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Days 羞恥心の在り処は
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「ところで、そろそろ出て来てくれたらいいんだけど。アンジェラ」
不意にローレンスが呼びかけて、スティールはびくんと肩を強張らせた。
「やはり気付かれていましたか」
苦笑しながら美人秘書が書棚の陰から姿を現す。くっついているのが恥ずかしくて慌ててスティールは離れようとしたのだけれど、ローレンスは腕の中から出してくれない。
「すみません、あまりにも微笑ましかったものですから」
肩を竦めて、
「それにローレンス様の本気も見たかったし」
にやりと含みのある笑みを浮かべられて、スティールはどうにも居たたまれない。穴があったら入りたいとはこんな心境のことか。
「時間はまだいいだろう?」
ちらりと腕時計を確認してローレンスが問うた。
「はい、今日は問題ないです。私の個人的な興味です」
パンプスは脱がずに、アンジェラはすっとカーペットに腰を下ろした。優雅に膝頭を揃えたまま。何ともない仕草なのに、スティールは感心してしまった。
「ごめんなさいね、お嬢ちゃん。それと先日はありがとう、あなたにはまだ直接お礼を言っていなかったわね」
端末を返却するついでにスティングには会っているが、スティールには会っていなかったのだ。
「い、いいえっ。とんでもないです」
いい加減離して欲しいなーと思いながらもふるふると首を振るスティール。ローレンスは秘書の前では遠慮するつもりはないらしい。常に人目にさらされて生活しているとこうなってしまうのだろうか。
「問題ないなら席を外して欲しいんだけど」
何か続きがあるのだろうか。ローレンスが口を挟む。
いつから垣間見られていたのか、そしていつからそれに気付いていたのか。全く遠慮のない上司と部下である。
「あら~いちゃいちゃしたいのは良いんですけれど、私が席を外してももう無理そうですよ?」
それを知らせるためにわざと入ってきたのか、すぐに入り口が開閉する気配がした。つかつかと革靴の音が近付いてくるのが判り、今度はローレンスも腕を緩めてくれたのでスティールは広い胸から顔を離して座り直した。
一旦別の方向へと向かった来館者は、足を止めることもなく今度はこちらに向かってやってくる。その姿が見えたとき、うへえとスティールは顔を顰めた。
「やあ」
ひょっこり覗いた顔を認めていち早くローレンスが声を掛けた。
「あ、こ、こんにちは。一緒に居たんだ……」
驚き顔で閲覧コーナーに現れたのはスティングだった。様子からしてスティールを探していたらしい。
この週スティールは全く調理室にはおらず、サンドラに尋ねたら図書館に通っているという。流石に週末になったので一体何をやっているのかと確かめに来たところだった。
しかしいざ探し当ててみれば、ローレンスと一緒にかなり寛いだ様子でしかも親しげにくっついて座っている。スティールは胸から顔を離して距離を取ったつもりでも、彼女の基準と外野の視線はまた違ったものになる。少なくともスティングにとっては、ランチ以来スティールがローレンスと交流があるとは思ってもみないことだったのだ。
「もしかしてあたしのこと探してたの?」
なんとなく後ろめたい気分でスティールはスティングを見上げた。とはいえ、その後ろめたさの理由は判っていない。
「ああ、まぁな……」
スティングの方も居心地悪そうだ。見てはならないものを見てしまったような、それでいていいところに来たような。しかもこうして立った状態だと、腰掛けているアンジェラの胸元が丸見えでついつい目が行ってしまう。本能とは恐ろしいものである。
「今日のサンディのオレンジケーキ、美味かったぞ」
何を言えばいいのか迷いついつい軽口を叩いてしまう。
「そりゃそうでしょうとも。あたしだったらどうせ焦がしてるわよ~。って、そんなこと言いにわざわざここに来たの?」
案の定むうっと口を引き結ぶスティール。
「クラブさぼりすぎだろ」
「わかってるわよ~。来週からはちゃんと行きますー。もう、なんでスティングにあたしの行動管理されなきゃならないわけ?」
ますますむっとした少女に内心焦りながらも、
「幼馴染みとしての義務だ! お前が不真面目にしてたらオレだっておばさんに顔向け出来ないだろ」
売り言葉に買い言葉でどんどんエスカレートしてしまう。
「スティングに不真面目だなんて言われたくないもん!」
ぐぬぬぬぬ、と睨みあう二人に、すっと腰を上げたアンジェラが割って入る。
「まあまあ、いいじゃないのたまには。毎日勉強とクラブ活動に明け暮れなくても、他にも色々楽しみはあるじゃない」
スティングの方に体をぐいと寄せてくるので、思わず一歩退いてしまう少年。
「ねぇぼうや?」
艶やかな唇が艶然と微笑みかけ、ボリュームを抑えて低く語りかける。
「私のカラダ、気に入ってくれたでしょ? そんな固いこと言わないの」
ごくりとスティングの喉が鳴る。やはり視線はついつい胸元にいってしまう自分が情けない。
うふ、とアンジェラは首を傾げて人差し指で少年の首筋を撫でた。
「別のところが硬いのは大歓迎だけどね」
うわこんなときに言わなくても! と何故か赤面して慌てた様子のスティングに怒りを収めたスティールは首を捻っている。
隣ではローレンスがくすくすと笑っているが、アンジェラとスティングの間に何かあったのだろうか。
少し思案して、ここで会ったのも一つのきっかけだと決心する。いつかは言わなければ隠し通せる相手でもない。
「あのね、スティング」
アンジェラにからかわれて狼狽しているスティングにスティールの爆弾発言が投下された。
「あたし、ローレンスとお付き合いしてるの」
ぴたりと動きを止めたスティングが、今度こそきっちりと秘書から視線を外して驚愕の眼差しを向けた。
不意にローレンスが呼びかけて、スティールはびくんと肩を強張らせた。
「やはり気付かれていましたか」
苦笑しながら美人秘書が書棚の陰から姿を現す。くっついているのが恥ずかしくて慌ててスティールは離れようとしたのだけれど、ローレンスは腕の中から出してくれない。
「すみません、あまりにも微笑ましかったものですから」
肩を竦めて、
「それにローレンス様の本気も見たかったし」
にやりと含みのある笑みを浮かべられて、スティールはどうにも居たたまれない。穴があったら入りたいとはこんな心境のことか。
「時間はまだいいだろう?」
ちらりと腕時計を確認してローレンスが問うた。
「はい、今日は問題ないです。私の個人的な興味です」
パンプスは脱がずに、アンジェラはすっとカーペットに腰を下ろした。優雅に膝頭を揃えたまま。何ともない仕草なのに、スティールは感心してしまった。
「ごめんなさいね、お嬢ちゃん。それと先日はありがとう、あなたにはまだ直接お礼を言っていなかったわね」
端末を返却するついでにスティングには会っているが、スティールには会っていなかったのだ。
「い、いいえっ。とんでもないです」
いい加減離して欲しいなーと思いながらもふるふると首を振るスティール。ローレンスは秘書の前では遠慮するつもりはないらしい。常に人目にさらされて生活しているとこうなってしまうのだろうか。
「問題ないなら席を外して欲しいんだけど」
何か続きがあるのだろうか。ローレンスが口を挟む。
いつから垣間見られていたのか、そしていつからそれに気付いていたのか。全く遠慮のない上司と部下である。
「あら~いちゃいちゃしたいのは良いんですけれど、私が席を外してももう無理そうですよ?」
それを知らせるためにわざと入ってきたのか、すぐに入り口が開閉する気配がした。つかつかと革靴の音が近付いてくるのが判り、今度はローレンスも腕を緩めてくれたのでスティールは広い胸から顔を離して座り直した。
一旦別の方向へと向かった来館者は、足を止めることもなく今度はこちらに向かってやってくる。その姿が見えたとき、うへえとスティールは顔を顰めた。
「やあ」
ひょっこり覗いた顔を認めていち早くローレンスが声を掛けた。
「あ、こ、こんにちは。一緒に居たんだ……」
驚き顔で閲覧コーナーに現れたのはスティングだった。様子からしてスティールを探していたらしい。
この週スティールは全く調理室にはおらず、サンドラに尋ねたら図書館に通っているという。流石に週末になったので一体何をやっているのかと確かめに来たところだった。
しかしいざ探し当ててみれば、ローレンスと一緒にかなり寛いだ様子でしかも親しげにくっついて座っている。スティールは胸から顔を離して距離を取ったつもりでも、彼女の基準と外野の視線はまた違ったものになる。少なくともスティングにとっては、ランチ以来スティールがローレンスと交流があるとは思ってもみないことだったのだ。
「もしかしてあたしのこと探してたの?」
なんとなく後ろめたい気分でスティールはスティングを見上げた。とはいえ、その後ろめたさの理由は判っていない。
「ああ、まぁな……」
スティングの方も居心地悪そうだ。見てはならないものを見てしまったような、それでいていいところに来たような。しかもこうして立った状態だと、腰掛けているアンジェラの胸元が丸見えでついつい目が行ってしまう。本能とは恐ろしいものである。
「今日のサンディのオレンジケーキ、美味かったぞ」
何を言えばいいのか迷いついつい軽口を叩いてしまう。
「そりゃそうでしょうとも。あたしだったらどうせ焦がしてるわよ~。って、そんなこと言いにわざわざここに来たの?」
案の定むうっと口を引き結ぶスティール。
「クラブさぼりすぎだろ」
「わかってるわよ~。来週からはちゃんと行きますー。もう、なんでスティングにあたしの行動管理されなきゃならないわけ?」
ますますむっとした少女に内心焦りながらも、
「幼馴染みとしての義務だ! お前が不真面目にしてたらオレだっておばさんに顔向け出来ないだろ」
売り言葉に買い言葉でどんどんエスカレートしてしまう。
「スティングに不真面目だなんて言われたくないもん!」
ぐぬぬぬぬ、と睨みあう二人に、すっと腰を上げたアンジェラが割って入る。
「まあまあ、いいじゃないのたまには。毎日勉強とクラブ活動に明け暮れなくても、他にも色々楽しみはあるじゃない」
スティングの方に体をぐいと寄せてくるので、思わず一歩退いてしまう少年。
「ねぇぼうや?」
艶やかな唇が艶然と微笑みかけ、ボリュームを抑えて低く語りかける。
「私のカラダ、気に入ってくれたでしょ? そんな固いこと言わないの」
ごくりとスティングの喉が鳴る。やはり視線はついつい胸元にいってしまう自分が情けない。
うふ、とアンジェラは首を傾げて人差し指で少年の首筋を撫でた。
「別のところが硬いのは大歓迎だけどね」
うわこんなときに言わなくても! と何故か赤面して慌てた様子のスティングに怒りを収めたスティールは首を捻っている。
隣ではローレンスがくすくすと笑っているが、アンジェラとスティングの間に何かあったのだろうか。
少し思案して、ここで会ったのも一つのきっかけだと決心する。いつかは言わなければ隠し通せる相手でもない。
「あのね、スティング」
アンジェラにからかわれて狼狽しているスティングにスティールの爆弾発言が投下された。
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