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Fifth Contact 笑顔の行方
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「何がなんだか良く判んないけど……ともかく、放っといてオレらは楽しんどきゃいいって事? かな」
中庭の噴水まで移動した四人は、ベンチに腰掛けてボーっと水が踊るのを眺めていた。
独白めいた満の呟きの後、ウォルターが、
「ファイナルまで時間あるし、ちょっと抜けてビリヤードして暇潰す?」
と提案しながら、皆の顔を見回した。
「あ、それいいかも。日が暮れてからだしなあ。歩いて行ける距離だし」
満が返答し、新菜と円華も「別にいいよ」と賛成した。待ち時間があったとしても、ナインボール一ゲームくらいは出来るだろう。
そうして四人が腰を上げた時、校門の方からスーツ姿の人影が二つ早足で近付いて来るのが目に入った。一人は黒髪黒目の壮年だったが、銀を散りばめたような不思議な髪の色だった。もう一人はなんと透ける様な銀髪の青年で、恐らく二十代後半くらいだろう。陽光にやや紫色に輝く髪は肩から緩く編まれて腰まで垂れ下がっている。どう見てもこの国の住人ではない。近付くにつれ、瞳も紫に近い青色だと判った。
ボーっと見惚れながらも、何となく新菜と円華の視線はウォルターへと移る。当のウォルターは「げっ」と呻いて顰め面、そして隣の満も複雑な表情で「親父」と口にした。
あっという間に至近距離まで来た青年が、「ウォルターさま」と口を開いた。女性かと見まごうばかりの美しさである。
「――何だよ、キエラ。母上の傍に居なくていいのか?」
少々渋面になりつつも、何か厄介事でも起こったのかと、心配げにウォルターは尋ねた。
「一旦お戻り下さい」
質問には答えず、キエラはきっぱりと告げた。
「何だよー、一体……」
困惑顔で髪を掻き上げ、ウォルターは三人をチラリと見た。円華と新菜は当然訳が分からず、一人事情が飲み込めている満が、「いいから行けよ」と目で訴えながら頷いた。
「理由は後程」
キエラの傍らで、満の父親であるショウが短く言った。職務中である為か、息子には話し掛けて来ない。
ウォルターは逡巡したものの、大きく息を吐いてから、
「ごめんな、今日の約束キャンセル」
と円華に向けて片手を挙げてから頭を下げた。
「また今度遊ぼうな」
もう一度皆に詫びを入れてから、ウォルターとその二人の男性は学園を出て行ってしまったのだった。
去り際に二人にも会釈をされたものの、円華と新菜にとってはまさに青天の霹靂で、未だに何一つ判っていない。
「何? 今の……」
「さあ?」
三人が去った方向から目を逸らせないまま、呆然と口を開く。
「ウォルター、さまぁ!?」
思い出したかのように叫ぶ円華が、満を見つめた。
「さま、つってもしかしてウォルターって、いいトコのおぼっちゃま?」
「つう事になるかな」
肩を竦めながらの返答に、二人は顔を歪める。
「み、見えない……」
新菜が呟き、円華は一瞬絶句してからケラケラと笑い出した。
「自分で掃除してご飯作って、一体どこのぼっちゃまなんだか! 信じらんねぇ~っ。あのウォルターがねぇ……」
盛大に笑い飛ばして追求する様子のない二人に、満は内心ホッとしていた。ウォルターの出身は、誰にも明かせないトップシークレットなのだから。また、普通の留学生として大学卒業までこちらで暮らす予定の本人も、普通の友人として扱われる事を望んでいる。
ひとしきり笑ってから、
「で、いつ帰ってくんの?」
真顔の円華に尋ねられ、「さぁ……?」と困り顔で肩を竦めるしかない満だった。
中庭の噴水まで移動した四人は、ベンチに腰掛けてボーっと水が踊るのを眺めていた。
独白めいた満の呟きの後、ウォルターが、
「ファイナルまで時間あるし、ちょっと抜けてビリヤードして暇潰す?」
と提案しながら、皆の顔を見回した。
「あ、それいいかも。日が暮れてからだしなあ。歩いて行ける距離だし」
満が返答し、新菜と円華も「別にいいよ」と賛成した。待ち時間があったとしても、ナインボール一ゲームくらいは出来るだろう。
そうして四人が腰を上げた時、校門の方からスーツ姿の人影が二つ早足で近付いて来るのが目に入った。一人は黒髪黒目の壮年だったが、銀を散りばめたような不思議な髪の色だった。もう一人はなんと透ける様な銀髪の青年で、恐らく二十代後半くらいだろう。陽光にやや紫色に輝く髪は肩から緩く編まれて腰まで垂れ下がっている。どう見てもこの国の住人ではない。近付くにつれ、瞳も紫に近い青色だと判った。
ボーっと見惚れながらも、何となく新菜と円華の視線はウォルターへと移る。当のウォルターは「げっ」と呻いて顰め面、そして隣の満も複雑な表情で「親父」と口にした。
あっという間に至近距離まで来た青年が、「ウォルターさま」と口を開いた。女性かと見まごうばかりの美しさである。
「――何だよ、キエラ。母上の傍に居なくていいのか?」
少々渋面になりつつも、何か厄介事でも起こったのかと、心配げにウォルターは尋ねた。
「一旦お戻り下さい」
質問には答えず、キエラはきっぱりと告げた。
「何だよー、一体……」
困惑顔で髪を掻き上げ、ウォルターは三人をチラリと見た。円華と新菜は当然訳が分からず、一人事情が飲み込めている満が、「いいから行けよ」と目で訴えながら頷いた。
「理由は後程」
キエラの傍らで、満の父親であるショウが短く言った。職務中である為か、息子には話し掛けて来ない。
ウォルターは逡巡したものの、大きく息を吐いてから、
「ごめんな、今日の約束キャンセル」
と円華に向けて片手を挙げてから頭を下げた。
「また今度遊ぼうな」
もう一度皆に詫びを入れてから、ウォルターとその二人の男性は学園を出て行ってしまったのだった。
去り際に二人にも会釈をされたものの、円華と新菜にとってはまさに青天の霹靂で、未だに何一つ判っていない。
「何? 今の……」
「さあ?」
三人が去った方向から目を逸らせないまま、呆然と口を開く。
「ウォルター、さまぁ!?」
思い出したかのように叫ぶ円華が、満を見つめた。
「さま、つってもしかしてウォルターって、いいトコのおぼっちゃま?」
「つう事になるかな」
肩を竦めながらの返答に、二人は顔を歪める。
「み、見えない……」
新菜が呟き、円華は一瞬絶句してからケラケラと笑い出した。
「自分で掃除してご飯作って、一体どこのぼっちゃまなんだか! 信じらんねぇ~っ。あのウォルターがねぇ……」
盛大に笑い飛ばして追求する様子のない二人に、満は内心ホッとしていた。ウォルターの出身は、誰にも明かせないトップシークレットなのだから。また、普通の留学生として大学卒業までこちらで暮らす予定の本人も、普通の友人として扱われる事を望んでいる。
ひとしきり笑ってから、
「で、いつ帰ってくんの?」
真顔の円華に尋ねられ、「さぁ……?」と困り顔で肩を竦めるしかない満だった。
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