悪役令嬢? いえ私は、騎士になります。

桜咲 京華

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異世界転生ー私は騎士になりますー

18 デビュタント開始

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「ヴィラント侯爵家、シェイル様、並びにクロウツィア様!」

 進行役の声を合図にカーテンから二人でゆっくりと歩み出すと、周囲からどよめきが広がった。よく聞き取れないけれど悪い反応というわけではなさそうなので愛想笑いをしておく。

 豪奢な装飾で彩られた広いホールの中は、王族やデビュタントの立つ為の一段高い円形の舞台を中心に扇状に広がっている。
 私達の出発地点はその舞台の脇だ。
 反対側の舞台脇には音楽を演奏する為に楽器と、それを演奏する者達が配備されていて、今は入場の為の曲を演奏するピアニストだけが演奏していた。

 シェイルのエスコートに従って舞台を半円状に迂回しながら壇上に立つウィルの様子を見ると眼が合った。

 二人とも白の衣装が良く似合っている。ウィルは青い髪と白い衣装がお互いの色を鮮やかに引き立てていて女性的ではないのに男性的でもない華やかさがある。レイチェル様は、王家の花とされるパメリスを象ったコサージュを用いたドレスを煌びやかに着飾っていてとても綺麗だ。
 そのウィルとレイチェル様が揃ってすっごい見てくる。
 進行上話しかけるわけにもいかないので愛想笑いをしてから、設置されている階段を登って促されたウィル達の斜め後ろの位置に立つ。

 用があるのかもしれないが、どちみち全員の入場が終われば王族と挨拶を交わす流れにあるので、後で良いだろう。

 ウィルとレイチェル様は後ろから見ると全然体格が違う。
 単体で見ると華奢な印象のあるウィルだけど、骨格がしっかりしていて肩幅も広いし、背もレイチェル様よりほんの少し高い。並んで立つ姿を見た後なら、例えまたレイチェル様がウィルに扮しようとも一目で見抜けるだろう。

「カルムーラ侯爵家、アティナ様、並びにカーシアス様!」

 私達は二人ともデビュタントなので長男扱いになるシェイルが先に呼ばれたが、それ以外は男女関係なくデビュタントが先に呼ばれる。
 カーシアス様のエスコートで歩くアティナ様は自信満々という笑顔でウィルの方をじっと見ているが、ウィルの方はと見てみると、斜め前なのではっきりしている訳では無いが頭部に動きが無いので特に注意を払っていない印象を受ける。そうこうするうちにアティナ様達もウィルの後ろ側に立つように促されて立って居た。
 私達とはウィル達を挟んで反対側だ。

「メルクリアス伯爵家、シェリー様、並びにゲイル様」

 続いて現れた二人はとても対照的なパートナーだった。ゲイル様は周囲に愛想を振りまいているが、シェリー様は俯きがちに斜め下の足元をじっと見ている。並んだ場所は私達の隣だった。

「ケースコート伯爵家……――」






 控室に居た面々は順にウィル達を中心にして左右対称に広がるように並ばせられ、全員そろったところで全員で一礼をする。拍手で迎えられた後は王族との挨拶だ。

 ウィル達の方へと歩み寄り、シェイルと揃って一礼をしてから顔を上げると、ウィルもレイチェル様も見たことも無い程完璧な愛想笑いをしていた。

 同じ顔をした美形兄妹って迫力である。

 このタイミングで会話が出来ると思ってたけれど、よくよく考えればここは全参加者が注目する舞台の中心地だったと個人的な会話は諦めて。私も愛想笑いをする。
 シェイルを見ればこれまた見たことも無い愛想笑い。ウィル達のよりよっぽど貴重な作り笑顔に思わず注目してしまう。ミルフェ夫人の教育凄いな。

「お初にお目にかかります、ウィンスター様、レイチェル様。先日ヴィラント侯爵家に迎えられましたシェイルと申します。妹のクロウツィア共々、どうかよろしくお願い致します」
「先日はありがとうございましたウィンスター様。レイチェル様も、改めてよろしくお願い致します」

 シェイルが何十回と練習したセリフを能動的に話す。私はこの場で話すことは然程ないので端的な挨拶で済ませる。

「僕の方こそよろしくシェイル殿。今後は義弟として仲良くしてくれると嬉しい。喜んでくれて何よりだよローツィ。後でゆっくり話をしよう」

 そういえば、もしウィルと本当に結婚したらシェイルとは義兄弟になるのかーと考えていると、ウィルがレイチェルの方を向いた。
 レイチェルの笑顔が一瞬だけ引きつった。
 順番的には彼女も何か話をしてくれる筈だが、これはかなり嫌がっているな。
 流石にこの場所で婚約者なんて認めないとか騒ぎ出さないだけの理性はあるようだけど。

「……これからもこういう場でお話をさせていただくでしょうし、よろしくお願い致しますわ」

 それは、社交場でしか会わないと遠回しに言いたいようだ。笑顔だが眼が笑っていない。
 何はともあれ私達の挨拶は無事終わったので元の位置に戻る。

 次はアティナ様達の番だ。どんなことを話すんだろう。

「なぁ、クロウツィア」
「シッ私語は謹んで下さい。後で聞きますから」

 このタイミングで話しかけるなよ、彼らの会話が聞こえないじゃないかという意思をこめて注意すると、シェイルがムッ口を噤んだ。
 アティナ様はウィルの方を一心に見つめて何かしらアピールしているようだが、ウィルは遠回しに断っている。
 まぁ婚約者が居る横で元婚約者候補と約束を取り付けるなんて非常識な真似は、万が一ウィルに下心があったとしてもこの場で了承することは無いだろうに、アティナ様ってやっかいな上に短絡的なようだ。
 レイチェル様は頑なにしゃべろうとしないし、ウィルも強要したりはしないようだ。
 そのうち、時間が押すのを嫌った進行役が咳払いをすると、パートナーのカーティス様が少し強引に元の場所に連れて行った。

 シェリー様はなかなか話そうとしないのを、パートナーのゲイル様が促してようやくボソボソと話し出すといった様子だった。

 他のデビュタント令嬢令息達も全員挨拶を終えた所で、全員が最初の配置に戻った。

「では……」
「少し待ってくれ。ここで大事な発表をしたい」

 進行上ではこの後デビュタント達は舞台の端によけ、ウィルとレイチェル様のダンスを披露する流れの筈だったが、ウィルが遮ったので進行役の男性が呆けた顔をしてしまっている。

 一体何を言い出すつもりなのか。

 と思っていると、ウィルがこちらに向かって歩いてきた。まさかいきなり婚約破棄とか!? 
 意図が分からず思わず元々シェイルの腕に添えていた手を服を掴むように握りしめてしまう。

「ローツィ、おいで」

 何となく怖いけれど、名指しで呼ばれては仕方がないので、そっとシェイルから離れると、差し出されたウィルの手を取る。レイチェル様を含むご令嬢達から小さく悲鳴のような声が響いた。

 促されて連れていかれたのは舞台の中心で、無理矢理ではないけれど腰に力をこめられて寄り添うように立たされる。

「故あってエスコート出来なかったので、改めて紹介させていただきたい。先日婚約を結んだクロウツィア嬢とは良好な間柄を築いているのですが、ご理解いただけていないようですのでこの場をお借りして再度、彼女との婚約を発表させていただく」

 彼の爽やかな笑顔を纏う愛らしい唇からもたらされた言葉が信じられなくて、思わず彼の方を見た。

 











 
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