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Fourth Contact きみが好き
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「たっだいまーっ」
玄関から声がし、パタパタという足音と共にひょこっと進の顔がダイニングに覗いた。
「お帰りなさい」「おかえり」
両親の声の後に「お邪魔っ」と浩司の声が続く。
丁度三人で食後のデザートを食べているところだった。洗ったばかりのニューピオーネが所々に水滴を煌かせつつガラスの器にどんと盛られている。
「すぐ食べる?」
と訊く母に、
「取り敢えず着替えてくる」
と答えると、進は二階の自室へ上がって行った。
しばらくしてTシャツとイージーパンツに着替えて下りてきた時には、テーブルの上に進の分の食事が並べられていた。
律儀に両手を合わせて「いただきます」を言ったと思うと、ものの五分で食器は全て空になった。せかせかと席を立とうとする息子に呆れ声で「ピオーネは?」と母の声が掛かる。
「今いいっ。風呂入ってから食うっ」
答えながら、浩司を促して二階へと二人は上がって行った。
パタンとドアを閉めて床に座り込むと、ようやく落ち着いたのか進はふはーっと息を吐いた。
「何かいい事あった?」
長年の勘から浩司が言った。食後の一服が欲しいところだが、進の部屋なので吸うのは控えている。進は少し照れ笑いをすると、こくんと頷いた。
「美川にもらった」
そう言って差し出された袋は、浩司にとって見覚えのある物だった。
「良かったじゃん。中見たのか?」
問うと、進はふるふると首を横に振った。
「浩司と一緒に見ようと思って」
当たり前のように言われて、浩司の胸がキュッと締め付けられる。
(実は二人で一緒に選んだんだって言おうか……。
今じゃないと、もう言えなくなっちまう。
けど、美川が言ってねぇのに俺が言うのも変だよな。
進に余計な心配掛けたくねーし、言わなくって済むんなら、言わんでいいよな?)
心の中の葛藤とは裏腹に、自分の持って来た袋を差し出し、隣に並べた。
「じゃ、俺からのも一緒に開けて」
進は更に破顔すると、
「憶えててくれたんだぁ」
と袋を手に取った。
「当たり前だろ。毎年ちゃんとプレゼントしてるじゃん」
わざとらしく胸を張ると「うん。そうなんだけど」と曖昧な笑みで返される。
口にはしないけれど、最近ずっとウォルターや満と行動を共にしているのを見て、今年は忘れられるだろうと思っていたのだった。
はっきり言って、進自身は二人とはさほど親しくしていない。友達の一人ではあるだろうが、学園から出てしまえば接点は無いも同然の仲だった。
二人とも誰とでもそれなりに打ち解けるので、その表面上の友人付き合いをしているだけだ。
浩司にとってもそれは同じだろうと踏んでいたのに、どうもここの所雲行きが怪しい。
それだから、久し振りにではあるがこうして浩司が遊びに来てくれたことが嬉しく、誕生日を覚えていてくれたことも尚更しみじみと感じ入ってしまうのだった。
まずは浩司の方の包みをガサガサ音を立てながら開けた。
中からは滑らかな手触りのレザーキャップと、蛍光色の靴紐が出て来た。
「わぉ。これって、あの雑誌に載ってたやつじゃん」
「ん。確かそのキャップ欲しがってたと思って……たまたま入った店で取り扱ってたからさ。靴紐はオマケな。毎日履いてたら汚れるだろ」
通学も部活もそれぞれにスポーツ用のシューズを履くので、紐の汚れだって軽視できないのである。その点浩司は通学は革靴なのであまり関係はないのだったが、進の事となると何でも把握しているのだ。
「サンキュ」
進は被り心地を確かめると、もう一つの袋を開けた。箱を取り出し、その中からサッカー用のスパイクが出てくると顔が輝いた。
「おっ、かっこいー、これ」
胸に抱くように両手で持ち、
「すっげーナイスタイミングだよなぁ。そろそろ欲しかったけど、金無かったんだぁ。オフクロに言っても『まだ履ける!!』つって、なかなか金くんねーし」
言いながら軽く掛けてある状態の靴紐を解くと、
「これにさっきの靴紐通せば丁度いいじゃん」
と浩司が買ったものを通し、早速履いてみてご満悦の様子だ。
浩司はやや居心地の悪いものを感じていたものの、喜んでもらえて良かったと安堵していた。
玄関から声がし、パタパタという足音と共にひょこっと進の顔がダイニングに覗いた。
「お帰りなさい」「おかえり」
両親の声の後に「お邪魔っ」と浩司の声が続く。
丁度三人で食後のデザートを食べているところだった。洗ったばかりのニューピオーネが所々に水滴を煌かせつつガラスの器にどんと盛られている。
「すぐ食べる?」
と訊く母に、
「取り敢えず着替えてくる」
と答えると、進は二階の自室へ上がって行った。
しばらくしてTシャツとイージーパンツに着替えて下りてきた時には、テーブルの上に進の分の食事が並べられていた。
律儀に両手を合わせて「いただきます」を言ったと思うと、ものの五分で食器は全て空になった。せかせかと席を立とうとする息子に呆れ声で「ピオーネは?」と母の声が掛かる。
「今いいっ。風呂入ってから食うっ」
答えながら、浩司を促して二階へと二人は上がって行った。
パタンとドアを閉めて床に座り込むと、ようやく落ち着いたのか進はふはーっと息を吐いた。
「何かいい事あった?」
長年の勘から浩司が言った。食後の一服が欲しいところだが、進の部屋なので吸うのは控えている。進は少し照れ笑いをすると、こくんと頷いた。
「美川にもらった」
そう言って差し出された袋は、浩司にとって見覚えのある物だった。
「良かったじゃん。中見たのか?」
問うと、進はふるふると首を横に振った。
「浩司と一緒に見ようと思って」
当たり前のように言われて、浩司の胸がキュッと締め付けられる。
(実は二人で一緒に選んだんだって言おうか……。
今じゃないと、もう言えなくなっちまう。
けど、美川が言ってねぇのに俺が言うのも変だよな。
進に余計な心配掛けたくねーし、言わなくって済むんなら、言わんでいいよな?)
心の中の葛藤とは裏腹に、自分の持って来た袋を差し出し、隣に並べた。
「じゃ、俺からのも一緒に開けて」
進は更に破顔すると、
「憶えててくれたんだぁ」
と袋を手に取った。
「当たり前だろ。毎年ちゃんとプレゼントしてるじゃん」
わざとらしく胸を張ると「うん。そうなんだけど」と曖昧な笑みで返される。
口にはしないけれど、最近ずっとウォルターや満と行動を共にしているのを見て、今年は忘れられるだろうと思っていたのだった。
はっきり言って、進自身は二人とはさほど親しくしていない。友達の一人ではあるだろうが、学園から出てしまえば接点は無いも同然の仲だった。
二人とも誰とでもそれなりに打ち解けるので、その表面上の友人付き合いをしているだけだ。
浩司にとってもそれは同じだろうと踏んでいたのに、どうもここの所雲行きが怪しい。
それだから、久し振りにではあるがこうして浩司が遊びに来てくれたことが嬉しく、誕生日を覚えていてくれたことも尚更しみじみと感じ入ってしまうのだった。
まずは浩司の方の包みをガサガサ音を立てながら開けた。
中からは滑らかな手触りのレザーキャップと、蛍光色の靴紐が出て来た。
「わぉ。これって、あの雑誌に載ってたやつじゃん」
「ん。確かそのキャップ欲しがってたと思って……たまたま入った店で取り扱ってたからさ。靴紐はオマケな。毎日履いてたら汚れるだろ」
通学も部活もそれぞれにスポーツ用のシューズを履くので、紐の汚れだって軽視できないのである。その点浩司は通学は革靴なのであまり関係はないのだったが、進の事となると何でも把握しているのだ。
「サンキュ」
進は被り心地を確かめると、もう一つの袋を開けた。箱を取り出し、その中からサッカー用のスパイクが出てくると顔が輝いた。
「おっ、かっこいー、これ」
胸に抱くように両手で持ち、
「すっげーナイスタイミングだよなぁ。そろそろ欲しかったけど、金無かったんだぁ。オフクロに言っても『まだ履ける!!』つって、なかなか金くんねーし」
言いながら軽く掛けてある状態の靴紐を解くと、
「これにさっきの靴紐通せば丁度いいじゃん」
と浩司が買ったものを通し、早速履いてみてご満悦の様子だ。
浩司はやや居心地の悪いものを感じていたものの、喜んでもらえて良かったと安堵していた。
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