Complex

亨珈

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Sixth Contact SAY YES

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「よっ、満。元気?」

 廊下で擦れ違い様に頭をはたかれ、クラスメイトと談笑していた満は振り返った。女子二人をお供に連れて、体半分自分の方へ向けて足を止めているウォルターに向かって、Vサインをぐっと突き出す。そして、

「なぁ、あれから会ってる?」

 と少し迷いながら尋ねた。
 あれからもう次の週末がやって来ている。先刻四限が終わり、あとは清掃してホームルームだけで放課後となる。勿論満はその後部活動があるのだけれど。

「いんや。また気が向いたらな」

 ウォルターは短く返すと、「んじゃな」と女子二人と去って行った。

(んな事言ったって……ウォルターの気が向く事なんて滅多にないくせに。ああいう風に言う時って、マジで動かないかんな……)

 後ろ姿を見つめながら胸の痛みを覚え、満は嘆息した。

(どーしよ……オレのせいでバラバラになっちまうよ。ウォルターだって本当は円華ちゃんに会いたいんじゃねーのかよ?
 普通だったら、女子高生なんかとは、遊びでも付き合わねえくせに……。いつもだったら、ナンパしても一日遊ぶだけで終わらせて、それだってよっぽど好みの女じゃねーと誘わないってのに。
 絶対円華ちゃんは別格だと思ってたんだけどなあ……。
 あーっ! ウォルターの気持ちってわっかんねえっ! 軸谷とだって、あれっきり校内でも会わねえしっ、どうしたらいいんだよぉ……!?)

 一人悶々とする満に気が付き、廊下を歩いて来た女生徒が背中を叩いた。

「えっのもっとくん! 何やってんのぉー?」

 バシンっと結構大きな音がし、「いてえなぁー」と唸りながらそちらを向くと、野球部マネージャーの木村里子がにこにこ笑っていた。

「掃除、もう始まっちゃうよ。サボんないでよ?」

 腰に手を当てて、強い口調で言う。いかにも世話好きといった感じの少女だ。グラウンドにいる時間が長いせいか、肩口でざっくりと切っている髪は日焼けで茶色くパサつき気味である。

「分かってるって」

「それと、明日の練習試合も忘れないでよっ」

「んなの部活ん時、言やあいいだろ」

「だって榎本くんってば、サボリの常習犯なんだもん。顔合わせた時に言っとかなきゃ、後で『聞いてねえ』って言われても困るもんっ」

 冗談半分で睨む里子から視線を逸らし、満は「はいはい」と生返事をした。

「じゃ、放課後にねっ」

 里子はきっちりと念を押すと、自分の清掃場所へと向かって行った。「しょーがねえなぁ……」とぼやきつつも、満も気持ちがほぐれた事にホッと胸を撫で下ろし、

(お節介の木村ちゃんも、たまには役に立つじゃん)

 と、心の中で憎まれ口を叩いたのだった。







(今日は久々にペスカトーレにするか)

 放課後、一旦帰宅して服を着替えてから、ウォルターは買い物に来ていた。電車で一駅隣の大手スーパーまでわざわざ足を運んでいる。食材にも気を遣う方なのだ。

(それと、後は野菜サラダ作ろ)

 一つ一つ手に取って、実の詰まっているキャベツを選んでいる時、

「珍しいトコで会うわね」

 と、傍らに女性が立った。

「百合サン……今仕事の帰り?」

 キャベツを籠に入れて、ウォルターは右隣の女性を見遣った。仕事用に髪を編み、グレーのスーツを清楚に着こなしている。

「そうなの。でも部屋以外でウォルターと会うのって、出会った日以来ね。何か新鮮だな」

 百合は嬉しそうに笑った。
 ウォルターは特に考え込むでもなく、

「今晩用事ないんだったら、ご飯作るよ」

 と口にした。

「来てくれるの? やったぁーっ」

 百合は飛び上がらんばかりに喜び、周りの視線に気付いて赤面した。

「実はそろそろ会いたいと思ってたトコだったんだ」

 本当は全くそんな事はなかったのだが、ウォルターは柔らかく微笑んだ。

「ほんと? じゃあとっときのドンペリ出すね」

「らっき。期待してる」

「任しといてっ」

 つまみをあれこれと品定めする百合に付いて回りながら、可愛らしい人だよな、とウォルターの眼差しが和らぐ。
 今この瞬間に百合を大切に思うのも事実なのである。それは、一般に言う〈恋人同士〉のそれとは異なっている事は確かだったけれど。
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