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前編

23ソルダム伯爵領奪還

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 ソルダム伯爵邸、そしてクトルド国軍からの解答は、大きな盗賊団討伐の為にソルダム領騎士団とクトルド国軍両軍協力の元待機状態であったと言うのだ。

「ルワン様…これは、はめられましたね……」

 盗賊討伐という理由からクトルド国軍がソルダム伯爵領に協力軍として宿営しているのであれば、ガーナード国軍はクトルド国軍を撃つ名分は無くなる事になる…

「何が目的か……?」

 クトルド国側からの書簡は本物で国王直筆の署名入りだった。それなのに、現状は違うという。

「はっ…陛下におかれましてはソルダム領にまで御足労頂き、恐悦至極と。是非にソルダム領邸にお越しくださり、討伐作戦をご説明申し上げたいとの事でした。」

 ソルダム領主邸より戻った伝令の者が伝言を王に伝える。

「……是非に、と…?」 

 伝令の者の言葉が国王ルワンにはどう聞こえたであろうか?

「その様です。ルワン様…ここは一つ、ご招待に応じますか?必要な手筈は取れる様に遣いも出しましたので。」

 騎士ラートはどうやらの意見で訪問に賛成する様にとの姿勢だ。

「その際には、ここにいる者を一気に片付ける事もできますでしょう…」

 ガーナード国内にいるクトルド国軍は中隊クラス…対してガーナード国軍はその倍の大隊だ。何かあればクトルド国軍を完全に押さえ込める。ここでガーナード国軍が踵を返して帰城した後にクトルド国からの書状の内容通りに、クトルド国軍にソルダム伯爵領に攻め入られたらたまったものではない。早急にどちらの言い分が正しいのか見定めなくては次の手も考えられないだろう。

「……陛下…もう一つだけ、御心にお止め下さい。この周囲に住む者達から、ここ数年は近隣住人が犠牲となる様な盗賊騒ぎは出ていないそうで……」

 最後に帰って来た近隣の住民に紛れ込んでいた者達からの報告だ。

「…馬鹿な!?」

 数年間の内に何件かの盗賊騒ぎはこの地域からの報告だ。いずれも大事にはならずに私兵の活躍によって押さえ込まれていると言うものだったはず……

「いいえ、両国を跨いで商売をしている商人達からの情報です。それも一人ではありません…」

 はぁぁぁ…隣で聞いていた騎士ラートが大きなため息を吐いた後、低い声で側にいる騎士達に何かを言付ける。

「…数年も前から仕込まれていた茶番が観れるというわけですか?どうされます?」

 どうするも何も……このまま引いてソルダム伯爵領を犠牲にするか、みすみす張られた網に掛かりに行くか……

「この中に、遺言を書いて来た者はいるか?」

 いきなりの国王のこの言葉に誰も返事をする者はもちろん居ない。

「ならば、生きて帰るぞ!ラート、参る…!」

 国王ルワンの一言で、ガーナード国軍の行くべき場所が決まった…
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