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Second Contact 王様ゲーム
15
しおりを挟む「美緒さん、あたし」
相手より先にこちらから名乗る。
『何だ、新菜か』
母親の声は明らかにがっかりしていた。「なんだとはなんだよ」と返してから、
「今日ツレんち泊まる」
と用件を述べた。
『ツレって……男かぁ?』
「るっせぇ! 世話だよっ」
からかい口調の母親にきつい口調で答えてから〈切〉ボタンを押した。
口調は乱暴だが、別に嫌っているとかいうわけではない。母親の美緒はまだ三十五歳ということもあり、母一人子一人で姉妹のように生活している。
そのせいもあって名前で呼ばないと返事をしてくれないのだ。信頼関係があるからこその暴言である。
隣の部屋からは翔子の声が聞こえてくる。どうやらあちらでも家へ連絡しているようだった。ほぼ放任されている三人だったが、それなりのけじめはつけているのだ。
新菜は「さんきゅ」と言って携帯電話を元の場所に戻した。
買出しの品々を片付けた円華は、ダイニングの椅子に腰掛けて一服しているところだった。
「手軽に出来るもんばっかりだけど、運んどいてくれる?」
フライパンと菜箸を持ったまま、ウォルターが隣の部屋を指し示した。ダイニングキッチンからドアで仕切られたリビングが見える。それだけで十二畳ほどの広さがあり、テレビから近い場所にテーブルが据えられていて、浩司が台拭きで拭いていた。
フローリングの上にはコンポが直置きされていてスピーカーセットもかなりものが良さそうだ。テーブルを囲むように布張りのソファーがあり、ウォルターは普段此処でくつろいでいるのかもしれない。部屋の片隅には小さな食器棚もあり、ブランデーなどの瓶が見えている。
つまみの盛られた皿を円華と新菜で運び、エプロンを外したウォルターが「何飲む?」と言いながらやってきて、棚の中身を把握しているらしい浩司が銘柄をリクエストした。
ウォルターがアイスピックで大きな氷を砕いてアイスペールに入れている間に、まずはビールという新菜と満の為に自分のも含めて円華が冷えた缶を冷蔵庫から出してきた。
翔子は浩司がブランデーを飲むと聞いて、右に習えしてしまっている。新菜が皆のグラスを水屋から取り出している間に、翔子は菓子の袋を開けてつまみ食い。
全くもぉ、と思いつつも、浩司の隣で嬉しそうに喋っている翔子が微笑ましかった。
「はい、新菜」
目の前に円華がトレイを置いた。ピッチャーやアイスペール、マドラーなど給仕に必要な物が一揃い載っている。
「現役なんだから」
にぃーと笑う円華の言葉に、隣の満が目を丸くした。
「え。新菜ちゃん飲み屋で働いてんの!?」
いらんことばっかいいやがって、と新菜は円華を睨んだが、円華はそれを無視して代わりに満に説明している。
「新菜の母親が店出してて、たまに手伝ってるって程度だけどね。家事手伝いってことになるんかなぁ」
へぇーと感心している満から顔を隠すように、新菜は黙ってグラスに氷を入れた。
そこへウォルターがボトルを置いたので、早速ロックグラスに浩司とウォルターの分を入れて翔子の為に水割りを作ってから次々と回して行く。
先程円華が持ってきた缶からビアグラスに注いでそれぞれに渡すと、それを待っていた満が新菜にもグラスを持たせて注いでくれた。
「では」とウォルターがグラスを掲げた。皆が同じようにするのを待ってから、
「六人の出会いに乾杯!!」
「かんぱーいっ」
口々に言ってはカチリとグラスを合わせ、直後に円華が一息に飲み干した。
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