実は私の方が悪女では?ならこのままでいいのですが、なぜか美貌の伯爵様が迫ってきます。

小葉石

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「あら侍女長?」

「早く、衣類をお直しなさい!キャデーリ・スワント!」

 主人である令嬢の前というのに容赦のない雷が落ちる。

「も、申し訳ありません!!侍女長様!」

 キャデーリ・スワントと呼ばれた若い侍女は、バッと捲り上げていたお仕着せを下ろすと居住まいを正して侍女長に深く頭を下げる。

「私に謝るのではないでしょう!貴方は子爵家の人間であるのに、自分が仕える主人の前でなんてはしたない姿をするのです!恥を知りなさい!」

 侍女長はブルブルと震えながら声を押し殺して叱責する。

「も、申し訳ありませんでした!」

「この事は旦那様にもご報告しますからね!貴方はもう下がりなさい。」

「え、行ってしまうの?」

「お嬢様…あの様な品の無いお遊びはなりません!」

…あら、バレちゃってるわね?…

 はぁぁぁと盛大にため息をつきながら侍女長は気を取り直して本来の訪室目的を伝え始めた。

「よろしいですか、セフェーリアお嬢様。貴方様はこのフリンジ公爵家ただお一人のご息女です。本来ならば婿様をお迎えしまして公爵家を盛り立てていかなければなりません。けれどもこの度、先方からのたび重なるお申出によって旦那様が了承されましたご婚約者がおられるのです。ですから慎み深く過ごされませ…!」

 そして一息つきながら先を続ける。

「今日はそのご婚約者、ハミナール伯爵家から使いの者がいらしています。」

「…会いたく無いわ。」

 誰が来ているか確認も取らずに大聖女レシェルランは面会拒否を即答する。

「お、お嬢様…!」

 周囲の侍女がオロオロし出す。

「だって私が望んだことではないもの。」

 貴族の婚姻ならばこんなものだろうが、大聖女レシェルランはそんな一人に縛りつけられるなんて真っ平ごめんなのだ。

「それに考えてもごらんなさい?我が家は公爵家彼方は伯爵家。彼方に合わせてあげる必要がどこにあるの?」

「お、お嬢様……!」

 折角檻の外に出られたというのに…外を謳歌し、好きなことをして、恋愛でもなんでも好きな様に経験したい。だって、勿体無いじゃない?こんなに顔も身体も美しく生まれて、それがたった一人のためだけにあるのなんて…宝の持ち腐れというものだわ。
 だから大聖女レシェルランは婚約者など必要ないと思っている。この判断は公爵令嬢セフェーリアにとっての今後を決めてしまう事になるのだろうが、元々評判が良くない令嬢なのだ。真っ当な結婚など望めないだろう。だから好きにさせてもらう。きっと彼女セフェーリア嬢だってあれこれと文句をつけるのだろうし。

「な、なりませんわ…お嬢様…!それだけは!」

 なのに急に落ち着きがなくなった侍女長の様子が理解できない。











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