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異世界転生ー私は騎士になりますー
14 華やかなダンスレッスン
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お茶会が終わったらダンスレッスンだ。
お相手は私が務め、ミルフェ夫人は椅子に腰掛けて私達の様子を見ている、そしてその周囲を侍女達が四人で固め、そこからダンスホールをグルリと使用人達が1メートル置きに待機して私達のダンスレッスンを監視している。
この緊張感はどう考えても令嬢令息のダンスレッスンを見守る体勢ではない。
シェイルは夜会に出た事は無く学園の授業でのダンスレッスンは禁止されていたらしい。
禁止って何したの!?
とか思っていたら初日で判明した。
なんとシェイルはダンスの途中で私を投げ飛ばしたのだ。
油断していた私はシャンデリアにぶつかりかけたし、激突は避けたものの木に登った猫のように暫く葡萄の房のような形のシャンデリアの上に座り込んだまま降りられなかった。
それをあいつは「ごめん手が滑った」だと。ごめんで済めば騎士団はいらんわ!
それからはこの厳戒体制だ。
ダンスというのは大体男性が女性を抱き込みながら曲に合わせてクルクル回ったり、軽く持ち上げたりするものだが、シェイルの場合はそれに緊張と鍛えすぎた膂力が暴走して、回れば高速回転、持ち上げればそのまま飛ばされる。
ダンスレッスンを禁止される筈だ。これでは危なくて普通のご令嬢のパートナーは務められない。
「お兄様、ちゃんと曲を聴いて! ゆっくり、そう。痛っ力入れすぎ。もっと優しく!」
デビュタントまで後数日に迫った今日になって、私がボソボソと細かく指示をする事で、漸く多少スムーズに踊れるようになってきた。
夜会では基本同伴者と最初に一回、その後はパートナーを変更しつつ4回程踊るのが基本だ。
よっぽど仲の良い恋人同士でもない限り同じ相手と踊り続けることは不審がられてしまうので、ずっと私が張り付いている訳にはいかない。
私は婚約者であるウィルと最低一度は踊るのが礼儀として決まっている。
ヒロインが現れてからならともかく、今のウィルが他人とばかり踊るとは考えにくいので、最低一回分、シェイルは他のご令嬢のパートナーを務める必要があるのだ。
より常識的に考えるなら二回は他人と踊れるようになって欲しい。
うぅ、時間が無いのは分かっているんだけど、休憩しないと身体がもたないかも。
シェイルに抱き潰されそうになるのを耐えながらクルクル回っているのでちょっと酔っているし、疲れた。
どう考えても普通にダンスを踊るのでは使用しない筈の筋肉に負荷がかかりまくっている。
さっき食べたクッキーやお茶が出ちゃいそう。明日は順番を逆にして貰おうかな。
そう思っていると音楽がふっと止まった。
ミルフェ夫人を見ると、手を軽く挙げて音楽を奏でていた使用人達を制していた。
頭1つ上位の位置にあるシェイルの口から、ヒィという引き攣った声と共に私の腰に添えられた手に力がこもった。
「お兄様、怖いからって力を入れないで」
お陰で私の身体がちょっと浮いてるから! 降ろせ。
「シェイル様。お次は私がお相手を務めさせていただきますわ」
なんですと!?
ミルフェ夫人の言葉に、間違いなくこの室内に居る者全員の心が1つになった瞬間だった。
「危険です。おやめください」
ミルフェ夫人の隣に立っていたカーラが制止しようとしているが、ミルフェ夫人は構わず椅子から立ち上がり近づいて来ている。
「シェイル様、夜会は社交の場であって戦いの場ではありません」
当たり前でしょ!
と言いたかったが、シェイルの衝撃を受けたような顔に何も言えなくなった。
マジかよ。
「貴方の腕の中に立つのはか弱いご令嬢なのだという事をお忘れなく」
なんだか私はか弱く無いと断じられた気がする。確かにか弱くは無いけど、何故だろう、解せない。
シェイルの腕が緩んだので、そっと離れると、ミルフェ夫人が微笑みながら手を差し伸べた。
「一曲お相手下さいませ」
シェイルが私とミルフェ夫人を見比べてオロオロと躊躇っていると、夫人が笑みを深めながら囁いた。
「女性に恥をかかせるものではありません」
目にも止まらぬ速さでシェイルの手がミルフェ夫人の手を両手ですくい上げた。
私からは上下が逆の「お手」にしか見えなかった。
中々上達しないシェイルに焦れて疲れていたのは確かなので、有り難く交代して休憩させて貰う事にした。
監視も使用人達に任せて私はミルフェ夫人が座って居た椅子に腰掛けて見物の体勢を取る。
いざとなれば彼等がなんとかしてくれるだろう。
使用人たちの顔が私がお相手の時以上の緊張感を帯びる。私の時に気を抜いていたわけでは無いのは分かっているが、私のことをどう思っているかが分かるな……。
結果的に言うと、再開したダンスレッスンは思いの外大成功だった。
まるでマリオネットのように動きがカクカクしていたり、ミスる度にびくりとシェイルの肩が跳ねたり、何事かミルフェ夫人に囁かれては顔を青くしているのを除外すればだが。
それから毎日シェイルのお相手はミルフェ夫人が務める事で決まった。
シェイルは真っ青な顔で全力で拒否していたけど全員で無視した。
お相手は私が務め、ミルフェ夫人は椅子に腰掛けて私達の様子を見ている、そしてその周囲を侍女達が四人で固め、そこからダンスホールをグルリと使用人達が1メートル置きに待機して私達のダンスレッスンを監視している。
この緊張感はどう考えても令嬢令息のダンスレッスンを見守る体勢ではない。
シェイルは夜会に出た事は無く学園の授業でのダンスレッスンは禁止されていたらしい。
禁止って何したの!?
とか思っていたら初日で判明した。
なんとシェイルはダンスの途中で私を投げ飛ばしたのだ。
油断していた私はシャンデリアにぶつかりかけたし、激突は避けたものの木に登った猫のように暫く葡萄の房のような形のシャンデリアの上に座り込んだまま降りられなかった。
それをあいつは「ごめん手が滑った」だと。ごめんで済めば騎士団はいらんわ!
それからはこの厳戒体制だ。
ダンスというのは大体男性が女性を抱き込みながら曲に合わせてクルクル回ったり、軽く持ち上げたりするものだが、シェイルの場合はそれに緊張と鍛えすぎた膂力が暴走して、回れば高速回転、持ち上げればそのまま飛ばされる。
ダンスレッスンを禁止される筈だ。これでは危なくて普通のご令嬢のパートナーは務められない。
「お兄様、ちゃんと曲を聴いて! ゆっくり、そう。痛っ力入れすぎ。もっと優しく!」
デビュタントまで後数日に迫った今日になって、私がボソボソと細かく指示をする事で、漸く多少スムーズに踊れるようになってきた。
夜会では基本同伴者と最初に一回、その後はパートナーを変更しつつ4回程踊るのが基本だ。
よっぽど仲の良い恋人同士でもない限り同じ相手と踊り続けることは不審がられてしまうので、ずっと私が張り付いている訳にはいかない。
私は婚約者であるウィルと最低一度は踊るのが礼儀として決まっている。
ヒロインが現れてからならともかく、今のウィルが他人とばかり踊るとは考えにくいので、最低一回分、シェイルは他のご令嬢のパートナーを務める必要があるのだ。
より常識的に考えるなら二回は他人と踊れるようになって欲しい。
うぅ、時間が無いのは分かっているんだけど、休憩しないと身体がもたないかも。
シェイルに抱き潰されそうになるのを耐えながらクルクル回っているのでちょっと酔っているし、疲れた。
どう考えても普通にダンスを踊るのでは使用しない筈の筋肉に負荷がかかりまくっている。
さっき食べたクッキーやお茶が出ちゃいそう。明日は順番を逆にして貰おうかな。
そう思っていると音楽がふっと止まった。
ミルフェ夫人を見ると、手を軽く挙げて音楽を奏でていた使用人達を制していた。
頭1つ上位の位置にあるシェイルの口から、ヒィという引き攣った声と共に私の腰に添えられた手に力がこもった。
「お兄様、怖いからって力を入れないで」
お陰で私の身体がちょっと浮いてるから! 降ろせ。
「シェイル様。お次は私がお相手を務めさせていただきますわ」
なんですと!?
ミルフェ夫人の言葉に、間違いなくこの室内に居る者全員の心が1つになった瞬間だった。
「危険です。おやめください」
ミルフェ夫人の隣に立っていたカーラが制止しようとしているが、ミルフェ夫人は構わず椅子から立ち上がり近づいて来ている。
「シェイル様、夜会は社交の場であって戦いの場ではありません」
当たり前でしょ!
と言いたかったが、シェイルの衝撃を受けたような顔に何も言えなくなった。
マジかよ。
「貴方の腕の中に立つのはか弱いご令嬢なのだという事をお忘れなく」
なんだか私はか弱く無いと断じられた気がする。確かにか弱くは無いけど、何故だろう、解せない。
シェイルの腕が緩んだので、そっと離れると、ミルフェ夫人が微笑みながら手を差し伸べた。
「一曲お相手下さいませ」
シェイルが私とミルフェ夫人を見比べてオロオロと躊躇っていると、夫人が笑みを深めながら囁いた。
「女性に恥をかかせるものではありません」
目にも止まらぬ速さでシェイルの手がミルフェ夫人の手を両手ですくい上げた。
私からは上下が逆の「お手」にしか見えなかった。
中々上達しないシェイルに焦れて疲れていたのは確かなので、有り難く交代して休憩させて貰う事にした。
監視も使用人達に任せて私はミルフェ夫人が座って居た椅子に腰掛けて見物の体勢を取る。
いざとなれば彼等がなんとかしてくれるだろう。
使用人たちの顔が私がお相手の時以上の緊張感を帯びる。私の時に気を抜いていたわけでは無いのは分かっているが、私のことをどう思っているかが分かるな……。
結果的に言うと、再開したダンスレッスンは思いの外大成功だった。
まるでマリオネットのように動きがカクカクしていたり、ミスる度にびくりとシェイルの肩が跳ねたり、何事かミルフェ夫人に囁かれては顔を青くしているのを除外すればだが。
それから毎日シェイルのお相手はミルフェ夫人が務める事で決まった。
シェイルは真っ青な顔で全力で拒否していたけど全員で無視した。
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