悪役令嬢? いえ私は、騎士になります。

桜咲 京華

文字の大きさ
6 / 37
異世界転生ー私は騎士になりますー

6 訓練開始

しおりを挟む
 持っていた木剣が弾かれて飛ばされ、私も地面にたたきつけられ、「ぅあんっ!」と自分の喉から漏れたとは思えない可愛らしい悲鳴が漏れた。

「勝負あり!」
「また負けた……」

 立ち上がって周囲をハラハラと見守っていた侍女が集ってくるのを手で制しながら身体についた砂を自分で払う。
 私は今、周囲にいる侍女と同じ訓練着を着ている。丈の短い腰を紐で縛るタイプのワンピースに、ゆったりとしたシルエットのズボン。そしてヒールのついていない靴。
 胸を押しつぶすような形のコルセットのおかげで飛んだり跳ねたりしても胸部が揺れず動きやすい。
 右側の胸の上のあたりにヴィラント家の象徴である紫の瞳を持つ黒豹のマークが刺繍されているのが特長だ。
 戦場ではこのマークが刺繍された軍機を掲げていたらしい。

 ようやく訓練に参加する許可がおりて、走り込みや準備運動の後、侍女の一人であるミンネとの模擬戦までこぎつけた。ここまでが大変だった。
 走り込みも準備運動もクロウツィアはかなり減免されていたのを使用人たちと同じものにしてもらったのだが、かなりキツイ。
 初日などは走り込みだけで疲れ果ててしまったし、翌日は筋肉痛に陥った為に訓練参加は見送られた。
 その翌日は準備運動までたどり着いたもののそこでギブアップというか気絶した。
 実はこれでも手加減されているのを知っている。だって他の使用人達の訓練の様子は見えているから。でもいきなりあれは無理。死ぬ。
 そして一日挟んで今日。
 ようやく戦闘訓練までこぎつけたのだが、あっさり負けた。

 まず訓練用の剣が重いのだ。
 クロウツィア自身はこれの扱いに多少慣れていたが、私は竹刀しか使ったことが無いので自分の剣道をうまく活かせない。
 結果クロウツィアとしての戦い方しか出来ず、我が家の使用人の中では最弱と言われるミンネにすら勝てない。これで本当に騎士になれるのか、疑問だ。

 ちなみにカーラは侍女では最強で、使用人全員の中でも十指に入る実力者らしく、あの日の飛来した剣も、私が割り込まなければ避けられたらしい。私が割り込んで一人で転んで捻挫した感じで滅茶苦茶恥ずかしい話だ……解せぬ。

「今日は終了です。お父上が戻られますのでご準備を」
「あぁ、今日だったっけ」

 身体の砂を払った手も打ち合わせて払い、お風呂へ向かう。
 このお風呂のお湯にはマノンと呼ばれる薬草が浮かんでいて、このマノンの効果で身体についた細かい傷はみるみる治る。そう、この世界には魔法は存在しないけどポーションのようなものが存在していて、よほど大きな傷で無ければ治る。

 私の捻挫が三日と言わず二日程で治っていたのもこのお風呂のおかげだ。
 見た目にはパクチーみたいな葉っぱで、食べることは出来るが美味しくはない。
 かなり高価なものなので、平民はよほど大きな怪我でなければ使わないらしいが、ヴィンターベルトはその栽培を担っている領地なので、入浴剤代わりにするような贅沢な使い方をしている。
 おかげで私はお肌がつるつるだ。
 使用人達はさすがにそんな使い方はしていないが、ある程度傷を負うとマノンで作ったポーションのようなもの……マノン・ヴィーノで治すようにしているので傷跡の残っている者はいない。
 
 マノンは我が領地の主産物で。
 王から領地を貰えると決まった時に希望したのがこの土地だったのがヴィンターベルトの始まりらしい。確かに自分の力で戦争を終わらせた英雄が求めるにふさわしい土地だと二つ返事で与えられたらしい。
 防波堤代わりの山といい、マノンといい、かなりちゃっかりしていると思うのは私だけだろうか。
 
 本来の貴族女性はお風呂の際侍女に全身隅々まで洗われるものだが、クロウツィアは使用人に肌を触られるのを嫌がってさせていなかった。もちろん私もお風呂は一人で入りたいので訂正していない。

 勿論この湯船から一歩出れば、衝立の向こうで待機しているカーラ達侍女軍団が私をタオルでくるんで服を着せにかかってくるのだが、ドレスを一人では着られないのであきらめるしかない。

 全身くまなく整えられて、髪はツインテール。毛先は元々クセッ毛で巻き気味なのを更に巻いてロール状にされた。
 ドレスは瞳と同じ紫。黒髪に紫って禍々しいと思うんだけど、鏡に映ったクロウツィアには良く似合っている。装飾やレースに黒を使っているのも原因だと思うけど。
 微笑むと、ニッコリってよりニヤリって感じで妙に何か企んでそうに見える。
 お化粧で目じりに紫が施されて赤い口紅を塗られると、14歳とは思えない色気がある。
 スチルで見た悪役令嬢クロウツィアにそっくりだ。とか思ってドレスをつまんでひらひらさせたり背を向けてして鏡相手に遊んでいたら、カーラに冷ややかな眼で見られていた。恥ずかしい。

「お父上がいらっしゃいましたので、そろそろよろしいでしょうか?」
「……はい」

 



 
 
 








 
 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

良くある事でしょう。

r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。 若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。 けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。

処理中です...