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Be mine.
私だけのあなたでいて 【完】
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「誕生日、ひとりにしてしまった」
謝罪の意味を聞いて、ようやく納得する。ひとりで外食できない私を待たせてしまったことを気にしているのか。
確かに、あのときの私は凄く惨めで、寂しくて、悲しかった。それよりも、お店の人たちに迷惑をかけたと思っているから、そちらの罪悪感の方が大きいんだけど。
「できれば、キャンセルしといてほしかったです」
そうすれば、被害は私だけで済んだ。そもそも、もう縁がなくなったと思いながらも勝手に可能性を思い描いてあの店に行ったのは私だ。誰も来なければ、店から確認が行き、その時点で予約席は解除されただろう。恥ずかしすぎてもう二度とあそこへは行けない。
苦い笑いが浮かんで、それを見た貴仁さんの表情が苦しそうで。
「翌日に思い出して、謝罪に行ったんだ。そのときに、当日の有羽のことも教えてもらって……本当にごめんな」
いえ、と音にならない声で応じて、首を振った。
「もういいの。全部もういいんです」
今日、彼女じゃなくて私を選んでくれた。それだけで十分だ。
「でも、しこりが残ったら困るから、これだけは言わせて。彼女と別れると決めてから、お互いの家には行ってないし、勿論ホテルにも行ってないから。話し合うためにカフェや飲み屋には付き合ったけど、それ以上のことはしてないから」
それだけは、信じてほしい。そう断言する声が心細そうで、まっすぐに絡まる視線の奥で揺らぐ不安を読みとり、私の胸が熱くなる。
手を突いて、膝をにじらせて、テーブルの角越しに彼の膝に手を載せた。拳を握りしめていたその手をほどいて、ふたりの間で合わせる。宣誓の時のように胸の高さで。
「貴仁さん。私といるときのあなたが誠実であると信じてきたの。だから、今も信じてる。その言葉に嘘がないって、これからも信じさせてほしいの。大好きです。きっと、これからもずっと」
「有羽、ありがとう。俺も愛してる」
合わさっていた指がずれて、間に通されて握り合う。瞳に映る私の像が揺らいで、その姿が消えるのと唇が柔らかに包まれるのが同時だった。
ふたりの中から溢れる梅の香りが混じりあい、空気に溶けていく。舌と唇に翻弄されているうちに片手が後頭部に回り、ゆっくりと倒されていく。
楽なように足を伸ばすと、それは四つん這いになった貴仁さんに囲われていた。ニットの裾から侵入していく大きな手のひらが、キャミソールと一体型のブラをたくし上げ、まろび出た乳房が空気に晒され、はたと我に返る。
肩越しに煌々と部屋を照らすシーリングが目を刺した。その下で貴仁さんに露わになっている自分という恥ずかしい体勢に悶えて、たどたどしくお願いする。
「たかひとさ、ん」
首筋から乳頭へと移り大きく舐められて、腰が跳ねる。
「お願い、電気、恥ずかしいよ」
濡れたところをぐりぐりと指でこねられて、下半身が疼く。奥からなにかが溢れそうな気配を感じた。
「んー。見たいんだけど」
「む、無理ぃ、やだ無理」
「じゃあまた今度な」
あっさりと上から退けて、壁のスイッチを押す貴仁さんが、クローゼットを開けてもいいかと問う。立ったついでに布団を敷いてくれるという言葉にどこかほっとしながら、上半身を起こした。
スイッチパネルの緑のランプが室内に点在し、遮光カーテンの隙間から入ってくる外灯の明かりに貴仁さんが浮かび上がる。金属音と衣擦れの音がして、背を向けたまま肌の面積が増えていく貴仁さんに目が吸い付いてしまう。
男らしい太さの首筋に、盛り上がった三角筋、僧帽筋と辿り、晒された大殿筋へと辿り着き、驚きの声が上がりそうになった。
いつもはスラックスに包まれているそこを惜しげもなく晒したまま、クロゼットから敷き布団を抱えてこちらに向いたから、股間が隠れていることにほっとする。
心臓が胸から飛び出してしまいそうにうるさい。今までこんなにはっきりと男性を意識したことがなかったから、頭の中が真っ白だ。
「有羽」
呼びかけながら膝を突く様子からも目が離せなくて、苦笑されてしまった。
「めっちゃ視姦されてたんだけど」
「っう、ご、ごめんなさい」
「いいよ、俺も見るし」
「ぅえ? それはやだ」
「だめー」
くすくす笑いながら唇を啄まれて、中途半端にたくし上げられたままだった上衣を抜き取られてしまう。覆うもののなくなった胸を隠すように両手を交差させて包むと、口付けが深くなった。
秒針がときを刻み、それを追いかけて分針が動く中に水音が混じる。火照り始めた体を支える腕が背中に回り、あっと思ったときには布団に載せられていた。
い、今一瞬お姫さまだっこされてた?
夢のお姫さまだっこだったような膝裏の感触を思い出しているあいだに、下半身の着衣が解かれてしまう。遮るものなく肌が触れ合い、両腕を広げられて布団に縫い止められた。
「有羽」
微笑みは優しいのに、瞳の奥に宿るのはねばついた欲だ。でもそれは、きっと今、私の瞳にも宿っている。
あなたが欲しい。なによりも雄弁に、闇の中でも隠せない欲をあぶり出す炎が胸にあるから。
その視線だけで、今まで知らなかった疼きが女の部分を満たしていく。
何度も私を呼びながら乳房に口付け、舌を這わせてはときおり歯を立て、強く吸う。一心に求められていると感じられるたびに、奥から溢れ出しそうになり、堪らない声が漏れる。
夢中になっているあいだに、膝の間に貴仁さんの体が収まっていた。
あれ、確かまたいでいたのに、いつの間に。布団に載った後の記憶が曖昧で自信がない。もしかしたら、そのとき既にこの体勢だったのかも。
腕を解放されて、臍から下へと手の甲が撫で下ろされる。それが音を立てるにいたり、顔が燃えるんじゃないかというくらい熱くなった。
「やだぁ……っ」
泣きそうなくらい恥ずかしい。触れられる前からそんなになっているなんて。
「どうして? 嬉しいな。俺に感じてくれてて」
「そうなの?」
「そうだよ。乾いてたら俺のせいじゃん。落ち込むだろ」
「そ、なんだ……」
ふう、と力が抜けて、それを見計らったように貴仁さんの顔が遠のいた。
ぐいと足を折り曲げてそこへと顔が沈むのを目にして、悲鳴じみた声が上がってしまう。
温かく柔らかな感触。も、もしかして舐めてくれてるの。
初めての感触には、快感しかない。手を撫でられているときも気持ちいいけど、そこは貴仁さん以外に触れられていない場所。せめて入浴しておけば良かったという少々の罪悪感すら捨ててしまえば、自分のものとは思えない甘えた声が漏れ始めるのはすぐだった。
「ん、きもち、い……」
素直に声にすると、褒めるように内股を撫でられ、指先だろうものが入り口を探る。
水音に耳からも犯され、また濡れて水音が増すというひとり羞恥プレイ。
長いこと入り口だけをほぐされて、その間舌は休まず私の快感を繋いでいく。その単調な中に、なにかがぐうっとせりあがってきた。
突然、受け取る感覚が狂う。
それはもう、狂うとしか言いようがなかった。
指も舌も同じことを続けているだけなのに、堰を越えた快感が腰を跳ねさせる。
くうくうと子犬のような声を挙げながら、私は極まった。
曲げられたままの膝どころか、太股からつま先まで震えが止まらない。つったときのように足の甲が強ばり、爪先は丸まっていた。
「有羽、可愛い」
荒い息をついてぐったりしている足を伸ばして、貴仁さんは自分の肩に乗せる。布団の脇に手を伸ばしたかと思えば、四角いパッケージから取り出したものをあっという間に取り付けた。
「受け入れて」
入り口で粘液をまとわせてから、ぐうっと中に押し入ってくる。数年前に一度だけ受け入れたときには、なかなか入らなかった。それなのに、あのときより大きいはずの貴仁さんのものは、すんなりと入ってきているように思う。圧迫感はあるけど、痛みはないし。
「好きだよ、有羽」
乱れた息のまま、貴仁さんが体を寄せて軽く唇を合わせた。
びたりと下半身が合わさり、本当にきっちりと収まったんだと自覚する。
あのとき、痛みしかなくて、もう二度とセックスなんてしなくていいと思った。
マンガや小説で気持ちよさそうに喘いでいるのを見ても半信半疑で、羨ましいと思うと同時に、嘘ばっかりとひとりごちていた。
「好き、大好き。貴仁さん」
「ありがとう」
「私も、ありがとう。大好き」
「うん」
じっとしているのに貴仁さんが苦しそうに顔を歪めて、不安になる。息も乱れているし。
「あの、苦しいの? 私なにかおかしい? それとも具合が悪くなった?」
くう、と喉を鳴らして貴仁さんは首を振った。
「違うよ、逆。気持ちよすぎて、すぐに持ってかれそうで、我慢してるの」
「我慢なんてしなくていいのに」
ぽろりと漏れたのは本心で。だけど貴仁さんは逆の意味に受け取ったようだった。
ぐるんと数回こねるように腰を回した後、ゆっくりと腰が引かれていく。それから一息に突き込まれて、体が跳ねた。
漏れる悲鳴は、我ながら本当に子犬みたいにキャンキャン聞こえる。鼻に抜けて甘ったるいし、誰これ状態で私はのたうった。
奥まできて茂み同士がくっついた状態でぐりぐりされたり、ゆっくり腰を引きながら途中で角度を変えて突かれたりと、私の身体は貴仁さんのいいようになぶられた。四十八手と聞くけれど、それに及ぶくらいに体位を変えられ揺さぶられて、経験値の低い私はなすがままだ。
途中で意識が飛んでいたかもしれない。かくんと頭が後ろに落ちて我に返ると、布団に座った貴仁さんの腰に足を巻き付けるようにして、私はその上に座っている状態だった。
呼ばれて頭を起こすと、吸い付くように唇を捕らえられる。下からの突き上げは緩やかで、けれど貪られて呼吸は乱れ、彼の首に回した腕にも力が入らず、背を支えられていなければすぐに後ろに倒れてしまうだろう。
「有羽、もうちょっとだけ、がんばって」
頑張るってなにを? もうへろへろで、軟体動物になったみたいだ。唯一出せる声すら、吐息に混じったくぐもったもので、明瞭さはない。
ほぼ初めてといっても過言でない私にとって、これはハードルが高すぎた。
獣のような、かぁ。
ラストスパートに正常位で揺さぶられながら、バックヤードで聞いたトークを思い出していた。
激しいといって良いのかどうか、比較対象がないからわからないけれど。
これは休みの前日限定にして欲しいと切実に願いながら、貴仁さんの熱を膜越しに受け取ったんだった。
ぴゅう、と吹き抜ける風に花弁が雨のように降りこみ、テーブルのすぐ脇で、小さな桜色の竜巻が起こる。
それが消えてしまうのを名残惜しく見つめてから視線を戻すと、
「今の凄かったね」
と、貴仁さんが目を細めた。
あーんの儀式のあと、半分こでパフェを完食し、あとくちの為に紅茶を飲み終えたところだった。
あのカフェと違い、カップで供される飲み物。アールグレイにミルクを入れる私を、物珍しそうにあなたは見つめていたね。
バレンタインのあと、私への好意を隠さなくなった貴仁さんと、それを受け入れている私を見て、私たちの関係は皆の知るところとなった。
バレンタインに告白をして、という流れを正直に告げたところ、意外にも好意的に受け取られている感じで、おそれていた苦言など、いじめのようなものはない。
だから綺麗になったのね。やっぱり恋は女を変えるんだ、とあの人に従うままだった頃の私には耳の痛いことを言っていたけれど、純粋に嬉しく思う。
なりたい自分に近付けるよう、努力しよう。そう思えるきっかけになった全てのことを胸にしっかりと留めて、前を向いていこう。
あなたがいつも、微笑んでいてくれるから。伸ばした腕の先にいるのが私であれるように、俯いてはいられない。
あふれる想いを視線だけに託さないで、言葉にして伝えていこう。
ずっと傍にいてほしいの。
私だけのあなたでいて欲しいの。
「だいすき」
「俺もだよ」
すっぽりと、大きな手にくるまれて、からだごと包み込まれて。
いま、四つ葉の願いは叶えられている。
了
謝罪の意味を聞いて、ようやく納得する。ひとりで外食できない私を待たせてしまったことを気にしているのか。
確かに、あのときの私は凄く惨めで、寂しくて、悲しかった。それよりも、お店の人たちに迷惑をかけたと思っているから、そちらの罪悪感の方が大きいんだけど。
「できれば、キャンセルしといてほしかったです」
そうすれば、被害は私だけで済んだ。そもそも、もう縁がなくなったと思いながらも勝手に可能性を思い描いてあの店に行ったのは私だ。誰も来なければ、店から確認が行き、その時点で予約席は解除されただろう。恥ずかしすぎてもう二度とあそこへは行けない。
苦い笑いが浮かんで、それを見た貴仁さんの表情が苦しそうで。
「翌日に思い出して、謝罪に行ったんだ。そのときに、当日の有羽のことも教えてもらって……本当にごめんな」
いえ、と音にならない声で応じて、首を振った。
「もういいの。全部もういいんです」
今日、彼女じゃなくて私を選んでくれた。それだけで十分だ。
「でも、しこりが残ったら困るから、これだけは言わせて。彼女と別れると決めてから、お互いの家には行ってないし、勿論ホテルにも行ってないから。話し合うためにカフェや飲み屋には付き合ったけど、それ以上のことはしてないから」
それだけは、信じてほしい。そう断言する声が心細そうで、まっすぐに絡まる視線の奥で揺らぐ不安を読みとり、私の胸が熱くなる。
手を突いて、膝をにじらせて、テーブルの角越しに彼の膝に手を載せた。拳を握りしめていたその手をほどいて、ふたりの間で合わせる。宣誓の時のように胸の高さで。
「貴仁さん。私といるときのあなたが誠実であると信じてきたの。だから、今も信じてる。その言葉に嘘がないって、これからも信じさせてほしいの。大好きです。きっと、これからもずっと」
「有羽、ありがとう。俺も愛してる」
合わさっていた指がずれて、間に通されて握り合う。瞳に映る私の像が揺らいで、その姿が消えるのと唇が柔らかに包まれるのが同時だった。
ふたりの中から溢れる梅の香りが混じりあい、空気に溶けていく。舌と唇に翻弄されているうちに片手が後頭部に回り、ゆっくりと倒されていく。
楽なように足を伸ばすと、それは四つん這いになった貴仁さんに囲われていた。ニットの裾から侵入していく大きな手のひらが、キャミソールと一体型のブラをたくし上げ、まろび出た乳房が空気に晒され、はたと我に返る。
肩越しに煌々と部屋を照らすシーリングが目を刺した。その下で貴仁さんに露わになっている自分という恥ずかしい体勢に悶えて、たどたどしくお願いする。
「たかひとさ、ん」
首筋から乳頭へと移り大きく舐められて、腰が跳ねる。
「お願い、電気、恥ずかしいよ」
濡れたところをぐりぐりと指でこねられて、下半身が疼く。奥からなにかが溢れそうな気配を感じた。
「んー。見たいんだけど」
「む、無理ぃ、やだ無理」
「じゃあまた今度な」
あっさりと上から退けて、壁のスイッチを押す貴仁さんが、クローゼットを開けてもいいかと問う。立ったついでに布団を敷いてくれるという言葉にどこかほっとしながら、上半身を起こした。
スイッチパネルの緑のランプが室内に点在し、遮光カーテンの隙間から入ってくる外灯の明かりに貴仁さんが浮かび上がる。金属音と衣擦れの音がして、背を向けたまま肌の面積が増えていく貴仁さんに目が吸い付いてしまう。
男らしい太さの首筋に、盛り上がった三角筋、僧帽筋と辿り、晒された大殿筋へと辿り着き、驚きの声が上がりそうになった。
いつもはスラックスに包まれているそこを惜しげもなく晒したまま、クロゼットから敷き布団を抱えてこちらに向いたから、股間が隠れていることにほっとする。
心臓が胸から飛び出してしまいそうにうるさい。今までこんなにはっきりと男性を意識したことがなかったから、頭の中が真っ白だ。
「有羽」
呼びかけながら膝を突く様子からも目が離せなくて、苦笑されてしまった。
「めっちゃ視姦されてたんだけど」
「っう、ご、ごめんなさい」
「いいよ、俺も見るし」
「ぅえ? それはやだ」
「だめー」
くすくす笑いながら唇を啄まれて、中途半端にたくし上げられたままだった上衣を抜き取られてしまう。覆うもののなくなった胸を隠すように両手を交差させて包むと、口付けが深くなった。
秒針がときを刻み、それを追いかけて分針が動く中に水音が混じる。火照り始めた体を支える腕が背中に回り、あっと思ったときには布団に載せられていた。
い、今一瞬お姫さまだっこされてた?
夢のお姫さまだっこだったような膝裏の感触を思い出しているあいだに、下半身の着衣が解かれてしまう。遮るものなく肌が触れ合い、両腕を広げられて布団に縫い止められた。
「有羽」
微笑みは優しいのに、瞳の奥に宿るのはねばついた欲だ。でもそれは、きっと今、私の瞳にも宿っている。
あなたが欲しい。なによりも雄弁に、闇の中でも隠せない欲をあぶり出す炎が胸にあるから。
その視線だけで、今まで知らなかった疼きが女の部分を満たしていく。
何度も私を呼びながら乳房に口付け、舌を這わせてはときおり歯を立て、強く吸う。一心に求められていると感じられるたびに、奥から溢れ出しそうになり、堪らない声が漏れる。
夢中になっているあいだに、膝の間に貴仁さんの体が収まっていた。
あれ、確かまたいでいたのに、いつの間に。布団に載った後の記憶が曖昧で自信がない。もしかしたら、そのとき既にこの体勢だったのかも。
腕を解放されて、臍から下へと手の甲が撫で下ろされる。それが音を立てるにいたり、顔が燃えるんじゃないかというくらい熱くなった。
「やだぁ……っ」
泣きそうなくらい恥ずかしい。触れられる前からそんなになっているなんて。
「どうして? 嬉しいな。俺に感じてくれてて」
「そうなの?」
「そうだよ。乾いてたら俺のせいじゃん。落ち込むだろ」
「そ、なんだ……」
ふう、と力が抜けて、それを見計らったように貴仁さんの顔が遠のいた。
ぐいと足を折り曲げてそこへと顔が沈むのを目にして、悲鳴じみた声が上がってしまう。
温かく柔らかな感触。も、もしかして舐めてくれてるの。
初めての感触には、快感しかない。手を撫でられているときも気持ちいいけど、そこは貴仁さん以外に触れられていない場所。せめて入浴しておけば良かったという少々の罪悪感すら捨ててしまえば、自分のものとは思えない甘えた声が漏れ始めるのはすぐだった。
「ん、きもち、い……」
素直に声にすると、褒めるように内股を撫でられ、指先だろうものが入り口を探る。
水音に耳からも犯され、また濡れて水音が増すというひとり羞恥プレイ。
長いこと入り口だけをほぐされて、その間舌は休まず私の快感を繋いでいく。その単調な中に、なにかがぐうっとせりあがってきた。
突然、受け取る感覚が狂う。
それはもう、狂うとしか言いようがなかった。
指も舌も同じことを続けているだけなのに、堰を越えた快感が腰を跳ねさせる。
くうくうと子犬のような声を挙げながら、私は極まった。
曲げられたままの膝どころか、太股からつま先まで震えが止まらない。つったときのように足の甲が強ばり、爪先は丸まっていた。
「有羽、可愛い」
荒い息をついてぐったりしている足を伸ばして、貴仁さんは自分の肩に乗せる。布団の脇に手を伸ばしたかと思えば、四角いパッケージから取り出したものをあっという間に取り付けた。
「受け入れて」
入り口で粘液をまとわせてから、ぐうっと中に押し入ってくる。数年前に一度だけ受け入れたときには、なかなか入らなかった。それなのに、あのときより大きいはずの貴仁さんのものは、すんなりと入ってきているように思う。圧迫感はあるけど、痛みはないし。
「好きだよ、有羽」
乱れた息のまま、貴仁さんが体を寄せて軽く唇を合わせた。
びたりと下半身が合わさり、本当にきっちりと収まったんだと自覚する。
あのとき、痛みしかなくて、もう二度とセックスなんてしなくていいと思った。
マンガや小説で気持ちよさそうに喘いでいるのを見ても半信半疑で、羨ましいと思うと同時に、嘘ばっかりとひとりごちていた。
「好き、大好き。貴仁さん」
「ありがとう」
「私も、ありがとう。大好き」
「うん」
じっとしているのに貴仁さんが苦しそうに顔を歪めて、不安になる。息も乱れているし。
「あの、苦しいの? 私なにかおかしい? それとも具合が悪くなった?」
くう、と喉を鳴らして貴仁さんは首を振った。
「違うよ、逆。気持ちよすぎて、すぐに持ってかれそうで、我慢してるの」
「我慢なんてしなくていいのに」
ぽろりと漏れたのは本心で。だけど貴仁さんは逆の意味に受け取ったようだった。
ぐるんと数回こねるように腰を回した後、ゆっくりと腰が引かれていく。それから一息に突き込まれて、体が跳ねた。
漏れる悲鳴は、我ながら本当に子犬みたいにキャンキャン聞こえる。鼻に抜けて甘ったるいし、誰これ状態で私はのたうった。
奥まできて茂み同士がくっついた状態でぐりぐりされたり、ゆっくり腰を引きながら途中で角度を変えて突かれたりと、私の身体は貴仁さんのいいようになぶられた。四十八手と聞くけれど、それに及ぶくらいに体位を変えられ揺さぶられて、経験値の低い私はなすがままだ。
途中で意識が飛んでいたかもしれない。かくんと頭が後ろに落ちて我に返ると、布団に座った貴仁さんの腰に足を巻き付けるようにして、私はその上に座っている状態だった。
呼ばれて頭を起こすと、吸い付くように唇を捕らえられる。下からの突き上げは緩やかで、けれど貪られて呼吸は乱れ、彼の首に回した腕にも力が入らず、背を支えられていなければすぐに後ろに倒れてしまうだろう。
「有羽、もうちょっとだけ、がんばって」
頑張るってなにを? もうへろへろで、軟体動物になったみたいだ。唯一出せる声すら、吐息に混じったくぐもったもので、明瞭さはない。
ほぼ初めてといっても過言でない私にとって、これはハードルが高すぎた。
獣のような、かぁ。
ラストスパートに正常位で揺さぶられながら、バックヤードで聞いたトークを思い出していた。
激しいといって良いのかどうか、比較対象がないからわからないけれど。
これは休みの前日限定にして欲しいと切実に願いながら、貴仁さんの熱を膜越しに受け取ったんだった。
ぴゅう、と吹き抜ける風に花弁が雨のように降りこみ、テーブルのすぐ脇で、小さな桜色の竜巻が起こる。
それが消えてしまうのを名残惜しく見つめてから視線を戻すと、
「今の凄かったね」
と、貴仁さんが目を細めた。
あーんの儀式のあと、半分こでパフェを完食し、あとくちの為に紅茶を飲み終えたところだった。
あのカフェと違い、カップで供される飲み物。アールグレイにミルクを入れる私を、物珍しそうにあなたは見つめていたね。
バレンタインのあと、私への好意を隠さなくなった貴仁さんと、それを受け入れている私を見て、私たちの関係は皆の知るところとなった。
バレンタインに告白をして、という流れを正直に告げたところ、意外にも好意的に受け取られている感じで、おそれていた苦言など、いじめのようなものはない。
だから綺麗になったのね。やっぱり恋は女を変えるんだ、とあの人に従うままだった頃の私には耳の痛いことを言っていたけれど、純粋に嬉しく思う。
なりたい自分に近付けるよう、努力しよう。そう思えるきっかけになった全てのことを胸にしっかりと留めて、前を向いていこう。
あなたがいつも、微笑んでいてくれるから。伸ばした腕の先にいるのが私であれるように、俯いてはいられない。
あふれる想いを視線だけに託さないで、言葉にして伝えていこう。
ずっと傍にいてほしいの。
私だけのあなたでいて欲しいの。
「だいすき」
「俺もだよ」
すっぽりと、大きな手にくるまれて、からだごと包み込まれて。
いま、四つ葉の願いは叶えられている。
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