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後編

69 聖女の行方

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「あなた方を行儀見習いの為にハンガ国へとご招待します……?」

 一通の畏まった手紙はからの聖女に対する招待状。ガーナード王家…反乱が起こったと貴族達に聞こえて来た時には何事もなかった様に城の中は静かだったと言う。ただ、そこに住む者が替わっただけだ、と誰かが面白おかしく話していた…戦乱の足音が聞こえていたガーナードだった為煌びやかな舞踏会はこの最近開かれてはいない。だから政治のあれこれが聖女たる淑女達には入って来なかった。
 聖女である王妃フィスティアも病床に臥せっているとの噂だけで城の中で静かにお暮らしになっているものとばかり皆は思っていたと言うのに…

「行儀見習いとはどういうことです?我が国の聖女はそれは厳しく礼儀作法を叩き込まれますのに…」

 いつ、自分が他国へと嫁がされるか分からない彼女達は自国のものから周辺諸国の礼儀についても見識が深い。なのに、今更ハンガで何を学べと?と言うのが正直な彼女達聖女の言い分で…この疑問を解決したいのだが、反乱後は許可された者しか城への登城が許されず、聖女の頭ともなる王妃フィスティアに事の真相を聞きたくても謁見すら叶わない日々が続いている。

「こちらに居られるどなたか、最近、王妃様のお顔を拝しまして?」

 ここはある屋敷の温室で、現在数名の聖女が集まっており王家からの書状について声を顰めて囁き交わしている。

 反乱が起こる前まで確かに王妃フィスティアは健在だった。今まで病気らしい病気になった事もないと聞いた事がある人がいる位に王妃フィスティアは健康そうだった…なのに、戦禍の色濃くなったと思ったある日を境にパッタリと姿を見かけなくなったという。病床に着いているのだから自室に居るのだろうが、どんな状態か、その病状の噂ですら流されては来ない事に貴族の中にも疑問を感じる者が出て来ていた。

 そんな折にハンガ国での行儀見習いとは?

「いいえ、王妃様のお噂はちっとも入って来ませんわ。幾らかでも漏れでてもいいでしょうに…?」

 人の口に戸は立てられぬと言うが、いくら箝口令を強いたとしても噂話くらいは流れてくるものなのだ。それなのにそこにかの如く、何も聞こえてこない……

「おかしい事でございましょ?王妃様へのお見舞いも謁見も、まして今ガーナードがどうなっているかさえ、私達には知らされないなんて……」

「……これから、どうなるのでしょうか?」

「ハンガには……ハウアラ様が…ハンガ皇太子側妃様が居られますわ……私達がハンガに行く事は受け入れてくださるものと思ってはおりますが………」

 だが、不安は拭えない………















 
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