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First Contact 海へいこう!
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「レディを待たせるなんて失礼ねぇ~。ウォルターらしくもない」
ワンボックスの運転席では、窓を全開にして紫が叫んでいた。声からしてさほど怒っているわけではなさそうだ。
助手席には同年代の男性が乗っていてクックッと笑っていた。
「あーっ、匡さんだ。一緒に来てたんだ」
浩司が気付いて駆け寄っていく。姉は苦手だがこの男性のことは好ましく思っているようだ。
「とにかく女性陣も乗ってっ。話はあとあと!! 暑いんだから」
肘から先で皆に『コイコイ』すると紫は窓を閉めた。折角のエアコンの冷気が勿体無いのだ。
「はいはいっ」
ウォルターと満は、女子たちの背中を押すようにして後部席に乗り込んだ。浩司は既に一番奥に乗っており、途中下車予定の三人を真ん中の列に座らせた。
「いきなり乗せてもらっちゃってすみません」
腰を落ち着けると同時に翔子がペコッと頭を下げた。
「いいってことよ。デートのついでだし、ね、匡」
「ま、な。折角車がデカいんだから、ついでに乗せてもらっとけ」
助手席から、低くて張りのある声が届いた。
「あ、でもそれなら尚更……まだ夕方なのに、デートの途中で引っ張り出しちゃって」
今度はウォルターが申し訳なさそうに言った。
「お前らを無事に送り届けたら、もっぺん出掛けるからさ。今日は集合掛けてあるし。ま、それにうちのモンも浩司とウォルターに世話になってるみたいだしなぁ」
それを聞いて、カッと赤面する浩司。
「ちょっ……姉貴ぃ、匡さんにまでバラしてんのかよっ」
「あらぁ~、あたし匡に隠し事なんて何一つしないものぉ」
紫は優雅な手つきで外国産の煙草を咥えた。カチリと音がして隣からオイルライターが差し出され、ごく自然にそこから火をもらう紫。
ふぅー、と煙を吐いてから「サンキュ」とウインクする紫に頷き返して、匡はオイルライターを胸ポケットにしまった。
後部席では円華が「集合?」と首を傾げている。
「どっかで見たことあると思わない?」
ぽそりと新菜の耳元で囁き、二人してルームミラーを覗き込んだ。丁度ミラー越しに紫と目が合い「ん?」と煙草を咥えたまま、あちらからも見つめられる。
「判った」
唐突に新菜は両手を打ち合わせ、車中の注目を浴びた。が、本人は全くそれに気付いていない様子で円華に目を移した。
「〈KILLER〉のっ」
あ、と円華も新菜を指差し、二人ハモるように、
「「サブリーダー!?」」
驚愕の声が上がった。翔子も確認したかったようだが、そこからは紫の姿が見えないらしい。
「じゃあ隣はリーダーのタスクさん!?」
「何? 俺らってそんなに有名なの?」
匡がシート越しに半身を乗り出すようにして振り向いた。
日に焼けた精悍な顔が後ろの六人にも見えるようになる。
紫外線で少しパサつき気味の茶色の髪は焼けすぎて金色に近くなっている。梳いてある前髪が太い眉に掛かり、他は短く刈り上げてサッパリした印象だ。
男らしさを漂わせる造りの顔は今、女子三人へと向けられていた。
「そりゃあ」
翔子が口を開いたのを皮切りに、
「〈舞姫〉とツルんで走ってっときに、何度もあたしと円華、目前で〈KILLER〉見てっし」
「あの辺の族関係で〈KILLER〉の名知らないやつなんていないんじゃねーの?」
新菜と円華もお互いを見つめて頷きあった。
「まさかお姉さんがサブだったなんて~っ。もう、どうして浩司くん教えてくんなかったのぉ」
謂れのない理由で責められて、振り向いて頭を小突かれた浩司は、
「なんで初対面のヤツにわざわざんな話するんだよ。大体俺はヤンキーもおしゃべりも嫌いなんだよ」
パシンと翔子の手を払いのけた。その時わずかに匡の目が寂しそうに細められ、慌てて弁解する。
「あ、でも走り屋は別だからっ。昔の〈KILLER〉は確かにヤバかったけど、今はマル暴じゃねぇし」
「そういや目撃した時って、いっつも喧嘩の仲裁みたいな感じだったっけ」
思い出し頷く新菜の隣では、俯いた翔子が自分の手を見つめていた。
ワンボックスの運転席では、窓を全開にして紫が叫んでいた。声からしてさほど怒っているわけではなさそうだ。
助手席には同年代の男性が乗っていてクックッと笑っていた。
「あーっ、匡さんだ。一緒に来てたんだ」
浩司が気付いて駆け寄っていく。姉は苦手だがこの男性のことは好ましく思っているようだ。
「とにかく女性陣も乗ってっ。話はあとあと!! 暑いんだから」
肘から先で皆に『コイコイ』すると紫は窓を閉めた。折角のエアコンの冷気が勿体無いのだ。
「はいはいっ」
ウォルターと満は、女子たちの背中を押すようにして後部席に乗り込んだ。浩司は既に一番奥に乗っており、途中下車予定の三人を真ん中の列に座らせた。
「いきなり乗せてもらっちゃってすみません」
腰を落ち着けると同時に翔子がペコッと頭を下げた。
「いいってことよ。デートのついでだし、ね、匡」
「ま、な。折角車がデカいんだから、ついでに乗せてもらっとけ」
助手席から、低くて張りのある声が届いた。
「あ、でもそれなら尚更……まだ夕方なのに、デートの途中で引っ張り出しちゃって」
今度はウォルターが申し訳なさそうに言った。
「お前らを無事に送り届けたら、もっぺん出掛けるからさ。今日は集合掛けてあるし。ま、それにうちのモンも浩司とウォルターに世話になってるみたいだしなぁ」
それを聞いて、カッと赤面する浩司。
「ちょっ……姉貴ぃ、匡さんにまでバラしてんのかよっ」
「あらぁ~、あたし匡に隠し事なんて何一つしないものぉ」
紫は優雅な手つきで外国産の煙草を咥えた。カチリと音がして隣からオイルライターが差し出され、ごく自然にそこから火をもらう紫。
ふぅー、と煙を吐いてから「サンキュ」とウインクする紫に頷き返して、匡はオイルライターを胸ポケットにしまった。
後部席では円華が「集合?」と首を傾げている。
「どっかで見たことあると思わない?」
ぽそりと新菜の耳元で囁き、二人してルームミラーを覗き込んだ。丁度ミラー越しに紫と目が合い「ん?」と煙草を咥えたまま、あちらからも見つめられる。
「判った」
唐突に新菜は両手を打ち合わせ、車中の注目を浴びた。が、本人は全くそれに気付いていない様子で円華に目を移した。
「〈KILLER〉のっ」
あ、と円華も新菜を指差し、二人ハモるように、
「「サブリーダー!?」」
驚愕の声が上がった。翔子も確認したかったようだが、そこからは紫の姿が見えないらしい。
「じゃあ隣はリーダーのタスクさん!?」
「何? 俺らってそんなに有名なの?」
匡がシート越しに半身を乗り出すようにして振り向いた。
日に焼けた精悍な顔が後ろの六人にも見えるようになる。
紫外線で少しパサつき気味の茶色の髪は焼けすぎて金色に近くなっている。梳いてある前髪が太い眉に掛かり、他は短く刈り上げてサッパリした印象だ。
男らしさを漂わせる造りの顔は今、女子三人へと向けられていた。
「そりゃあ」
翔子が口を開いたのを皮切りに、
「〈舞姫〉とツルんで走ってっときに、何度もあたしと円華、目前で〈KILLER〉見てっし」
「あの辺の族関係で〈KILLER〉の名知らないやつなんていないんじゃねーの?」
新菜と円華もお互いを見つめて頷きあった。
「まさかお姉さんがサブだったなんて~っ。もう、どうして浩司くん教えてくんなかったのぉ」
謂れのない理由で責められて、振り向いて頭を小突かれた浩司は、
「なんで初対面のヤツにわざわざんな話するんだよ。大体俺はヤンキーもおしゃべりも嫌いなんだよ」
パシンと翔子の手を払いのけた。その時わずかに匡の目が寂しそうに細められ、慌てて弁解する。
「あ、でも走り屋は別だからっ。昔の〈KILLER〉は確かにヤバかったけど、今はマル暴じゃねぇし」
「そういや目撃した時って、いっつも喧嘩の仲裁みたいな感じだったっけ」
思い出し頷く新菜の隣では、俯いた翔子が自分の手を見つめていた。
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