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後編

71 聖女の行方 3

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「いや、誰の婚約者とも決まってはいないよ?」

 ハウアラ側妃の予想をはずれて、来国しようとしている聖女達は婚約が目的では無いらしい…?では、何故?

「殿下……?それではその聖女達は何をしに?」

「嫌だなぁ、ハウアラ。殿下ではなく名前で呼んでおくれ…?オレオンだよ?君の旦那様は。それに先程も言っただろう?君が寂しく無い様にだよ?」

 それは言われた様な気がする…が、そんな事はあり得ない、と言う思いの方が強くてハウアラ側妃の頭の中に記憶としてさえ残ってはいなかった。

 何故なら聖女は、ガーナード国の宝と言っても過言では無い人々のはず…他国に嫁いだ、貴族の娘の為に?ガーナード国王が聖女をわざわざ寄越す?そんなに問題になる様な事をハウアラ側妃はここハンガでしてしまったのかと一瞬にして顔色が悪くなった…

「おや、ハウアラ…?顔色が悪いね?体調が悪いのかい?ああ!聖女が来るなんて言ったからビックリしたのかな?済まなかったね?ゆっくりと君に話すべきだったんだろうな…」

 ハウアラ側妃の顔色が悪くなったのは皇太子オレオンの所為では無いのだが、何故か皇太子オレオンは一生懸命に謝ってくる。

 こんな所も優しい、と思ってしまうところではあるのだが………

「では、オレオン殿下…その聖女方は物見遊山で私に会いに来られると?」

「そうだね…観光させてもいいかも知れないな…うん。ハンガを知ってもらえれば、住みやすくもなるだろうしね?」

「え?住みやすく?」

 住む?ここに?誰が?

「ん?ここに来る聖女達だよ?」

 ニッコリ、といつもと変わらぬ皇太子オレオンの笑顔…平民がこんな笑顔を向けられたら本気で卒倒してしまうに違いないほど、柔らかく甘く見えるのだが……

「住む…?移住……を、すると言う事ですか?聖女である、貴族の者が?」

 きっとびっくりしすぎて、ハウアラ側妃の瞳はこぼれんばかりに見開かれていた事だろう…
その様を見て皇太子オレオンはクスクスと楽しそうに笑っている。

 移住など、それも貴族の、聖女の移住などガーナードは認めないだろう…なのに何故?

「祖国の、者は何と言っておりますの?ガーナード国王は?」

「さあ…?ね?死人に口なしとはよく言ったものだね?ハウアラ…最早ガーナード国王に許可など取る必要はないんだ。」

 然も、良かったね?と言わんばかりの皇太子オレオンの表情に、目を見開いたハウアラ側妃は寒気さえ感じている。

「わた…私、少し、気分が悪くなってしまって……オレオン殿下…御前を失礼させて頂きとうございます……」

 声が震えない様に必死に押さえて、それだけをやっとの思いでハウアラ側妃は言い切った。

「ああ、ゆっくりとお休み。後でご両親を君の部屋へお連れしよう…!」

 その言葉を最後まで聞くことができずに、ハウアラ側妃は一礼すると足速にその場を去って行った………
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