよりも、寂しそうな他の感情で揺れている。こんな瞳の色は何故か心が締め付けられる。
「ルーシウス様私は行かない方がいいんですか?」
一人だけ別行動と言うのも無理がある体制なのだが、ルーシウスにこんな顔をしてもらいたくは無い、次の任務がゴアラと関係ないのなら…握られた手を少し握り返す。
「当初から言ってはいるが、其方の思う通りにして欲しい…だが寂しいものだな…」
ストレートな言葉というものは時に心を貫いてしまう。貫かれた心からはポロリと思いも溢れ出る。
「私も、寂しいです…」
言った後にルーシウスの顔を見てサウラも驚く。ルーシウスの目が驚き開いている。
おかしい事を言ったのだろうか?サウラもそう感じたから言ったまでなのだが…子供のように甘えた事を言う事の抵抗はあった。けどいつも自分を認めてくれて、必要としてくれるルーシウスから聞かされる言葉は照れ臭くも嬉しいものだった。つい、自分も言っても良いものだと勘違いしてしまったのかも…
サウラの不安を他所に、驚き開いたルーシウスの目が満面の笑みに変わる。
「サウラの心の声が聞けるとは、これ程までに嬉しい事なのだな。」
繋がれた手に力が篭る。考える間も無く体が傾いた。
東結界領よりの書簡を読み、ダッフルが唸る。
「やはり、そう思うか?」
近衞騎士団詰所会議室にはこの度の主要メンバーが集まり今後失踪事件に対する策を練っている所であるが、先日アラファルトが実家である東結界領へ失踪事件に対する見解を求めた所、新たな被害者が出ている事実が判明した。
「ドーラン伯お手元の騎士数名も日を別にして失踪していると書かれておりますゆえ、相手はただの誘拐犯ではありますまい。」
ダッフルの弁も肯けるのだ。結界領を守る騎士団所属の者が易々と数名も姿を消している。大勢で襲われれば分からなくも無いが、その痕跡一つ残っていないのが更に不安を煽る。
騎士をも押さえつけられる腕か動きを封じる手法を持つ者、今まで拐かされた大勢を隠し又は容易く移動させる事ができる者等そうはいまい。
「貴族か、又は何処かに内通者がいるか、彼ら自身も彼奴らの仲間か…」
苦々しくダッフルが呟けば、
「騎士をも優に拐かされているのだ。貴族以上の者の関与は否定できん…もしその騎士が我が領の内通者だとしたら、切り刻んでくれる、恥晒しが…」
ギリ、と歯を鳴らすアラファルト。
「各国へは内定の囮りが入る事は伝えていないな?」
「はい。個人の旅行の一時禁止と商人に護衛騎士を付けるとだけ提示しました。」
書簡係が各国への速やかな伝達の為会議に出席している。
「ではこの案件は諸外国には内密に、出来れば国内の貴族にもだ。陛下へ上申もしよう。護衛を厚くせねば此方の被害も大きくなる。」
今回は囮りに女性が入るのだ。被害は出来るだけ出したくは無い。
「アラファルト様、我らタンチラードの民は女であろうとも剣士であり、命を賭ける騎士であります。この策が有要ならば二の足を踏むべきではありません。皆様と同じ様に命を賭けるべき時には恐れは致しません。ここで留まれば更に被害が大きくなりましょう。」
末席にて会議に参加していたカリナ以下数名が騎士の礼を取る。
「カリナ殿感謝する。暗部の護衛を付ける予定ではあったが…敵の姿が見えぬからと確かに二の足を踏む所であったな。」
アラファルトの表情は険しいままだが、意を決した様だ。
「陛下に会おう。準備ができ次第東へ順次向かってもらう。暗部の者にも通達を。」
「はっ」
「申し上げます。お寛ぎのところ申し訳ありません。近衞騎士団総司令官アラファルト・ドーラン様がいらっしゃっております。急ぎご報告があると。」
昼食後侍女が入れてくれた魔草茶を堪能していると、アラファルトの来室を侍女が告げる。侍女長にも何用か言伝があった様で先程アミラも部屋の外に一度退出していたのだ。
「執務室で待たせておく様に。そちらに行こう。」
「その様にお伝えいたします。」
王の言を伝えに侍女は退室する。ここはサウラの部屋の為、ここで話し込むのは良しとしない。
「この分だと暗部にも召集がかかってますね?」
すっかりと暗部としての動きが身についてきているサウラである。
「まだ、帰ってきたばかりでは無いか…」
酷く寂しそうな顔をするルーシウスからは、先程まで魔草茶を飲み楽しそうに感想を語っていた姿が掻き消えてしまったようだ。
「私も一員なので用意をします。」
然も当たり前のようにスクッと立ち上がるサウラの手をルーシウスが取る。
今回は隠密の諜報では無い。場合によってはサウラ自身が標的となる事もあるし、矢面に立たなくては行けなくなる。
どうやらシエラの前では我儘など嫌だなどとの態度を取ったものだが、ルーシウスの心は最早我儘一杯のようだ。
「此度の事もサウラのやりたい事の内に入るのか?」
深いエメラルドグリーンの瞳はサウラの黒瞳をしっかりと掴む。
サウラが見たかったと望んだ瞳だ。今は生きる喜びに輝くよりも、寂しそうな他の感情で揺れている。こんな瞳の色は何故か心が締め付けられる。
「ルーシウス様私は行かない方がいいんですか?」
一人だけ別行動と言うのも無理がある体制なのだが、ルーシウスにこんな顔をしてもらいたくは無い、次の任務がゴアラと関係ないのなら…握られた手を少し握り返す。
「当初から言ってはいるが、其方の思う通りにして欲しい…だが寂しいものだな…」
ストレートな言葉というものは時に心を貫いてしまう。貫かれた心からはポロリと思いも溢れ出る。
「私も、寂しいです…」
言った後にルーシウスの顔を見てサウラも驚く。ルーシウスの目が驚き開いている。
おかしい事を言ったのだろうか?サウラもそう感じたから言ったまでなのだが…子供のように甘えた事を言う事の抵抗はあった。けどいつも自分を認めてくれて、必要としてくれるルーシウスから聞かされる言葉は照れ臭くも嬉しいものだった。つい、自分も言っても良いものだと勘違いしてしまったのかも…
サウラの不安を他所に、驚き開いたルーシウスの目が満面の笑みに変わる。
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