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聖石を拾ってしまった俺
10、神殿の存在 1
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大昔、全地は魔王によって滅ぼされかけた歴史がある。邪悪な魔王の世に対する嫉妬が引き金とか、歴史の授業で習ったものだ。その魔王の封印には、女神を中心とした勇者一行の活躍があった。全国にある神殿はこの魔王を封じた女神を祀っているものだ。ゆえにこの地の救済者であった女神そのものを表す神殿の最高峰である大神殿に認められる事は、国中からは尊敬の目を向けられて誰彼からも羨まれることとなる。この女神は、光の女神、復活の女神、豊穣と慈愛の女神などとも呼ばれ、長年人々に親しまれてきているのだ。俺達農民にとっても豊穣の女神は大切にされてきたものだ。生きて行く間も、また死んでからも自分達を護り、いつの日か甦りの導き手になってくれると信じられてもいる。
「あ…………」
ふと、気がついてしまった。侯爵がなんでこんなに嬉しそうなのか…
侯爵の奥様は亡くなっているんだ…だから…大神殿の恩恵が多く与えられるという事は…それだけ死者にも恵みが行くと……
「だ、大神官様は、こちらには?」
この領に来て、祈りの一つでも上げてくれるのだろうか?
「ん、いや、お忙しい方だからな…まずは貴族というよりは貧しい者へと手を差し伸べたいと言われるほどの方なのだ…」
だから、祈りを捧げて欲しくても、なかなかここまでは来てくれない、と?
優しい侯爵の笑顔の下には寂しそうな色が見えてしまった。本当の侯爵は亡くなった奥様を心から愛しておられるのではないだろうか?だから、後妻を取らず今まで独り身であった、と……
時々侯爵が一人で館の裏に行くのを見かけることがある。それも両手に抱えられないほどの大きな花束を持って…よほど花が好きなのかと思っていたのだけれども、あれは夫人のお墓参りだったのかもしれない。
国中の人々の熱い信仰の頂点に立つ大神殿の中心人物が自分の妻の為に祈りを捧げてくれたなら、どれだけ心が癒されるだろうか…ちゃんとした親族もまだ伴侶も持たない俺には愛する人を失う喪失感がまだ分からないけれども、亡くなってからもその人一人を愛し続けるなんて、なんて愛情深い方なのかと感動さえ受ける。
「だから、ルアン?」
「はい、何でしょう?」
美味しいお茶を頂きながら、少し感動に打たれて震えた心を落ち着かせよう。
「早く、パパと言っておくれ?」
ブゥゥ…!
ヤバい!やっちゃった………!
突然に侯爵がパパコールをするものだから、すっかり油断していて不意をつかれた。
「御坊ちゃま……」
側に控えていたカーシャの目が久しぶりに、スッと細められる。
こ、怖い…普段無表情でいる事が多いから、たまにされる冷めた様な視線はヒヤッとさせてくれる。
「し、失礼いたしました!」
慌てて俺は居住まいを正して、侯爵に謝罪する。
「ふふ、構わないよ。急いでここまで成長してくれたんだ。少しばかりの粗相には目を瞑ろう。いいね?カーシャ。」
「もちろんでございます。御坊ちゃまの成長ぶりは目を見張るものがございました。もうどこへ出てもどんな方と比べても見劣りもしないでしょう。流石に、女神に愛されし方と畏怖さえ感じるほどでございます。」
「そうなんだよ…だから早く私もパパと呼んでもらいたくて……」
また、それ?そして、カーシャさんは怒ってはいなかった。それにこんなに褒めてもらえて、くすぐったくて居心地が………
「旦那様、お諦めになったらいかがです?」
ルアンの代わりにカーシャがそっと進言してくれる。のだが、
「何を言う!折角こんなに可愛い息子ができたと、あれにも報告するつもりなのだ。なんとしても、父と呼んでもらいたい!」
侯爵の夫人愛は筋金入りだ……けど、いいなぁ、と正直羨ましくなる。
「あの、侯爵様…父、とはまだ素直に呼べませんが、貴方様に心から愛されている奥方様が本当に素敵な方だったんだろうな、と知る事ができて嬉しいです。」
時間が経っても、パパは無理だと思うんだけどね………
「そうだろう!あれは素晴らしい妻だった!子供を残してやれなかった事が唯一の心残りだったのだ。心の優しい女だったからね。きっと私を心配して、今も静かに眠っている所ではないと思ったのだ。」
だから、大神官の祈りで安らいでもらいたい、という事ですね?
「我が領土にも神殿はいくつもあるがね。女神の使徒のその使い走りの様な者達にではなく、女神に直結している様な者に祈って貰いたいのだ。」
侯爵の夫人愛は本物だ。形ではなくて、本物を求めたいと……だからこの領地の神殿はあんなに質素なんだろうか?作り物は要らないから?農民と変わらない様な木造りの建物が神殿になっているくらいだし…
「……我領地に大神殿を移す事はできぬだろうか………?」
ブツブツと侯爵が何やら不穏なことを口走る様になった際に、今日はここまでにしてくださいとカーシャさんから目配せがある。それに素直に従って退室の挨拶をし、俺はその場を後にした。
「あ…………」
ふと、気がついてしまった。侯爵がなんでこんなに嬉しそうなのか…
侯爵の奥様は亡くなっているんだ…だから…大神殿の恩恵が多く与えられるという事は…それだけ死者にも恵みが行くと……
「だ、大神官様は、こちらには?」
この領に来て、祈りの一つでも上げてくれるのだろうか?
「ん、いや、お忙しい方だからな…まずは貴族というよりは貧しい者へと手を差し伸べたいと言われるほどの方なのだ…」
だから、祈りを捧げて欲しくても、なかなかここまでは来てくれない、と?
優しい侯爵の笑顔の下には寂しそうな色が見えてしまった。本当の侯爵は亡くなった奥様を心から愛しておられるのではないだろうか?だから、後妻を取らず今まで独り身であった、と……
時々侯爵が一人で館の裏に行くのを見かけることがある。それも両手に抱えられないほどの大きな花束を持って…よほど花が好きなのかと思っていたのだけれども、あれは夫人のお墓参りだったのかもしれない。
国中の人々の熱い信仰の頂点に立つ大神殿の中心人物が自分の妻の為に祈りを捧げてくれたなら、どれだけ心が癒されるだろうか…ちゃんとした親族もまだ伴侶も持たない俺には愛する人を失う喪失感がまだ分からないけれども、亡くなってからもその人一人を愛し続けるなんて、なんて愛情深い方なのかと感動さえ受ける。
「だから、ルアン?」
「はい、何でしょう?」
美味しいお茶を頂きながら、少し感動に打たれて震えた心を落ち着かせよう。
「早く、パパと言っておくれ?」
ブゥゥ…!
ヤバい!やっちゃった………!
突然に侯爵がパパコールをするものだから、すっかり油断していて不意をつかれた。
「御坊ちゃま……」
側に控えていたカーシャの目が久しぶりに、スッと細められる。
こ、怖い…普段無表情でいる事が多いから、たまにされる冷めた様な視線はヒヤッとさせてくれる。
「し、失礼いたしました!」
慌てて俺は居住まいを正して、侯爵に謝罪する。
「ふふ、構わないよ。急いでここまで成長してくれたんだ。少しばかりの粗相には目を瞑ろう。いいね?カーシャ。」
「もちろんでございます。御坊ちゃまの成長ぶりは目を見張るものがございました。もうどこへ出てもどんな方と比べても見劣りもしないでしょう。流石に、女神に愛されし方と畏怖さえ感じるほどでございます。」
「そうなんだよ…だから早く私もパパと呼んでもらいたくて……」
また、それ?そして、カーシャさんは怒ってはいなかった。それにこんなに褒めてもらえて、くすぐったくて居心地が………
「旦那様、お諦めになったらいかがです?」
ルアンの代わりにカーシャがそっと進言してくれる。のだが、
「何を言う!折角こんなに可愛い息子ができたと、あれにも報告するつもりなのだ。なんとしても、父と呼んでもらいたい!」
侯爵の夫人愛は筋金入りだ……けど、いいなぁ、と正直羨ましくなる。
「あの、侯爵様…父、とはまだ素直に呼べませんが、貴方様に心から愛されている奥方様が本当に素敵な方だったんだろうな、と知る事ができて嬉しいです。」
時間が経っても、パパは無理だと思うんだけどね………
「そうだろう!あれは素晴らしい妻だった!子供を残してやれなかった事が唯一の心残りだったのだ。心の優しい女だったからね。きっと私を心配して、今も静かに眠っている所ではないと思ったのだ。」
だから、大神官の祈りで安らいでもらいたい、という事ですね?
「我が領土にも神殿はいくつもあるがね。女神の使徒のその使い走りの様な者達にではなく、女神に直結している様な者に祈って貰いたいのだ。」
侯爵の夫人愛は本物だ。形ではなくて、本物を求めたいと……だからこの領地の神殿はあんなに質素なんだろうか?作り物は要らないから?農民と変わらない様な木造りの建物が神殿になっているくらいだし…
「……我領地に大神殿を移す事はできぬだろうか………?」
ブツブツと侯爵が何やら不穏なことを口走る様になった際に、今日はここまでにしてくださいとカーシャさんから目配せがある。それに素直に従って退室の挨拶をし、俺はその場を後にした。
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