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Fourth Contact きみが好き
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「そう言えばさぁ……こないだの相談の件、どうなったの?」
話題を変えたということは、もう追求はしないらしい。円華はハンドバッグから煙草とライターを取り出しながら、「あぁ……あれ、ねぇー」と言葉を濁し、煙草を一本指に挟んだまま、
「あのまんまだったりすんだよなぁ、これが……」
と言ってから、口に咥えて火を点けた。
ゆっくり吸い込んでから、横を向いてふぅーっと大きく吐き出す。吐息のように。
「なかなか言い出す機会がないのもそーなんだけど、第一に告白ってもんをした事がねぇから、どう切り出したらいいもんかも判んなくて……」
「そっか」
ウォルターはガラスの灰皿をスッと円華の前に置くと、二杯目のシャンパンを飲んだ。
「――何なら、今電話してみたら? 一人だと勇気出なくても俺が居たら少しは気の持ちようも違うだろ。あ、勿論聞かれたら恥ずかしいんだったら、部屋出てくから」
円華をじいっと見つめる瞳は真剣な色をしている。
「今? 冗談っしょ?」
円華はケラケラ笑って流そうとしたが、無言で見つめられたままなので、笑いを引っ込めた。
「んなっ! 心の準備だってあんしっ。それに、あいつが家に居る事って少ねーのに」
耳まで赤くなり、円華は一旦煙草を置くとフォークに持ち替えてサラダを食べ始めた。
「準備って? あの電話から結構経つけど?」
ウォルターは手酌でお代わりを注ぎ、またそれを飲み干す。
「一人じゃいつまで経っても踏ん切りがつかないんだろ。だから、俺が背中押してあげる。そういうきっかけも必要だろ?
家にいなけりゃいないで別に構わないし」
「でも……」
フォークを噛んで俯く円華。
(今日のウォルター、なんか厳しいっつーか……口調は優しいのに、なんかキツイよ……)
ウォルター自身もあまり意識していないのだが、普段円満に過ごそうとするあまり一人一人に対して表面的な優しさだけで接する彼にとっては、珍しい態度なのだ。
この場に浩司がいれば気付いたかもしれないが、生憎二人きりのためそれは指摘されること無く――
「何から言えばいーのかも……突然『好きです』とか『付き合ってくれ』とかってゆーのぉ?」
円華は俯いたままモジモジと上目遣いで質問した。
「マドカの思ってる事を、そのまんま言葉にすればいいんだよ。相手もちゃんと聞いてくれるって。嘘偽り無く、自分の言葉でさ。
あ、さっきみたくひねくれた言い方はタブーだかんね」
そう答えてぱりぱりとレタスを噛むと、ウォルターは円華にお代わりを注いでくれた。
「ん―――――……」
それでもしばし悩んだ挙句、
「けど、今、崖っぷちに立ってる状態じゃん。言ったって返事判ってっから、どーせ飛び降りるだけなんだしぃ……」
いざそうなると勇気が出ず、フラれた後の事ばかりが円華の頭の中を埋め尽くす。
「言った後、今までみたく言い合い出来なくなるなら、今までの方が……」
どんどん弱気になり、声も頼りなくなって行く。
「人には告白しろとか言ってるくせして、自分じゃ言えねぇんだよなあ。あー、情けねぇ」
とうとうカタンとフォークを置くと、円華は俯いたまま前髪を掻き上げた。
ウォルターは「ふぅん」とだけ言って、黙々とサラダを食べ終えてから、
「じゃあマドカは、苦しいまんまでも現状維持の方がいいって事?」
と首を傾げた。
「今だってそりゃ辛い。けど、気軽に話せなくなるのは、もっと苦しい」
円華は灰皿に置いていた煙草を手にし、長くなってしまった灰を落とした。
「だけど、前にウォルター言ったじゃん。『言ってみなきゃあ何も始まんない』って。言わずに後悔するより、言って後悔した方がいいって、今そう思ってる」
「ん」とウォルターはようやく笑顔を見せた。
「気持ちの踏ん切りが付かないと、新しい恋も始まらないよ。それと、マドカは振られる方にしか考えてないけど、もしかしたらって事もあるじゃん。向こうだって、告白されて初めて女として意識するんだろうからさぁ……。
ひょっとして、この先いい事あるかもよ?」
いつもの調子で軽く言うウォルターに、円華はくすりと笑みを浮かべた。
話題を変えたということは、もう追求はしないらしい。円華はハンドバッグから煙草とライターを取り出しながら、「あぁ……あれ、ねぇー」と言葉を濁し、煙草を一本指に挟んだまま、
「あのまんまだったりすんだよなぁ、これが……」
と言ってから、口に咥えて火を点けた。
ゆっくり吸い込んでから、横を向いてふぅーっと大きく吐き出す。吐息のように。
「なかなか言い出す機会がないのもそーなんだけど、第一に告白ってもんをした事がねぇから、どう切り出したらいいもんかも判んなくて……」
「そっか」
ウォルターはガラスの灰皿をスッと円華の前に置くと、二杯目のシャンパンを飲んだ。
「――何なら、今電話してみたら? 一人だと勇気出なくても俺が居たら少しは気の持ちようも違うだろ。あ、勿論聞かれたら恥ずかしいんだったら、部屋出てくから」
円華をじいっと見つめる瞳は真剣な色をしている。
「今? 冗談っしょ?」
円華はケラケラ笑って流そうとしたが、無言で見つめられたままなので、笑いを引っ込めた。
「んなっ! 心の準備だってあんしっ。それに、あいつが家に居る事って少ねーのに」
耳まで赤くなり、円華は一旦煙草を置くとフォークに持ち替えてサラダを食べ始めた。
「準備って? あの電話から結構経つけど?」
ウォルターは手酌でお代わりを注ぎ、またそれを飲み干す。
「一人じゃいつまで経っても踏ん切りがつかないんだろ。だから、俺が背中押してあげる。そういうきっかけも必要だろ?
家にいなけりゃいないで別に構わないし」
「でも……」
フォークを噛んで俯く円華。
(今日のウォルター、なんか厳しいっつーか……口調は優しいのに、なんかキツイよ……)
ウォルター自身もあまり意識していないのだが、普段円満に過ごそうとするあまり一人一人に対して表面的な優しさだけで接する彼にとっては、珍しい態度なのだ。
この場に浩司がいれば気付いたかもしれないが、生憎二人きりのためそれは指摘されること無く――
「何から言えばいーのかも……突然『好きです』とか『付き合ってくれ』とかってゆーのぉ?」
円華は俯いたままモジモジと上目遣いで質問した。
「マドカの思ってる事を、そのまんま言葉にすればいいんだよ。相手もちゃんと聞いてくれるって。嘘偽り無く、自分の言葉でさ。
あ、さっきみたくひねくれた言い方はタブーだかんね」
そう答えてぱりぱりとレタスを噛むと、ウォルターは円華にお代わりを注いでくれた。
「ん―――――……」
それでもしばし悩んだ挙句、
「けど、今、崖っぷちに立ってる状態じゃん。言ったって返事判ってっから、どーせ飛び降りるだけなんだしぃ……」
いざそうなると勇気が出ず、フラれた後の事ばかりが円華の頭の中を埋め尽くす。
「言った後、今までみたく言い合い出来なくなるなら、今までの方が……」
どんどん弱気になり、声も頼りなくなって行く。
「人には告白しろとか言ってるくせして、自分じゃ言えねぇんだよなあ。あー、情けねぇ」
とうとうカタンとフォークを置くと、円華は俯いたまま前髪を掻き上げた。
ウォルターは「ふぅん」とだけ言って、黙々とサラダを食べ終えてから、
「じゃあマドカは、苦しいまんまでも現状維持の方がいいって事?」
と首を傾げた。
「今だってそりゃ辛い。けど、気軽に話せなくなるのは、もっと苦しい」
円華は灰皿に置いていた煙草を手にし、長くなってしまった灰を落とした。
「だけど、前にウォルター言ったじゃん。『言ってみなきゃあ何も始まんない』って。言わずに後悔するより、言って後悔した方がいいって、今そう思ってる」
「ん」とウォルターはようやく笑顔を見せた。
「気持ちの踏ん切りが付かないと、新しい恋も始まらないよ。それと、マドカは振られる方にしか考えてないけど、もしかしたらって事もあるじゃん。向こうだって、告白されて初めて女として意識するんだろうからさぁ……。
ひょっとして、この先いい事あるかもよ?」
いつもの調子で軽く言うウォルターに、円華はくすりと笑みを浮かべた。
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