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しおりを挟む「こっち来ないと、落ちるぞ?」
ウトウトと眠りかかっている所に、そっとアクサードに引き寄せられるスロウル。
シングルの寝台では男二人は狭いと思うのだが、もう慣れたとアクサードに促され共に寝台を使う。
討伐後の残務が終われば後は自由時間になる。食事と入浴が済めば、早く疲れた体を休めたいから、スロウルも強く反対せずに眠りにつく。幼い時は人肌を恋しく思いながら眠りについたものだが、望んでいた暖かい体が直ぐ横にあっても不思議とこれが落ち着かないものなのだ。
スロウルの身柄を預かるとアクサードが宣言したあの日より、大きな討伐後は必ず一緒に眠る様になった。アクサードの目が周囲に光るなか、そこまで気に留めなくても…と言いたくなるのだが、あの日の光景をもう二度と見たくは無いとアクサードが頑として譲らず、今に至る。
それでも当初はソファーと寝台とに別れて寝ていたものだが、どちらにするか決めるのも面倒くさいとアクサードに押し切られた状態で共に眠る様になった。
トロトロと睡魔に引きずり込まれる中、アクサードの手を感じる…一緒に眠る時、スロウルが眠りにつく寸前位にいつも胸元に引き寄せられる。頭を撫でられたり、ゆっくりと背中や腰を…
他人に触られることは本意でなくても初めてでは無いスロウルも最初はどういうつもりかと、心の中ではアクサードを警戒していた時もあったが、アクサードはそれだけなのだ。優しく身体を撫でるだけ…
そして、スロウルもウトウトしている中で優しく撫でられれば、それが初めの不審から心地良いものに変わっていって寝つき易くもなっていった。
何が楽しくて何時迄もアクサードは撫でるのか?スロウルはアクサードが何を考えているのか良くわからないまま今日もそのまま眠りに落ちた。
スッと目を開ける、と今日も目の前にアクサードの整った顔。そんな状態に慣れたとは言えず、スロウルは一気に目が覚める。
昨日は、討伐の後で、兵舎に戻って、入浴後に寝たんだった…
今日も訓練と昨日の処理残務があるだろう。身支度しようとゆっくりアクサードの腕から抜け出ようとする。
「……スロウ……?」
「おはようございます。アクサード、起こしてしまいましたか?」
アクサードは躊躇なくスロウルを愛称で呼ぶ。
「いや、よく寝ていた。眠れたか?」
「ええ、私もよく眠れました。」
そうか、と呟いてはスロウルを引き寄せてスッポリと抱え直す。
「アクサード、遅刻しますよ?今日は流石に休暇など取れないでしょうから、観念して起きましょう?」
「ん~~……」
スルリと先に抜け出して着替え始めるスロウルに寝台からだらし無く手を伸ばすアクサード。寝つきも寝起きも悪くないのにどうしたものかと考えるが、スロウルは身支度の手を止めない。
トントントン…
「ほら、アクサード!お付きの者が来ましたよ!」
この時点でスレントル家から伴ってきた侍従二人が部屋の外で待機しているから、急がせる為にぐいっと伸ばされたアクサードの手を引く。
仕方なしに勢いよくカバと起き上がるアクサード。
「起きれるじゃないですか?具合が悪いのかと…」
「スロウとゴロゴロできるなら仮病でも使うか?」
寝起きなのに爽やかな笑顔で悪戯っ子の様な事を言う。侍従を待たせているのに…
「そんな事を言えば侍従を困らせるだけだと思いますよ?」
「良いだろ。待たせておけば。」
「ダメですって!いつも困らせていては彼らも大変です。」
「それが仕事だろう?」
「アクサード、子供みたいですって…」
半ば呆れ顔のスロウルだが、アクサードのシャツやら下衣を出してくる。
「いいな……」
「え、何がです?この色嫌いでした?」
「いや、それで良い…。テドルフ公爵家にこんな事が知れたらきっと俺は消されるな。」
言っていることはものすごく不穏なものだが、それに反してアクサードの顔は酷く穏やかで満足そうだ。
「いえ、この位では流石の父もそこまでしないと思うのですが…」
「いや、分からんな…」
自分の命が狙われる様なこと言ってるのにアクサードはニコニコと不思議な程笑顔だ。
本当にアクサードが分からない。そんなに楽しそうに話す事だろうか?それに上位貴族のアクサードにそんな無体を強制する事なんてできないと思うのだが…
「…すまんな。別に困らせる為に言ったわけではないんだ。」
余りにも不可解な顔をしていたんだろう。スロウルの頭を一撫でしてすっかり支度の終えたアクサードは帯剣して部屋を出る。
「おはようございます、若様。あの、スロウル様…」
「おはようございます。どうか?」
「あの、部隊長がお呼びでしたが、宜しいのでしょうか?」
「?」
良いも悪いも用があるから呼ばれたのだろうし、仕事の話なら聞かないわけにはいかない。
「昨日の捕物の件でしょう?直ぐに来る様に言ってましたか?」
ちらり、とアクサードの方を見ましたね?私の行動にアクサードの許可が必要だとは思いませんよ?
「直ぐに行きます。残務処理についてでしょうから。」
では、とアクサードに礼をしてスロウルは足早に去って行く。
「何の用だと?」
「詳しくは聞けませんでしたが、呼んでこいとだけでした…」
少々嫌なものが胸をよぎるが、昨日の今日ならば残務処理の一環で間違いはないだろう。
「こちらの任務を早急に終わらせてスロウルの様子を見に行く。お前も彼方についておけ。」
侍従の一人を部隊長の執務室の方へ向かわせておけば、何かあれば連絡が来るだろう。
「よし、とっとと終わらせるぞ!」
アクサードも足早に持ち場へ向かって行った。
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