Complex

亨珈

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Fifth Contact 笑顔の行方

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「おい! ぶつかっといて謝りもねぇのかよ?」

「あぁ?」

 新菜は面倒臭そうに振り向き、仕方なく足を止める。

「ぶつかって来たんは、そっちっしょ」

「いいから謝れよ。ここに頭擦り付けて」

 普通に返答する新菜に向かい、ショートカットの女が、足でトントンと床を鳴らしながら睨んで来た。全員星野原のブレザーを着ているが、新菜が着ている制服のようにスカートの丈は長い。何処にでもいるもんだなぁと変な感慨に浸る新菜。

「何であたしが?」

 五人に相対する形に体を向け、腕を組む。

「何でだぁ?」

「そーゆー面いっちゃんムカつく」

「大体、ド派手な格好してよそのガッコで目立ちまくってんじゃねーよっ」

「自分トコでだけヒロインしてりゃあいーんだよっ」

「目障りなんだよ」

 などなど言いたい放題。多数なのでいい気になっているのか、腕を組んでガンまでくれている。
 やれやれ、と新菜は前髪を掻き上げるとにこりと笑った。

「知ってましたぁ? そうやって複数で一人の女の子をいじめるのを〈卑怯者〉って言うんですよぉ」

「卑怯者ォ? 昨日今日と満らを独占してるテメーらの方が卑怯で汚ねーんじゃねえのかぁ!?」

(あ、やっぱそーゆー事……。満くんらのファンのお姉さま方っつーワケだ)

 噛み付いてくる女たちを前に、新菜は得心した。

「あたしが思うに、好きな男の前でだけいい子ぶってるテメーらの方が、よっぽど汚ねえって」

 微笑んだまま異議を唱える。

「何だって!?」

「他校生に色目使ってんじゃねぇよっ!」

(色目だあ?)

 新菜の目が厳しくなる。

「どうせ体を使ってしか男をモノに出来ねえくせに」

「肌露出して、満たちを誘ったんじゃねぇのか?」

「満がテメーらに本気になんかなる思ってんの? だとしたら、大した自信だよなあ」

「満、優しいからイヤだって言えねえのが判んねぇのかよっ」

 そこまで言われて、プツッと何かが切れる音がしたのを感じた。握り拳を作ると、真横の鏡を思い切り殴っていた。ガシャンッと音がして周りに破片が散らばり、新菜の手の甲は血で赤く染まっていく。
 女たちはそれに一瞬怯んだものの、負けじと更に険しい顔で新菜を睨み付けて来た。

「女の適度の嫉妬って可愛いけど、それを越すとただの鬱陶しい女なんだよなぁ」

 少し足を開くと、斜めから全員をねめつける様に睨み返した。

「お姉さま方、もしかしてあたしに喧嘩売ってんの? 売ってんだったら、遠慮なく買わせて頂くけど?」

(まさかホントに星野原の校舎内で、喧嘩ふっかけられるたぁ思ってなかったけど)

 外から見るのと実態は違っていたということだろう。何処の学校でも全員が上品というわけにはいかないのだ。

「一人じゃ何も出来やしねえくせに、数が増えるとおーげん切りやがって!」

「何ィ!?」

「だってそうだろ。わざわざあたしらん中のもんが、一人になるのをここぞとばかりに待ってたくせして」

 ケッ、と新菜は視線をそのままに顔だけ横に向けた。

「んな口叩いて私らに喧嘩売った事、後悔すんなよっ!」

 最初のソバージュの女が、新菜の前に立った。

(だからぁ、喧嘩売ってんのはテメーらだろっ)

 呆れる新菜の上段に女の蹴りが入ろうとしたが、反射的に素早くしゃがんでそれをかわすと、その女の鳩尾に向けた肘鉄が気持ち良く入った。
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