実は私の方が悪女では?ならこのままでいいのですが、なぜか美貌の伯爵様が迫ってきます。

小葉石

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「何かありましたの!?」

 只事ではない様相で帰ってきた大聖女レシェルランの姿は尋常ではなかった。部屋に入るなりうずくまってしまった大聖女レシェルランを部屋付きの侍女達が取り囲み、事情を聞こうとする。

「貴方達!!」

「は、はい!!」

 急に大きな声で呼びかけられて、侍女達はピンと居住まいを正す。

「私は誰?誰に見えて?」

 なんとも頓珍漢な質問ではある。

「お、お嬢様!?」

「私の名前を言って!?」

「は、はい!お嬢様はフリンジ公爵家令嬢セフェーリア・フリンジ様です!」

…ほら、大丈夫…下々のものにはちゃんとセフェーリアに見えている…
 
 ではなぜ?ハミナール伯爵にだけ大聖女レシェルランに見えた?

「…神殿に…聖女殿に、行かなければ…!」

 もし何らかの条件の元、本性を見破れる者とそうでない者がいるとしたら、今頃聖女神殿にいるはずのセフェーリアの正体を見破っている者がいるかもしれないという事だ。

「え…今からですの?」

「今はハミナール伯爵様がいらしているのでは?」

「それよりも身だしなみを整えましょう?お嬢様…」

 突然の大聖女レシェルランの申し付けに侍女達はワタワタ、オロオロと落ち着かない。


 もし………聖女殿にいる者が大聖女レシェルランではないと既に気がついた者がいるとしたら…きっと今頃裏では大々的な捜索が行われているはずだ。それでも沈黙の行の内は接する者達が極端に狭められる為にそうそう人目にはつかないはずなのだが…ハミナール伯爵がを知っていると言う事は、の正体をどうやってか知ることができたと言う事……
 もしかしたら…ハミナール伯爵は大聖女を連れ戻す為の仕掛け人では?


 疑念が更に疑念を呼び起こし、大聖女レシェルランは今直ぐに聖女殿にいる公爵令嬢セフェーリアに合わなければと思った…

…いえ、駄目よ…

 あちらがこちらに気がついた場合、何を口走るのか分かったものではないのだから…

…では人を使って様子を見に行かせる?…

…何と言って?…

 大聖女が気になるから動向を調べて来いとでも?

「フッ……」
 
 大聖女レシェルランから自嘲の笑みが漏れる。

「…良く、考えれば…何ともない事だわ…」

 この事態入れ替わりが起こってしまった原因は大聖女レシェルランではない。大聖女の自分でさえも今なおこの術を解くのは不可能なのだから。それにあの時、入れ替わった状態の公爵令嬢セフェーリアの姿で大聖女を語ろうものならば、そのまま牢獄にでも閉じ込められたかもしれないのだから。

…それは私を捕まえられればだけれど…

 ならば、息急き切って慌てる事など何も無い……












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